大沼哲

大沼哲（おおぬま さとる）

大沼哲は、1889年（明治22年）に山形県米沢市で生まれ、1944年（昭和19年）にフィリピン沖で戦没した日本の陸軍軍人、作曲家、指揮者です。最終階級は陸軍軍楽少佐。音楽好きの父の影響を受け音楽に親しみ、後に軍楽の道に進みました。

生涯

米沢工業学校を卒業後、音楽への情熱を抑えきれず上京。1907年（明治40年）に陸軍戸山学校に入校し、軍楽兵としてのキャリアをスタートさせました。戸山学校では首席で卒業し、恩賜の銀時計を授与されるほどの秀才ぶりを発揮しました。

1912年（大正元年）には、イギリス演奏旅行のメンバーに選ばれなかったことを機に、フランス語を習得。音楽への探求心を深めました。また、武井守成が率いるマンドリン合奏団『オルケストラ・シンフォニカ・タケヰ』では指揮者としても活躍し、その才能を発揮しました。

1925年（大正14年）には、フランスへ留学し、スコラ・カントルムでヴァンサン・ダンディに師事。作曲技法を磨きました。帰国後は戸山学校軍楽隊長を務め、太平洋戦争（大東亜戦争）中は南方軍総司令部軍楽隊長として従軍しました。

1943年（昭和18年）には、陸軍軍楽隊では初となる少佐に昇進。しかし、1944年（昭和19年）10月、フィリピン防衛戦の最中に乗船していた輸送船「白鹿丸」が撃沈され、25名の隊員と共に戦死しました。生存者の証言によれば、沈没後もドラム缶で筏を作り、隊員を励ましていたと伝えられています。

音楽家としての功績

大沼は、フランス式喇叭鼓隊の導入や戸山学校でのソルフェージュ教育など、日本の軍楽の発展に大きく貢献しました。また、作曲家としても才能を発揮し、山田耕筰がライバルとして警戒するほどだったと言われています。しかし、関東大震災や戦災によって多くの作品が失われ、現存する作品は行進曲などの吹奏楽曲が中心です。マンドリン作品も今日まで演奏されています。

主な作品

管弦楽曲

交響曲『平和』（1923年）（焼失）
『三つのヴァリエーションによる変奏曲（管弦楽小品三章）』（1915年）（不明）
『皇太子御成婚奉祝前奏曲』（1924年1月）
交響曲『夕映え―洋上にて』(1926年2月)（不明）
『マルシュ・オマージュ』（1927年）
『五つの舞曲による組曲』（1927年1月）（不明）
『昭和奉讃序曲』（1927年2月）
『チェロ協奏曲』(1927年2月)（不明）
『ピアノ協奏曲』（1929年1月）（不明）
『鎮守祭』（ピアノ版の編曲）
『子猫』（ピアノ版の編曲）
『可憐な乙女』（ピアノ版の編曲）

吹奏楽曲

『奉祝前奏曲』（1924年）
『立派な兵隊』（1924年）
『誓忠行進曲』（1925年)
『陸軍行進曲・その2』
『園遊曲』（1929年2月）（不明）
『少年戦車兵の歌』
『戦車の進撃』
『機甲団の歌』
『青年マーチ』
『進む日の丸』
『大歓喜』
『伸び行く日本』
『ツラン民族』
『安南王の行列』（吹奏楽意想曲）
『森の遊び』（吹奏楽意想曲）
『友と語らん』（吹奏楽意想曲）
『野営の篝火』（吹奏楽意想曲）
『従軍記者』（吹奏楽意想曲）
『質実剛健』（吹奏楽意想曲）
行進曲『精鋭』

マンドリンオーケストラ

『マンドリン・オーケストラのためのコンソラシオン（マンドリン五重奏曲）』（1915年）（焼失）
『マンドリン四重奏曲ハ長調』（1922年8月）（関東大震災により焼失）
『祝典序楽』（1924年）
『第一前奏曲』（1925年）
『夜の祭』（1925年）

室内楽曲

『幻の城・御三階』（1908年）（焼失）
『フルートとギターのためのパヴァーヌ（フルートとギターの重奏曲）』（1915年）（焼失）
『子猫』（ピアノ曲）
『可憐な乙女』（ピアノ曲）
『鎮守祭』（ピアノ曲）
『Un hiver（或る冬）』（1918年4月）
『皇太子御成婚祝宴曲』（1925年1月）
『ピアノ・ソナタ』（1926年2月）（不明）

歌曲

山形県立米沢商業高等学校創立二十周年校歌『雲に横たふ』（1922年3月）
『全国選抜中等学校野球大会歌』「陽は舞いおどる甲子園」（1934年3月）
童謡『興亜の鐘』
童謡『木の葉』（1938年12月）
『靖国神社』
『野営の篝火』

編曲

『靴が鳴る』
『敵は幾万』
『昭和の子供』
『出征兵士を送る歌』

教え子

石田一郎
菅原明朗
平尾貴四男
佐藤長助

参考文献

山口常光『陸軍軍楽隊史 - 吹奏楽物語り』三青社、1968年。
宮内孝子『作曲家 大沼哲の生涯 -日本のオーケストラ黎明・胎動期を偲ぶ-』音楽之友社、1993年。

外部リンク

大沼哲の公式サイト

関連項目

山口常光 - 元陸軍軍楽少佐
* 須摩洋朔 - 元陸軍軍楽大尉

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