尿蛋白

「尿蛋白」（にょうたんぱく）とは、尿中に含まれる蛋白質の量を測定する臨床検査です。この検査は、主に腎臓の健康状態を評価するために非常に重要視されています。腎臓は、体内の老廃物をろ過して尿を作り出す臓器であり、その機能が正常に働いているかを知る手がかりとなります。

蛋白尿が生じるメカニズム

健康な人の腎臓では、血液中の蛋白質は、腎臓のフィルターである糸球体（しきゅうたい）を通り抜ける際にほとんどがろ過されず、大きな分子のまま血液中に留まります。もし糸球体を通過して尿のもと（原尿）に入り込んだとしても、尿細管（にょうさいかん）と呼ばれる部分で大部分が再吸収され、血液中に戻されます。このため、健康な人が一日に尿として排泄する蛋白質の量は、通常100mg以下とごくわずかです。

しかし、腎臓の機能が何らかの原因で損なわれると、この仕組みがうまく働かなくなります。特に糸球体が傷つくと、本来ろ過されないはずの蛋白質が大量に尿中に漏れ出たり、尿細管の再吸収能力が低下したりすることで、尿中の蛋白質の量が増加します。このように尿中に異常な量の蛋白質が検出される状態を「蛋白尿（たんぱくにょう）」と呼びます。蛋白尿は、多くの場合、腎臓病の兆候として現れます。

尿蛋白の測定方法

尿中の蛋白質を測定する方法にはいくつか種類があり、それぞれ検出できる蛋白質の種類や感度が異なります。

試験紙法:
これは最も一般的で簡便な方法で、特定のpH指示薬が蛋白質によって変色する性質を利用しています。主に尿中の「アルブミン」という蛋白質を検出します。感度は比較的低く、尿中のアルブミン濃度がおよそ10〜20mg/dl以上の場合に陽性となることが多いです。

スルホサリチル酸法:
尿にスルホサリチル酸という酸を加える方法です。酸によって蛋白質（アルブミンやグロブリンなど）が変性し、酸の陰イオンと結合して沈殿物を形成する原理を利用しています。試験紙法よりも感度が高く、尿中の蛋白質濃度がおよそ5mg/dl以上で検出可能です。

煮沸法:
尿を加熱する方法です。蛋白質は熱によって変性し、凝固・沈殿する性質があります。主にアルブミンとグロブリンを検出できますが、感度は試験紙法よりもさらに低く、およそ20mg/dl以上の蛋白質濃度が必要となります。

蛋白尿が検出される様々なケース

尿蛋白が陽性となる場合でも、それが必ずしも重篤な腎臓病を示しているわけではありません。原因によっていくつかの種類に分類されます。

生理的な蛋白尿:
これは一時的なもので、病的な状態ではありません。例えば、激しい運動の後、熱いお風呂に入った後、発熱している時、あるいは特定の姿勢（立ちっぱなしなど）を取った場合に検出されることがあります。これらは腎臓自体に異常があるわけではなく、体の一時的な反応として蛋白質が尿中に増えるものです。

病的な蛋白尿:
これは何らかの病気が原因で生じる蛋白尿です。病気の原因の場所によって、さらに細かく分類されます。
腎前性蛋白尿:
腎臓よりも手前、主に血液中に異常があるために生じる蛋白尿です。異常な蛋白質が多量に作られたり、赤血球や筋肉が壊れて蛋白質が放出されたりすることが原因となります。例としては、多発性骨髄腫や白血病などで異常な蛋白質（M蛋白）が増加する場合、溶血性貧血や不適合輸血によるヘモグロビン尿、挫滅症候群や発作性ミオグロビン尿症によるミオグロビン尿、あるいは播種性血管内凝固症候群（DIC）などが挙げられます。
腎性蛋白尿:
腎臓そのものに病気がある場合に生じる蛋白尿です。これは蛋白尿の中で最も重要な分類です。
糸球体性蛋白尿: 腎臓のフィルターである糸球体が障害されて蛋白質が漏れ出る場合です。様々な糸球体腎炎、大量の蛋白質が漏れ出るネフローゼ症候群、糖尿病による腎障害（糖尿病性腎症）、アミロイドという異常なたんぱく質が沈着するアミロイド腎などが含まれます。
尿細管性蛋白尿: 尿細管の再吸収機能が障害されて、本来再吸収されるべき蛋白質が尿中に漏れ出る場合です。ファンコーニ症候群、ウィルソン病、急性尿細管壊死などが原因となります。
腎後性蛋白尿:
腎臓から尿が排泄される経路（尿管、膀胱、尿道など）に原因がある場合に生じる蛋白尿です。尿路の炎症や感染（細菌性尿道炎、膀胱炎、腎盂腎炎、間質性膀胱炎、精巣上体炎など）、あるいは結石や腫瘍によって尿の通り道から出血や細胞成分が混じることで、そこに由来する蛋白質が検出されるものです。

検査を受ける際の注意点

尿蛋白検査は、生理的な要因でも陽性になる可能性があるため、より正確な結果を得るためにはいくつかの点に留意が必要です。検査前日は、結果に影響を与える可能性のある激しい運動や長時間の入浴を避けることが推奨されます。また、尿が濃縮されやすく、生理的な要因の影響を受けにくい早朝に採取した尿（早朝尿）で検査を行うことが望ましいとされています。

もし尿蛋白が陽性と判定された場合でも、一度だけの結果で病気と決めつけるのではなく、時間をおいて再検査を行い、持続的な蛋白尿であるかを確認することが重要です。必要に応じて、より詳しい尿検査や血液検査、画像検査などが行われ、蛋白尿の原因を特定するための精密検査へと進むことになります。蛋白尿は、腎臓病や全身の様々な病気のサインである可能性があるため、陽性だった場合には必ず医師に相談し、適切な診断と治療を受けることが大切です。

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