疏勒

疏勒（そろく）

疏勒（呉音：しょろく、漢音：そろく、拼音：Shūlè）は、かつてタリム盆地に存在したオアシス都市国家です。現在の中国新疆ウイグル自治区カシュガル地区のカシュガル市に位置し、タリム盆地の西端にあたります。古くからシルクロードの交易路の要所として栄え、東西文化の交流地点として重要な役割を果たしました。

歴史

前漢時代

匈奴がモンゴル高原を統一すると、タリム盆地の都市国家もその支配下に入りました。疏勒も匈奴の属国となり、匈奴の西辺日逐王によって統治されました。しかし、前漢の武帝時代には、衛青や霍去病によって匈奴が駆逐され、疏勒は前漢の支配下に入りました。

後漢時代

新末の動乱によって中国との国交が途絶えると、疏勒は一時的に最強の勢力を誇った莎車国の支配下に入ります。その後、于窴国が莎車国に反乱を起こし、莎車国は于窴国の支配下に入りました。この時期、疏勒国は独立を保ったか、あるいは于窴国の支配下に入ったと考えられています。

後漢の明帝の時代には、亀茲国が疏勒国を攻撃し、亀茲左侯を疏勒王に立てます。しかし、漢の軍司馬である班超が派遣され、この状況を覆し、新たな疏勒王を擁立しました。その後も、疏勒国は周辺諸国との間で複雑な政治状況を経験しました。班超の活躍により、疏勒国は漢の影響下に戻り、西域における漢の権威を確立する上で重要な役割を果たしました。

章帝の時代には、疏勒王が莎車国と密通し反乱を起こしましたが、班超によって鎮圧されました。班超は疏勒国を再建し、その後の西域経営に大きく貢献しました。安帝の時代には、疏勒王の安国が、月氏に移された母の弟に王位を奪われるという事件が起こりました。その後、疏勒国は周辺諸国との関係を保ちながら勢力を拡大し、亀茲国や于窴国と対立しました。後漢末期には、疏勒国は多くの周辺諸国を併合し、勢力を拡大しました。

三国時代

三国時代になると、疏勒国は周辺諸国を併合し、その勢力を拡大しました。この時期、疏勒国は地域における有力な国家として、その存在感を示しました。

北朝時代

疏勒国は早くから仏教を信仰しており、北魏に釈迦牟尼仏の袈裟を献上したという記録があります。この袈裟は、火に入れても燃えなかったという伝説が残っており、仏教に対する信仰心の篤さを物語っています。また、この時代には突厥の支配下に入り、年貢を納めるようになりました。

隋唐時代

隋代には、疏勒王が隋に朝貢しました。唐代になると、西突厥との関係が深まり、唐の安西都護府が設置されると、疏勒は「四鎮」の一つとして重要な地位を占めました。唐は疏勒王を正式に冊封し、疏勒は唐の影響下で安定した統治が行われました。しかし、その後、吐蕃、回鶻などの勢力が台頭し、支配者が交代する中で、10世紀後半にはテュルク系イスラム王朝のカラハン朝に征服され、仏教国であった疏勒はイスラム教に改宗しました。

習俗

疏勒国は農耕民族であり、農業が盛んでした。気候は温暖で、様々な農作物が栽培されました。また、細い氈や褐、氎などの織物が生産され、特産品として知られていました。住民はインド・ヨーロッパ語族系のコーカソイドであり、その風俗として、子を産むと頭を扁平にする習慣があったとされています。また、文身（刺青）をする風習があり、碧眼を持つ人が多かったようです。使用する文字はインド系の文字を基にしているものの、独自の変形が見られました。言語は周辺諸国とは異なっていたとされています。

疏勒は古くから仏教を信仰し、多くの寺院が存在しました。僧侶も多く、小乗仏教の説一切有部が信仰されていました。仏教の教義よりも、経典の暗唱が重視されていたようです。

また、疏勒では人の手足が六指であることが一般的であり、六指ではない子供は育てられなかったという特殊な風習がありました。

人口と兵数

前漢時代：戸数1510、人口18650人、兵士2000人
後漢時代：戸数21000、兵士3万人以上
北朝・隋代：兵士2000人

政治体制

疏勒の首都は疏勒城で、都城は方五里でした。国内には大小の城が多く存在し、侯や都尉などの役職がありました。唐代には、首都は迦師城に置かれました。

主な疏勒王

北朝時代の記録によると、疏勒王は金の獅子冠を被っていたとされています。また、唐代の記録では、王姓は裴氏で、自ら「阿摩支」と号したとされています。

以下は主な疏勒王の一覧です。

後漢代
成（? - 73年）
兜題（73年）
忠（73年 - 84年）
成大（84年 - ?）
安国（? - ?）
遺腹（? - ?） - 臣磐の弟の子
臣磐（? - 168年） - 安国の母の弟
和得（168年 - ?） - 臣磐の叔父
隋唐時代
阿弥厥（? - ?）
裴綽（? - ?）
裴阿摩支（? - ?）
裴夷健（? - ?）
裴安定（? - ?）
裴国良（? - ?）

参考資料

『漢書』（西域伝上）
『後漢書』（班超伝、西域伝）
『三国志』（『魏略』西戎伝）
『魏書』（列伝第九十 西域）
『隋書』（列伝第四十八 西域）
『北史』（列伝第八十五 西域）
『旧唐書』（列伝第一百四十四下、列伝第一百四十八 西戎）
『新唐書』（列伝一百四十下 西突厥、列伝第一百四十六上 西域上）
『大唐西域記』

関連項目

烏孫
于闐
焉耆
亀茲
康居
姑墨
西域
莎車
車師
大宛
大夏
大月氏
* 楼蘭

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