越前和紙

越前和紙は、福井県越前市今立地区（旧今立町）で製造されている和紙です。その品質、種類、量ともに全国一位を誇る和紙の産地として、長きにわたり生産が続けられています。特に、「越前奉書」と「越前鳥の子紙」は、国の重要無形文化財に指定されています。

概要

越前和紙は、麻紙（雲肌麻紙）、局紙（画用紙、版画用紙、賞状用紙、証券、紙幣など）、奉書紙、鳥の子紙、襖紙、小間紙、檀紙、画仙紙など、非常に豊富な種類の紙を製造する大規模な和紙産地です。中でも、画用紙として用いられる雲肌麻紙や白麻紙、MO水彩画用紙、神郷紙、版画用紙としての越前奉書、MO版画用紙は、国内外で高い評価を受けています。

主な産地は、越前市（旧今立町）の五箇地区（大滝町、岩本町、不老町、新在家町、定友町）です。

紙の抄造方法には、流し漉き、溜め漉き、半機械漉きの技術が用いられています。

原料

越前和紙の主な原料は以下の通りです。

主原料
楮（こうぞ）
三椏（みつまた）
雁皮（がんぴ）
麻（あさ）
綿（コットン - 綿植物 - アオイ科）
針葉樹パルプ
補助材料
トロロアオイ

歴史

和紙の抄造はじまりの地

越前和紙の起源は定かではありませんが、紙漉きの祖神である川上御前が越前市大滝町の岡太神社に祀られているという伝説があります。室町時代には、大滝寺の保護のもとで紙座（組合）が設けられました。江戸時代から昭和、平成にかけて、越前の襖紙は全国の需要の大半を占めていました。「越前奉書」や「越前鳥の子紙」は、公家や農工商階級の公用紙として広く用いられました。

紙の王

戦国時代にこの地を治めた支配者たちは皆、和紙を特産品と捉えていました。江戸時代に産地を支配した福井藩は、越前和紙を専売品として独占し、技術の保護や生産指導を行いました。1665年（寛文5年）には、越前奉書に「御上天下一」の印を使用することが許可されました。1684年（貞享元年）の『雍州府志』には「越前鳥子、是れを以て紙の最となす」とあり、1715年（正徳5年）成立の『和漢三才図会』では、「肌なめらかで書きやすく、紙質ひきしまって耐久力があり、紙の王と呼ぶにふさわしい紙」と記されています。1754年（宝暦4年）の『日本山海名物図会』には、「凡日本より紙おほ（多）く出る中に越前奉書、美濃直紙、関東の西ノ内、周防岩国半紙尤上品也、奉書余国よりも出れども越前に及ぶ物なし」とされています。

1873年（明治6年）のウィーン万国博覧会では、越前和紙の製品が「進歩賞」を獲得しました。2017年（平成29年）2月には、越前市内の蔵でその賞状とメダルが発見されました。

紙幣

日本最初の藩札とされる福井藩札は、越前和紙を使用して製造されました。後に丸岡藩札も越前和紙で発行されています。1868年（明治元年）、明治新政府は、それまでの各藩の藩札に代わり、日本統一の「太政官札」を発行しましたが、これに採用されたのも越前和紙でした。発案者は元福井藩士の三岡八郎（後の由利公正）でした。その後、新政府発行の紙幣はドイツ製洋紙に変更されましたが、紙質に問題があり、早急な改善が求められました。1875年（明治8年）に大蔵省抄紙局が設けられ、用紙の独自製造を再開すると、越前和紙の紙漉き職人が上京し、純国産の新紙幣用紙を局員と共に研究し、現在の紙幣につながる紙幣用紙製造の基礎技術を築きました。抄紙局で製造されたことから、現在でも局紙と呼ばれています。三椏局紙が有名です。越前和紙は偽札防止のための透かし技法（黒すかし）を開発したため、日本の紙幣製造技術は飛躍的に進化しました。1940年（昭和15年）には、大蔵省印刷局抄紙部の出張所が岩本（越前市岩本町）に設置されました。

現代

明治以降、日本画、版画、水彩画、油絵、水墨画、鉛筆画、パステル画など、多くの画材、素材の用紙（支持体）として画用和紙の需要が増加しました。石井柏亭、中西利雄、竹内栖鳳、横山大観、東山魁夷、平山郁夫ら多くの画家らにその品質が評価され使用されたことで、越前和紙は絵画製作に浸透するようになりました。1968年には、奉書づくりの技術が認められ、岩野市兵衛が重要無形文化財の保持者（人間国宝）として認定されました。その後も、平面作品制作の支持体として、また造形作品・立体作品の材料として使用されています。

一方で、現代の住宅環境の急速な変化に伴い、襖紙や小間紙の需要が減少しています。証券紙の電子化に伴う需要の減少と製造紙種の変更（合成紙など）など、和紙の需要は落ちてきており、機械漉き製造に伴う人員削減、廃業・撤退も相次いでいます。ただし、デジタルコンテンツの普及に伴い、インクジェットプリンター用、複合機印刷用の印画用和紙などの新たな需要も生まれています。住宅壁紙などのインテリアに和紙が活用されるなど、ペーパークラフト、工作、手芸など用途に応じた製造紙種は豊富になってきています。

2020年3月には、越前和紙産地の若手6社が集まり、期間限定のオンラインショップ「ワシマ」を開設するなど、新しい動きも見られます。他にも、福井県鯖江市・越前市・越前町で開催される、持続可能な地域づくりを目指した工房見学イベント「RENEW」にも2018年より参加企業が増えています。

越前和紙の名工

人間国宝（重要無形文化財の保持者）
8代岩野市兵衛（故人）
9代岩野市兵衛
福井県指定無形文化財
2代岩野平三郎（故人）
3代岩野平三郎（故人）
福田忠雄
その他の名工
岩野平三郎初代（故人）
沖茂八（故人）
沖桂司（故人）

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