孫恩の乱

孫恩の乱は、中国東晋末期の隆安3年（399年）に孫恩が起こした反乱であり、後の盧循の乱と合わせて孫恩・盧循の乱と呼ばれることもあります。この反乱は、当時の社会情勢や宗教的背景が複雑に絡み合って発生しました。

反乱前夜

孫恩の叔父である孫泰は、五斗米道の師である杜炅に師事し、その死後秘術を受け継ぎました。孫泰は民衆から神のように崇められ、人々はこぞって財産を差し出しました。しかし、会稽王司馬道子の進言により、孫泰は広州へ流されることになります。広州刺史の王懐之は孫泰に鬱林郡の職務を与えたため、そこの住民も彼に帰依するようになりました。

その後、太子少傅の王雅が孝武帝に孫泰の養性術の知識を伝えたため、孫泰は再び中央に呼び戻され、徐州の主簿、さらには輔国将軍・新安郡太守に任命されました。会稽王の世継ぎである司馬元顕も、孫泰に秘術を求めたとされています。

各地で戦が相次ぐ中、孫泰は晋の衰退を予感し、民衆を扇動して密かに仲間を集めました。三呉地方（呉郡・会稽郡・呉興郡）の士人や庶民がこれに従いました。当時の朝廷の士人たちは、孫泰が反乱を起こすことを恐れていましたが、彼が司馬元顕と親しかったため、誰もそのことを口に出すことができませんでした。しかし、会稽内史の謝輶が孫泰の陰謀を暴いたため、司馬道子は孫泰を処刑しました。

孫恩の蜂起

孫泰の死後、甥の孫恩は海上の島に逃れました。信徒たちは孫泰が死んだという知らせを聞き、彼が仙人になったと考え、島に赴いて物資を供給しました。孫恩は亡命者を集めて勢力を拡大し、復讐を誓いました。

隆安3年（399年）、司馬元顕の暴政により、呉郡・会稽郡の人々は安心して生活することができなくなっていました。孫恩はこれに乗じて海上から上虞を攻めて県令を殺害し、続いて会稽郡を襲って内史の王凝之（王羲之の子）を殺しました。この時、孫恩の軍勢は数万人に達していました。

この蜂起をきっかけに、各地の民衆が呼応し、孫恩の軍勢は短期間で数十万人に膨れ上がりました。孫恩は会稽を占領して征東将軍を名乗り、その一党を「長生人」と呼び、神のお告げと称して、自分たちに同調しない人々を殺害しました。

朝廷はこれに対し、衛将軍謝琰と鎮北将軍劉牢之を討伐に向かわせました。孫恩は劉牢之が浙江を渡ったことを知ると、男女20万人あまりを連れて海上に逃れました。その際、道端に財宝や子女を捨てていったため、無事に逃れることができたと言われています。朝廷は謝琰を会稽内史に任命し、徐州の文官・武官を指揮して海浦一帯の防衛にあたらせました。

会稽攻略再び

隆安4年（400年）、孫恩は再び余姚に侵入し、上虞を破って進撃しました。謝琰は副官の劉宣之を派遣してこれを破りましたが、数日後、孫恩は再び来襲し謝琰を殺害しました。朝廷は大恐慌に陥り、冠軍将軍桓不才、輔国将軍孫無終、寧朔将軍高雅之を派遣して攻撃させ、孫恩を海上に追いやりました。その後、劉牢之を会稽に駐屯させ、呉郡内史の袁山松に砦を築かせ、孫恩の襲撃に備えさせました。

孫恩軍の潰走

孫恩は再び浹口に上陸しましたが、高雅之は敗北。劉牢之の攻撃により、孫恩は再び海上に撤退しました。その後、孫恩は砦を襲撃し、袁山松を殺害。海上から京口へと向かいました。劉牢之は迎撃しようとしましたが間に合わず、孫恩が先着する形勢となりました。しかし、劉牢之の部下である劉裕が揚子江のほとりで孫恩軍を大破し、孫恩は再び船に逃げ込みました。

孫恩は兵を集めて首都に向かおうとしましたが、朝廷が軍隊を配置して待ち受けていたため、新洲まで進んだだけで退却しました。退却途中、揚子江北岸の広陵を襲撃して陥落させ、次いで海上に出て北に進路を取りました。劉裕は劉敬宣（劉牢之の子）と合流して追撃し、孫恩を遥か海上に追い払いました。

乱の鎮定

元興元年（402年）、桓玄が朝廷の実権を掌握すると、孫恩は再び臨海郡を襲撃しましたが、太守の辛景に迎撃され敗れました。追い詰められた孫恩は海に身を投じ、数百人の仲間が彼を「水仙」（水の仙人）と呼んで共に身を投げたと伝えられています。

残党は、孫恩の妹婿である盧循を首領として、その後も抗戦を続けました（盧循の乱）。

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