山手トンネル

山手トンネルは、首都高速道路中央環状線の大井JCTから高松入口間を結ぶ、全長18.2kmの道路トンネルです。2015年 3月7日に全線が開通し、日本の道路トンネルとしては最長の長さを誇ります。世界でもノルウェーのラルダールトンネルに次いで2番目に長いトンネルです。

概要

山手トンネルは、首都高速中央環状線の一部として、大井JCTから高松入口までの区間に位置しています。その大部分は山手通りの地下を通り、大井JCTから五反田出入口の間では目黒川の地下を通っています。最深部は南品川換気塔付近で、地表から約55mの深さに達します。トンネルの約7割はシールド工法で建設されており、内回り・外回りそれぞれに2車線が設けられています。

このトンネルは、中央環状新宿線の高松側から順次開通し、2015年 3月7日に大井JCTまでの全線が開通したことで、関越自動車道の関越トンネルを抜いて日本最長の道路トンネルとなりました。

また、開通当初から5,000mを超える長大トンネルであり、全線開通後は五反田出入口から大井JCTの間で目黒川および京浜運河の下を通る水底トンネルとしての性質も持つようになりました。そのため、道路法により全区間で危険物積載車両の通行が禁止されています。

歴史

1992年：着工。
2007年 12月1日：BSデジタル放送局、BS11デジタルの開局記念特番『未来へのトンネル』の会場として使用。
2007年 12月22日：西新宿JCT - 熊野町JCT間が開通。
2008年：路内換気塔がグッドデザイン賞を受賞。
2010年 3月28日：大橋JCT - 西新宿JCT間が開通。
2015年 3月7日：大井JCT - 大橋JCT間が開通し、全線開通。

設備

山手トンネルは、地底深くを通る長大トンネルであるため、様々な防災・環境設備が設けられています。

管制関係

路側帯には100m間隔で非常電話が設置されており、管制室と連絡を取ることができます。また、同じく100m間隔で監視カメラが設置され、管制室で常にトンネル内の状況を把握しています。

消火設備

トンネル内には、消火用の水スプリンクラー設備と赤外線センサーを用いた自動火災検知機が25m間隔で設置されています。さらに、消火器・泡消火栓と押ボタン式火災報知機が、路側帯側に50m間隔で設置されています。トンネル上部は摂氏1,200度まで対応可能な耐火構造となっています。

避難設備

車道と区切られた避難通路と、350m以内ごとに地上へ避難できる非常口が設けられています。シールドトンネル区間では、円形のトンネルの中央よりやや下に床を造り、走行車線としています。このため、床下の空間が平常時には給気ダクト、火災発生時には避難通路として利用されます。避難の際は、車道左側の路肩部分の非常口から避難通路へ降りるらせん状の滑り台が用いられます。この構造は、東京湾アクアラインと同じです。避難通路には外部から新鮮な空気が送られており、避難者が再び煙に巻かれないよう配慮されています。開削区間では、内外のトンネルの間の空間が避難通路となり、車道右側に非常口が設置されることもあります。シールド区間からの避難者もこの空間に到達し、階段を登って地上の山手通りの中央分離帯へ脱出します。

換気設備

大橋JCT以北（中央環状新宿線）では横流方式が採用されています。この方式では、車道と並行して給気・排気ダクトを設け、トンネルの各所で同時に換気を行います。一方、大橋JCT以南（中央環状品川線）では縦流方式が採用され、自動車の流れを利用して進行方向に空気を流し、ある場所で一気に排気します。排気口はトンネル天井部に10m間隔で、給気口は下部に設置されています。シールド工法区間ではトンネル底部に、開削工法区間ではトンネル天井部に排気・給気ダクトを設けています。

換気所は、要町・中落合・上落合・東中野・本町・西新宿・代々木・神山町・大橋・中目黒・五反田・南品川・大井北の13か所に設置されており、浮遊粒子状物質(SPM)を80%以上、二酸化窒素を90%以上除去する機能を持つ電気集塵機と低濃度脱硝装置で浄化処理された排気を、消音装置を通して高さ45mの排気塔から上空約100mに放出・拡散します。浄化処理された排気は山手通りの空気よりも十分にクリーンであるため、排気塔がなくても大気汚染にはなりませんが、トンネル内の火災発生時に高温の煙をそのまま排気する必要があるため、地上での消火救援活動や沿道への影響を考慮して排気塔が設置されました。夏期にはトンネル内の温度が40度近くになる場合があるため、ドライミスト噴霧装置を数か所に設置し、換気運転とともにトンネル内の温度上昇を抑制しています。

