大蔵善行

大蔵善行：平安前期の碩学、その生涯と業績

大蔵善行（おおくら の よしゆき）は、平安時代前期の貴族であり、卓越した学者としても知られています。玄蕃頭・大蔵麻呂の曾孫にあたり、豊前権介・大蔵浄明を父に持ちます。官位は従四位下・民部大輔にまで至りました。同時代の学者である菅原道真とは学界の双璧とされ、道真が「天神」と呼ばれたのに対し、善行は「地仙」と称されました。また、唐名として蔵外史大夫という名も持っていました。

学者としての業績

大蔵善行は、その学識の高さから朝廷に重用され、数々の要職を歴任しました。貞観18年（876年）には、勅命により蔵人所に出仕し、諸書類の校正を担当しました。また、清和天皇に近侍する若年者や宮中の好事家に対して、『顔氏家訓』を講義しました。その後、都良香の推薦により内記に任ぜられ、土佐権掾といった地方官も務めました。元慶6年（882年）には少外記に転じ、翌元慶7年（883年）には式部少丞・高階茂範と共に存問兼領渤海客使に任ぜられ、渤海使の応接にあたりました。

光孝天皇の時代に入ると、仁和元年（885年）に大外記に昇進し、延喜2年（902年）まで約20年もの間、この職を務めました。大外記は機密文書の作成を担う重要な役職であり、善行はその職務を忠実に果たしました。この間、仁和3年（887年）には外従五位下、仁和4年（888年）には従五位下、寛平9年（897年）には従五位上に叙せられるなど、順調に昇進を重ねています。また、備前大目・伊予権掾・播磨権大掾・三河権介・治部少輔といった官職も兼任しました。

宇多天皇の時代末期には勘解由次官に転じましたが、醍醐天皇の即位に伴い、再び大外記に復帰し、延喜2年（902年）に民部少輔に遷るまで務めました。その後、従四位下・民部大輔に至っています。また、『日本三代実録』『延喜格』『延喜式』といった重要な歴史書や法令の編纂にも携わりました。晩年には、延喜8年（908年）に致仕しましたが、延喜17年（917年）には東宮学士として、86歳という高齢で皇太子・保明親王に『漢書』を講義したと伝えられています。

教育者としての側面

大蔵善行は、学者としてだけでなく、教育者としても優れた才能を発揮しました。私塾を経営し、藤原基経、藤原時平、藤原忠平、平惟範、三統理平、紀長谷雄など、多くの著名な人物を育成しました。彼の門下からは、政界や学界で活躍する人材が多数輩出されました。かつては、菅原道真の私的学問所である菅家廊下に対抗する存在と想定されていた時期もありましたが、現在では否定されています。

その他の逸話

大蔵善行は、87歳で子をなし、90歳以上まで生きたという長寿の持ち主としても知られています。これは当時の平均寿命を大きく超えるものであり、彼の健康と長寿を物語る逸話として語り継がれています。

官歴

時期不詳：内記、土佐権掾
元慶6年（882年）2月3日：少外記
時期不詳：正六位上
元慶7年（883年）正月1日：存問渤海客使、2月21日：領渤海客使
仁和元年（885年）正月16日：大外記
仁和2年（886年）6月19日：兼備前大目
仁和3年（887年）正月7日：外従五位下
仁和4年（888年）11月25日：従五位下（内位）
寛平2年（890年）2月27日：兼伊予権掾
寛平4年（892年）日付不詳：兼播磨権大掾
寛平8年（896年）正月15日：治部少輔、大外記如元、2月23日：勘解由次官
時期不詳：三河権介
寛平9年（897年）7月17日：兼大外記、11月23日：従五位上（大嘗会）
昌泰元年（898年）日付不詳：兼次侍従
延喜2年（902年）2月23日：兼但馬介、9月15日：民部少輔
時期不詳：従四位下
延喜7年（907年）11月15日：見民部大輔
延喜8年（908年）2月9日：致仕
延喜17年（917年）日付不詳：東宮学士

系譜

父：大蔵浄明
母：不詳
妻：不詳
生母不明の子女：
男子：大蔵邦明
男子：大蔵是明
男子：大蔵真明

関連史料

『大日本史料』一の四（延喜十七年是歳条）

参考文献

『国史大辞典』吉川弘文館
阿倍猛『菅原道真 （歴史新書15）』教育社、1979年
坂本太郎『菅原道真 （人物叢書）』吉川弘文館、1990年
所功『三善清行 （人物叢書）』吉川弘文館、1989年
『新潮日本人名辞典』新潮社、1991年
『日本古代氏族人名辞典』吉川弘文館、1990年
滝川幸司『菅原道真 学者政治家の栄光と没落』中央公論新社〈中公新書〉、2019年。ISBN 978-4-12-102559-3

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