クチャ市

クチャ市：シルクロードの要衝、歴史と現代が交錯する地

クチャ市は、中国新疆ウイグル自治区アクス地区に位置する県級市です。古代には亀茲国として栄え、シルクロードの天山南路が通る要衝でした。豊かな歌舞の文化が花開き、オアシス都市として繁栄を極めました。現代では、石油や天然ガス資源が豊富であることから、西部大開発の重要な基地としての役割を担っています。

地理

クチャ市は、天山山脈南麓、タリム盆地の北縁に位置しています。アクス地区の東部に位置し、周辺の県や自治州と隣接しています。温帯大陸性気候に属しており、年間を通して乾燥した気候が特徴です。年間平均気温は11.4℃、年間降水量は64.5mmと少なく、晴天の日が多いのが特徴です。無霜期間は266日と長く、農業にも適した環境です。

歴史

漢代

紀元前2世紀頃、月氏が匈奴に敗れ、亀茲国を含む西域諸国は匈奴の支配下に入りました。前漢の時代になると、匈奴の勢力が衰え、亀茲国は前漢の朝貢国となりました。新の時代には、西域と中国の交流は一時途絶えましたが、後漢の時代には班超によって西域が平定され、再び中国の支配下に入りました。

魏晋南北朝時代

三国時代が西晋によって統一されると、亀茲国は再び中国王朝に朝貢するようになりました。五胡十六国時代には、前秦の苻堅によって仏僧鳩摩羅什が捕えられ、長安に連行されました。南北朝時代には、北魏や柔然の侵攻を受けましたが、朝貢は絶えることなく続けられました。その後、突厥の支配下に入り、突厥の称号を持つ王が派遣されましたが、中国王朝にも朝貢を続けました。582年には突厥が東西に分裂し、クチャは西突厥に属することになりました。

唐代

7世紀、唐は高昌国を滅ぼし、西域支配を強化しました。クチャにも安西都護府が置かれ、唐の支配下に入りました。しかし、8世紀には吐蕃の侵攻が相次ぎ、クチャも吐蕃の支配下に入ることとなりました。

天山ウイグル時代

9世紀には、モンゴル高原から移動してきたウイグル族が、タリム盆地に天山ウイグル王国を建設しました。旧亀茲国には亀茲回鶻が成立し、仏教を信奉し、独自の文化を築きました。ウイグル語やウイグル文字も発展しました。

カラハン朝時代と西遼時代

11世紀には、テュルク系のイスラム王朝であるカラハン朝の支配を受け、12世紀には西遼の支配下に入りました。西遼は契丹族が建てた国で、東カラハン朝を滅ぼし、クチャを含むタリム盆地を支配しました。

モンゴルの時代

13世紀、クチャはチンギス・カンによって征服され、モンゴル帝国の一部となりました。モンゴル帝国の分裂後、チャガタイ・ハン国の領土となり、モグーリスタン・ハン国としても知られるようになりました。16世紀には、ヤルカンド・ハン国の一部となりましたが、次第にイスラム神秘主義教団のホージャたちが実権を握るようになりました。17世紀にはジュンガルの支配を受けましたが、18世紀に清朝によって滅ぼされました。

清朝の支配

18世紀、清の乾隆帝はジュンガルを滅ぼし、その旧地を新疆と名付けました。クチャも清朝の支配下に入り、新疆の重要な地域となりました。しかし、19世紀には回民の反乱が起こり、一時的に反乱勢力の支配下となりました。その後、清朝によって反乱は鎮圧され、新疆省が設置されました。

ヤークーブ・ベク政権

19世紀後半には、コーカンドの軍人ヤークーブ・ベクがクチャを支配下に置きましたが、清朝の左宗棠によって鎮圧され、ヤークーブ・ベク政権は瓦解しました。

新疆省政府と東トルキスタン・イスラーム共和国

清朝滅亡後、新疆は軍閥の支配下に入りました。20世紀前半には、東トルキスタン・イスラーム共和国が一時的に成立しましたが、短期間で消滅しました。その後、中華人民共和国の成立に伴い、クチャは新疆ウイグル自治区の一部となりました。

行政区画

クチャ市は、4つの街道、8つの鎮、6つの郷を管轄しています。これらの行政区画は、地域の経済活動や住民の生活を支えています。

経済

クチャ市は、豊富な水土光熱資源に恵まれています。特にタリム盆地の石油と天然ガス開発において重要な基地となっています。天然ガスの埋蔵量は2兆m³、原油の埋蔵量は7億tに達し、タリム盆地における主要なエネルギー資源地帯です。また、石炭や岩塩の埋蔵量も豊富です。農業も盛んで、広大な耕地と可墾荒地を有しています。

交通

クチャ市は、南疆における交通の要衝でもあります。クチャ空港からはウルムチやアクスへの直行便が運航されています。南疆鉄路が市内を横断しており、石油や石炭運搬用の専用線も整備されています。吐和高速道路や国道も市内を通り、各地へのアクセスも容易です。

クチャ鎮

クチャ鎮は、クチャ市の中心となる地域です。アクス地区でアクス市に次ぐ第二の都市であり、多様な民族が共存しています。タリム盆地石油・ガス開発の中心地であり、「西気東輸」の出発点としても知られています。

遺跡

クチャ市は、国家歴史文化名城に指定されており、多くの遺跡が残されています。特に以下の遺跡は、クチャを訪れる際には外せない観光スポットとなっています。

• - スバシ故城：古代亀茲国の都城跡
• - キジルガハ石窟：仏教壁画が残る石窟寺院
• - クムトラ石窟：数多くの仏像や壁画が残る石窟寺院
• - アアイ石窟：キジルガハ石窟に並ぶ石窟群
• - シムシム石窟：仏教壁画が残る石窟寺院

クチャ市は、歴史的な遺跡と豊かな自然、現代的な発展が調和した魅力的な都市です。シルクロードの歴史を肌で感じながら、多様な文化に触れることができるでしょう。

参考資料

• - 『漢書』(西域伝)
• - 『後漢書』(西域伝)
• - 『三国志』『魏略』西戎伝
• - 『晋書』(四夷伝 西戎)
• - 『魏書』(第九十 西域)
• - 『周書』(列伝第四十二 異域下)
• - 『隋書』(列伝第四十八 西域)
• - 『北史』(列伝第八十五 西域)
• - 『旧唐書』(列伝第一百四十八 西戎)
• - 『新唐書』(志第三十 地理四、列伝第一百四十六上 西域上)
• - 『宋史』(列伝第二百四十九 外国六)
• - 玄奘『大唐西域記』(水谷真成訳、平凡社、1999年)
• - 山田信夫『北アジア遊牧民族史研究』(東京大学出版会、1989年)
• - 小松久男『世界各国史4 中央ユーラシア史』(山川出版社、2005年)

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