ランプ・ジャンクション

西池袋出入口
中野長者橋出入口
西新宿ジャンクション
初台南出入口
富ヶ谷出入口
大橋ジャンクション
五反田出入口

これらの出入口は、山手通りの中央分離帯に設置されているため、五反田出入口を除き右側分合流となっています。五反田出入口周辺区間では、上下線のトンネルが立体交差しており、右側通行となっているため、左側分合流となります。東京外環自動車道東京区間のトンネルも同様に右側通行とし、左側分合流となる予定です。

交差する地下構造物

山手トンネルより下側

東京メトロ有楽町線
東京メトロ副都心線
都営地下鉄大江戸線（中井駅北側から西新宿五丁目駅西側にかけ並行）

山手トンネルより上側

東京メトロ東西線
東京メトロ丸ノ内線
京王線・京王新線
東急田園都市線
都営地下鉄浅草線
東京臨海高速鉄道りんかい線

都営地下鉄大江戸線との関係

大江戸線は山手トンネル着工前に開業していますが、一部区間で並行しています。この区間では、下部に大江戸線の単線トンネル2本、上部に山手トンネル2本と、合計4本のシールドトンネルが並んでいます。中井駅・東中野駅・中野坂上駅は、駅建設時に道路トンネル部分も同時建設しており、この区間は開削工法の箱形トンネルであるため、山手トンネルを走行する車からも容易に判別できます。駅部では、山手トンネル両方向の間の部分（中央分離帯に相当する部分）に、下部の大江戸線ホームと上部の改札階を結ぶエスカレーターやエレベーターが設置されており、山手トンネルの高さに階高が高い部分があることが確認できます。

難工事

山手トンネルの施工上で特に難しかったのは、既存構造物の基礎を別の支持杭に受け替えるアンダーピニングを要する箇所でした。特に、中野坂上交差点エリアの開削工法による約60mの工事は、完成まで10年を要する難工事として知られています。この区間は、直上わずか2mの位置に丸ノ内線が交差し、直下6mの位置に大江戸線が並走しているため、シールドマシンによる掘削は適用できず、アンダーピニング工法を用いて開削トンネルを掘る必要がありました。丸ノ内線のトンネルから薬液を注入して地盤を強化するとともに、丸ノ内線側面に沿って土留壁を施工しました。その後、丸ノ内線のトンネル下部に受桁を通す導坑を手掘りし、通した受桁を大江戸線のシールドトンネルを避けて掘削した鋼製の支持杭で受け替え、下部を開削するという、非常に繊細かつ大掛かりな工事でした。丸ノ内線トンネルの常時変状監視も行われ、上部構造物の丸ノ内線トンネルの沈下量はわずか1.2mm程度に抑えられ、丸ノ内線の運行に支障をきたすことなく工事が完了しました。

主な事故・障害等

2016年 4月6日：外回り西池袋出口付近で、軽自動車がエンジントラブルにより出火。トンネル内に煙が充満し、後続車両の運転手らが避難通路を利用して地上に避難しました。消火、換気が速やかに行われ、出火から2時間半後には通行止めは解除されました。
2018年 1月22日：東京都区部を襲った平成30年豪雪の中、外回り西新宿ジャンクションの上り坂でタイヤチェーンを装着していたトレーラーが動けなくなり、10時間以上にわたる大渋滞が発生しました。信号による山手トンネル流入抑止を行わなかったため、多くの車両がトンネル内で立ち往生し、乗員の一部は避難通路と避難階段を使って地上へ避難しました。翌23日、国土交通大臣が首都高速道路株式会社の社長が謝罪する事態となりました。
2019年12月8日：朝7時30分頃、西新宿換気所から黒煙が上がりました。原因は換気所の装置からの出火でした。

参考文献

浅井建爾『日本の道路がわかる辞典』（初版）日本実業出版社、2015年。

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