宗人府

宗人府：帝室を司る府

宗人府（ソウジンフ、拼音: zōngrén fǔ）は、帝室（宗人）に関わる事務を司った重要な機構です。明朝で初めて設置され、清朝にも引き継がれました。また、中華文化の影響を受けたベトナムにも同様の機関が存在しました。

本稿では、特に清代の宗人府を中心に、その詳細を解説します。

清代以前の宗人府

「宗人府」という名称の機関が初めて設置されたのは明朝ですが、その起源は南北朝時代（5～6世紀）の北斉に遡ります。北斉は「大宗正寺」という名称で同様の機能を果たす機関を設置しました。その後、北周から隋朝、唐朝へと引き継がれ、「宗正寺」または「大宗正府」という名称で存続しました。

明朝は建国初期の洪武3年（1370年）に「大宗正院」を設置し、これが洪武22年（1389年）に「宗人府」と改称されました。明朝の宗人府は、親王が長官（宗人令）を務めましたが、後に外戚や大臣が事務を代行するようになり、礼部の管理下に置かれるようになりました。

宗人府の主な役割は、皇帝の九族の属籍管理でした。具体的には、玉牒（帝王の族譜）の更新、宗室子女の嫡庶の区別、名字と封号の管理、家督爵位の相続権、生没時期、婚嫁状況、諡号と葬祭の記録管理などです。また、宗室からの陳情や要請を受け付け、その内容に基づいて皇帝に人材の抜擢や懲罰を奏請する役割も担っていました。

清代の宗人府

沿革

前史

清朝が成立する以前、瀋陽故宮に現存する大政殿は、国の大事を決定する際に使用された重要な場所でした。太宗ホンタイジの治世では「篤恭殿」と呼ばれ、ホンタイジと八人のベイレが国政を議論しました。

設置

順治9年（1652年）に宗人府衙門が設置され（「宗人府」自体はそれ以前から存在）、王爵から選任される「宗令」、ベイレまたはベイセ爵から選任される「宗正」、公爵または将軍から選任される「宗人」が同衙門の運営を担うことになりました。宗正と宗人はそれぞれ左右に分けられ、定員は各一名、合計五名と定められました。

啓心郎は、太宗ホンタイジ治世から登場した官職で、当初は理事官に相当する官職でしたが、順治9年（1652年）に宗人府衙門にも配置され、侍郎相当職となりました。漢文冊書の校正を行う「府丞」とともに宗人府の正官とされました。啓心郎の定員は満洲啓心郎が一名、漢啓心郎が二名の合計三名で、府丞は漢人一名のみでした。

この下に、郎中（定員六名）、員外郎（四名）、主事（三名）、堂主事（三名）、経歴（満洲旗二名、漢軍旗一名、合計三名）、筆帖式（24名）が配属されました。

変遷

当初、六部や宗人府などの総理は諸王やベイレが任命されていましたが、次第にその習慣がなくなり、啓心郎はその役目を失いました。順治15年（1658年）には六部が宗人府に先立って啓心郎を廃止し、康熙12年（1673年）には宗人府でも啓心郎が廃止され、満洲主事が代わりに設置されました。また、宗人府が啓心郎を廃止する一ヶ月前の7月には、宗人府に左司と右司が分設され、それぞれが左翼と右翼の宗室を管轄しました。

その後、康熙38年に郎中が減員され、雍正元年には進士から選任される漢主事が新設されました。雍正2年には、郎中が「理事官」、員外郎が「副理事官」に改称されました。

乾隆29年には府丞が宗室から選任されるようになり、乾隆53年にはビトヘシが委署主事に改められました。

所属機関

宗人府左司: 左翼の宗室およびギョロ氏の事務を管理。
宗人府右司: 右翼の宗室およびギョロ氏の事務を管理。
宗人府経歴司: 公文書の送受を担当。
宗人府当月司: 公文書の受け取りや事件の処理、堂印などの管理。
宗人府黄檔房: 黄冊、紅冊への登記と漢語訳を担当。
宗人府銀庫: 銀銭の出納を管理。
宗人府則例館: 『宗人府則例』修訂のための臨時機関。

関連機関

宗人府御史処: 宗人府事務の監察機関。

越南（ベトナム）の宗人府

中華文化の影響を受けたベトナムにも、同様の機構が設置されました。陳朝、黎朝、阮朝に宗人府が存在し、阮朝時代には「尊人府」と改称されました。

参照

清實錄
明史
清史稿
欽定古今圖書集成
* 欽定大清會典

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