寿々喜多呂九平

寿々喜多呂九平：時代劇に革新をもたらした脚本家

寿々喜多呂九平（すすきた ろくへい、1899年 - 1960年12月18日）は、昭和初期の映画界で脚本家、映画監督、映画プロデューサーとして活躍した人物です。彼は、ロクヘイ・ススキタ、加味鯨児、新妻逸平太、神脇満といった複数の名義を用いて作品を発表しました。

生涯

1899年（明治32年）に鹿児島県で生まれた寿々喜多は、浅草オペラに出入りする熱狂的なファン「ペラゴロ」となり、活動写真の看板屋としてキャリアをスタートさせました。1922年（大正11年）春、22歳の時に映画監督の山内英三の紹介で『実録忠臣蔵』の試写を観て、監督の牧野省三に感銘を受け京都へ。牧野が設立した「牧野教育映画製作所」の文芸部に入社します。

同居していた阪東妻三郎、二川文太郎、井上金太郎らと映画について議論を重ね、まだ無名だった阪東を牧野に推薦しました。1923年（大正12年）6月1日の「マキノ映画製作所」設立の翌月には、牧野・金森万象共同監督による市川幡谷主演作品『紫頭巾浮世絵師』で脚本家デビュー。阪東が初めて主演に抜擢された『鮮血の手型 前篇・後篇』をはじめ、同社でわずか1年の間に24作もの脚本を執筆しました。

寿々喜多のニヒリスティックな脚本は、従来の剣戟俳優との違いを明確にし、阪東を一躍スターダムに押し上げました。

マキノ映画製作所が東亜キネマと合併後、さらにマキノ・プロダクションとして再独立してからも、牧野省三のもとで56本もの脚本を執筆しました。1929年（昭和4年）7月25日に牧野が死去すると、翌1930年（昭和5年）に帝国キネマ演芸に移籍し、映画監督に転向。監督デビュー作は松本泰輔主演の無声映画『水戸黄門 遍歴奇譚』でした。1931年（昭和6年）、帝国キネマが新興キネマに改組されてからも監督として活躍し、1940年（昭和15年）には本名に似た「神脇満」名義で映画を監督しました。

1942年（昭和17年）の戦時統合で新興キネマが大映となり、終戦後しばらく消息不明となりますが、1946年（昭和21年）に京都映画社製作の短篇アニメ映画『魔法のペン』で脚本家として復活。1949年（昭和24年）には、マキノ雅弘らの制作プロダクション「CAC」が製作した阪東妻三郎主演映画『佐平次捕物帳 紫頭巾 前篇・後篇』で「原作」としてクレジットされています。

1951年（昭和26年）設立の宝塚映画で50代を過ごし、1953年（昭和28年）には野淵昶監督の『千姫』の脚本を執筆。翌1954年（昭和29年）には「ロクヘイ・ススキタ」名義で、『快傑鷹』全3作を13年ぶりに監督しました。これが監督としての遺作となります。1957年（昭和32年）には柳家金語楼の主演映画のプロデューサーとして、「神脇満」名がクレジットされました。

1960年（昭和35年）12月18日、61歳で死去。晩年は半身不随であったと伝えられています。

人物とエピソード

「ペラゴロ」だった寿々喜多が、マキノの門を叩いた際に持参したのは処女作『佐平治捕物帖・浮世絵師』でした。助監督兼雑用係として入社後、阪東妻三郎と意気投合し親友となります。

『鮮血の手形』は、寿々喜多が阪東のために書き下ろした脚本であり、『佐平治捕物帖』を発展させたものです。寿々喜多は浅草オペラ出身のアナキストであり、二川文太郎監督とのコンビで、『恐怖の夜叉』、『討たるる者』、『影法師』、『墓石が鼾する頃』、『雄呂血』など、阪東の人気を不動のものとする脚本を数多く執筆しました。

寿々喜多は当時、「旧劇は既に過去のものであり、青年から見放されていた。さればこそ、私は時代劇の世界へと、あえて身を投じた、未開拓の処女地に最初の楔を打つために」と語っていました。

寿々喜多の硬骨の姿勢は『雄呂血』（1925年）に、「世に無頼漢と称する者、そは天地に愧じぬ正義を理想とする若者にその汚名を着せ、明日を知れぬ流転の人生へと突き落とす、支配勢力・制度の悪ならずや」との字幕に現れていますが、これは当局の検閲でカットされました。また『討たるる者』でも、「仇討」の不毛さを嘆くセリフがカットされています。

寿々喜多呂九平は、時代劇に新たな息吹を吹き込み、映画史にその名を刻んだ人物として記憶されるでしょう。

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