大尉の娘 (戯曲)

大尉の娘

『大尉の娘』は、中内蝶二による戯曲、およびそれを原作とした複数の映画作品を指します。1917年（大正6年）から1936年（昭和11年）にかけて、様々な監督によって映画化されました。特に、初代水谷八重子が舞台で露子役を演じたことで広く知られ、彼女の代表的な当たり役の一つとされています。

戯曲と初演

戯曲『大尉の娘』は、ドイツ映画『憲兵モエビウス』を基に中内蝶二が書き下ろしました。初演時期は明確ではありませんが、1922年（大正11年）6月に井上正夫一座が明治座で上演し、井上正夫の大尉役と花柳章太郎の露子役が好評を博しました。翌年には、初代水谷八重子が浅草の御国座で初演し、父親役を井上正夫が務めました。

映画化の歴史

1917年（大正6年）に小林商会が最初の映画化を行い、その後もリメイクが重ねられました。1929年（昭和4年）の映画化では、初めて水谷八重子自身が露子役を演じました。1936年（昭和11年）の映画化では、八重子の舞台初演時に父親役を演じた井上正夫が再び出演しています。

現存するのは、新興キネマが製作した最後の映画版のみで、東京国立近代美術館フィルムセンターに所蔵されており、上映されることもあります。

あらすじ

物語の舞台は大正時代中期の長野県、木曾に近い山深い村。退役軍人の森田慎蔵は、教師として静かに暮らしています。彼の娘・露子は、村長の甥である六松と恋仲になりますが、身分違いのため結婚は許されません。二人の間には子供が生まれますが、その子は里子に出され、露子は東京へ出ます。

数年後、奉公先から里帰りした露子は、偶然にも六松の結婚を知ります。嫉妬に駆られた露子は、婚礼の夜に火を放ち、花嫁を焼死させてしまいます。六松の婚礼に出席していた慎蔵は、火事の現場で露子の草鞋を見つけ、娘が犯人であると悟ります。苦悩の末、慎蔵は娘に死を諭し、覚悟を決めた露子を絞殺。自らも自害するという、悲劇的な結末を迎えます。

各映画版の情報

1917年版

監督: 井上正夫
脚本: 篠山吟葉
原作: 中内蝶二
製作: 小林商会
キャスト: 井上正夫、木下吉之助、藤野秀夫、松永猛

1924年版

監督: 野村芳亭
脚本: 武田晃
原作: 中内蝶二
製作: 松竹蒲田撮影所
キャスト: 藤野秀夫、柳さく子、奈良真養、藤間林太郎、東栄子、岡田宗太郎

1927年版

監督: 井上金太郎
脚色: 秋篠珊次郎
原作: 中内蝶二
製作: マキノ・プロダクション御室撮影所
キャスト: 関根達発、マキノ輝子、都賀清司、荒木忍、柳妻麗三郎、相生松子、津村博、金谷種子

1929年版

監督・脚色: 落合浪雄
原作: 中内諜二
製作: 発声映画社大森撮影所
キャスト: 加藤精一、水谷八重子、田辺若男、根本淳、宮島啓夫、市川啓夫、西条静子

1936年版

監督: 野淵昶
原作: 中内蝶二
劇化: 落合浪雄
製作: 松竹興行現代劇部・芸術座・新興キネマ東京撮影所
キャスト: （詳細なキャスト情報は割愛）

備考

『大尉の娘』は、親子の情愛、社会的な制約、そして嫉妬や絶望といった人間の複雑な感情を描いた作品として、時代を超えて人々の心を揺さぶります。

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