安井算知 (俊哲)

安井算知（やすい さんち）

安井算知（俊哲）（やすい さんち（しゅんてつ）、文化7年（1810年） - 安政5年7月4日（1858年8月12日））は、江戸時代後期の囲碁棋士であり、家元である安井家の九世安井算知として知られています。七段の腕前を持ち、上手と称されました。八世安井知得仙知の長男として生まれ、二世安井算知の名跡を継ぎました。伊藤松和、太田雄蔵、阪口仙得と共に「天保四傑」の一人に数えられ、その力強い碁は「無双の力碁」と評されました。また、十世安井算英の父でもあります。

経歴

安井算知は、江戸の両国薬研堀にあった安井家の屋敷で生まれました。幼名は金之助といい、後に俊哲と名乗りました。少年時代、安井家は本所相生町の本因坊家の屋敷に近かったため、姉の鉚（のちに二段）と共に本因坊家へ通い、囲碁の腕を磨きました。文政8年(1825年)に16歳で二段となり跡目となりました。御城碁に初出仕し、服部因淑に三子で中押勝を収めました。若い頃は、遊蕩に耽ることもありましたが、父である仙知は咎めることなく、碁で醜態を晒した時のみ叱責したと言われています（『坐隠談叢』より）。天保4年(1833年)に六段に昇段。天保8年(1837年)には七段に昇段しますが、手合割は六段のままであり、名目的な昇段でした。天保9年(1838年)に父である仙知が亡くなると、家督を相続し、九世安井算知となりました。

御城碁には、七世安井仙知の喪に服した天保8年を除き、安政4年(1857年)まで毎年出仕し、通算42局を勤めました。この出仕数は、本因坊烈元に次ぐ記録です。安政5年(1858年)には、弟子の海老沢健造（後の巌崎健造）と共に、関西地方を遊歴しましたが、帰路の沼津で病に倒れ、亡くなりました。当時12歳であった子の算英が、安井家を継ぐことになります。

棋風と戦績

井上幻庵因碩とは、互先、先相先で十数局の対局記録が残されており、算知が先番を持つ場合は打ち分けという結果でした。本因坊丈和とは、文政12年(1829年)の御城碁で二子で敗れ、父に叱責されたという逸話が残っています。天保4年の先二の先番では、4日をかけて1目勝ちを収めました。

10歳年少の本因坊秀和とは親しい間柄であり、130局あまりの対局記録が残っています。天保7年(1836年)に秀和先で初手合。その後、秀和の成長に伴い、天保8年には秀和先相先、翌年には互先、6月には算知先相先、天保10年には先二にまで打込まれましたが、14年には互先に戻りました。その後は、算知先相先と先を往復する関係となりました。ただし、御城碁での対秀和戦では、黒番で5勝、白番で1勝3敗という成績を残しています。両者の対局では、秀和の星打ちや、算知の三々、天元打ちなどが試みられていたことが知られています。

天保10年(1839年)の伊藤松和との対局は、405手という長手順で知られています（結果は伊藤松和の勝ち）。

門下

安井算知の門下からは、巌崎健造、鬼塚源治、奈良林倉吉、中村正平といった、当時「安井門四天王」と呼ばれた棋士たちが輩出されました。その他にも、田原恒三郎、中松松齋、石原常三郎、島村栄太郎といった五段の棋士たちがいました。巌崎健造は、明治時代にも活躍し、方円社の3代目社長を務めました。算英が10歳くらいの頃、健造が算英の碁を見ていた際、あまりに稚拙な手を打つので手を上げたことがあり、算英は泣いて母親に訴えましたが、算知は健造から事情を聞き、今後も遠慮なく殴ってくれ、算英の兄とも師ともなってくれと褒めたと言われています。

その他

安井家の一世安井算哲、二世安井算知、三世安井知哲の墓所は、元々京都の寂光寺にありましたが、宝永5年(1708年)の火災で焼失しました。算知はこれを嘉永5年(1852年)に江戸の深川浄心寺に改葬しました。

著作

『佳致精局』青黎閣 嘉永元年(1848年) （算知の打碁集）
『囲碁捷径』青黎閣 嘉永元年(1848年) （置碁、互先の定石集）

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