安西大都護府

安西大都護府：唐代の西域統治拠点

安西大都護府（あんせいだいとごふ）は、7世紀から8世紀にかけて、唐王朝が中央アジアの広大な地域を統括するために設置した重要な行政機関です。現在のトルファン市やクチャ市にあたる西州や亀茲に府が置かれ、タリム盆地を中心に東西トルキスタン一帯を管轄しました。北には北庭大都護府が置かれ、中央アジアにおける唐の勢力圏を二分していました。

安西大都護府の沿革

安西大都護府の歴史は、唐の西域進出とともに始まりました。

貞観14年（640年）: 唐の侯君集が高昌国を滅ぼし、その地に西州都護府が設置されました。
貞観22年（648年）: 太宗は安西都護府を亀茲城へ移し、郭孝恪を安西都護に任命。于闐・疏勒・碎葉を統括させ、これらは「四鎮」と呼ばれるようになりました。
貞観23年（649年）: 西突厥の乙毘射匱可汗が唐に求婚し、太宗はこれを許可。亀茲・于闐・疏勒・朱倶波・葱嶺の五国を分割し、結納品としました。
永徽2年（651年）: 亀茲を亀茲都督府とし、亀茲王の白素稽を右驍衛大将軍・亀茲都督に任命。安西都護府は高昌故地（西州）へと移転しました。
顕慶2年（657年）: 蘇定方が西突厥の阿史那賀魯を討伐すると、その地を分割して濛池・崑陵の2都護府が置かれ、種落を分けて州県を設置。これにより、西の波斯国（サーサーン朝）までの国々が安西都護府に隷属し、都護府治は高昌故地（西州）へ遷されました。
顕慶3年（658年）: 都護府治が亀茲都督府へ遷され、元の府治は再び西州となりました。
龍朔元年（661年）: 吐火羅国を始めとする西域諸国が唐に内属。唐は于闐国以西、波斯国以東の16国に都督を置き、80の督州、110の県、126の軍府を設置して安西都護府に管轄させました。
咸亨元年（670年）: 吐蕃の侵攻により安西都護府が一時陥落しました。
儀鳳年間（676年 - 679年）: 吐蕃が再び焉耆以西を攻撃し、四鎮が陥落しました。
長寿元年（692年）: 王孝傑・阿史那忠節が吐蕃を破り、再び亀茲・于闐など四鎮を奪還。亀茲に安西都護府が再置されました。
開元7年（719年）: 湯嘉恵が焉耆国を安西四鎮の一つとしました。
開元10年（722年）: 吐蕃が安西四鎮を攻略しました。
至徳元載（756年）: 安西都護府は鎮西と改名されましたが、後に再び安西に戻りました。この年、吐蕃が再び侵攻してきましたが、李元忠と郭昕らが守り抜きました。
上元元年（760年）: 河西軍鎮の多くが吐蕃によって陥落しました。
建中2年（781年）: 徳宗により、李元忠と郭昕がそれぞれ北庭大都護と安西大都護に任ぜられました。
貞元3年（787年）: 吐蕃が沙陀と回鶻を攻め、援軍のなかった北庭と安西は陥落しました。

安西四鎮と西域十六都督州府

安西都護府の管轄下には、重要な拠点として「安西四鎮」がありました。

1. 亀茲都督府: 亀茲国（現在のクチャ市）に設置
2. 毗沙都督府: 于闐国（現在のホータン市）に設置
3. 疏勒都督府: 疏勒国（現在のカシュガル市）に設置
4. 焉耆都督府: 焉耆国（現在の焉耆回族自治県）に設置

また、吐火羅やソグディアナなど、西域の諸国にも都督府や州府が置かれ、間接的な支配が行われました。これらは「西域十六都督州府」と呼ばれ、唐の西域支配を支える重要な要素でした。

安西都護を務めた主な人物

郭孝恪
高賢
裴行倹
閻温古
郭元振
郭虔瓘
郭昕

関連項目

安東都護府
安南都護府
北庭大都護府
都護府
西域
藩鎮

参考資料

『旧唐書』
* 『新唐書』

安西大都護府は、唐王朝の西域経営における重要な拠点であり、東西文化交流の架け橋としての役割も果たしました。その盛衰の歴史は、唐王朝の国力と密接に結びついていたと言えるでしょう。

もう一度検索