岩屋城の戦い

岩屋城の戦い

岩屋城の戦いは、安土桃山時代に、九州制覇を目指す島津氏と、これに抵抗する大友氏の家臣・高橋紹運との間で繰り広げられた攻城戦です。この戦いは、その激しさから後世にまで語り継がれています。

背景

天正12年（1584年）、沖田畷の戦いで龍造寺隆信を討ち取った島津氏は、龍造寺氏を傘下に収め、急速に勢力を拡大しました。この勢いに乗じて、肥後の隈部親永・親泰父子、筑前の秋月種実、東肥前の筑紫広門といった小勢力が島津氏に服属あるいは和睦し、その勢力は九州各地に広がりました。翌年には、肥後の阿蘇惟光も降伏し、九州統一を阻む勢力は大友氏のみとなっていたのです。

島津氏の当主・島津義久は、筑前への進撃を命じ、島津忠長と伊集院忠棟を大将とする20000余の軍勢が出陣しました。まず、島津氏に寝返った筑紫広門を勝尾城で打ち破りました。筑前で島津氏に抵抗したのは、岩屋城の高橋紹運、宝満山城主で紹運の次男・高橋統増、立花山城主で紹運の長男・立花宗茂ら、大友氏の配下のみとなっていました。

合戦の経過

岩屋城には763名の兵が籠城していました。天正14年（1586年）7月12日、島津軍は降伏勧告をしましたが、紹運はこれを拒否し、徹底抗戦の構えを見せました。7月14日、島津軍による岩屋城への攻撃が開始されました。しかし、島津軍の多くは他国衆で戦意に欠けており、紹運の巧みな指揮により、島津軍は何度も撃退され、多くの兵を失いました。城攻めに苦戦した島津軍は、紹運の実子を人質に差し出せば和睦に応じると伝えましたが、紹運はこれも拒否しました。

籠城戦が始まって半月が経過した7月27日、島津軍は総攻撃を仕掛け、多くの犠牲を出しながらも城内に侵入しました。紹運が籠る最後の砦である詰の丸だけとなり、紹運は高櫓に登り、壮絶な割腹を遂げました。紹運以下、城兵763名全員が討ち死、自害し、この戦いは幕を閉じました。

岩屋城を攻略した島津軍でしたが、多数の将兵を失ったため、態勢の立て直しに時間を要し、これが九州制覇を阻む遠因となりました。

逸話

紹運は、島津軍が最初に攻撃すると予想される岩屋城にあえて入城しました。これは、島津軍が迂回して立花城を攻めることを防ぐためでした。立花城には、紹運の実子である立花宗茂がいました。また、宝満城には、紹運の妻や次男の高橋統増、そして岩屋城から避難した非戦闘員（女・子供）がいました。紹運は、豊臣軍が到着するまで、自らを囮として徹底抗戦しました。籠城軍は全員玉砕しましたが、島津軍も甚大な被害を受け、軍備を整えるために一時撤退を余儀なくされました。その結果、主家である大友家と長男の宗茂は豊臣軍の援軍が到着するまで持ちこたえることに成功しました（次男の統増は島津軍の策略により捕虜になりますが、後に釈放されています）。

長男で立花氏の養子となっていた立花宗茂は、父の紹運が籠城する岩屋城への援軍派遣を家臣に提案しました。他家からの養子であるため賛同を得られないのではと懸念しましたが、吉田兼正をはじめとする多くの家臣が援軍に志願しました。吉田左京は「武士の道は義に順ずる事と思う」と述べ、率先して岩屋城へ向かいました。援軍として派遣された吉田左京ら20余名は、紹運と共に玉砕したと伝えられています。彼らの遺族は、後に宗茂によって手厚く遇されました。

島津軍の諸将は、紹運の武将としての器量を惜しみ、何度も降伏を勧めましたが、紹運は「主家が盛んな時には忠誠を誓い、衰えた時には裏切る者が多いが、私は大恩を忘れ、鞍替えすることはできない。恩を忘れることは鳥獣以下である」と敵味方が見守る中で断言しました。この時、敵味方関係なく賞賛の声が上がったと言われています。紹運は島津軍から3回、味方の立花宗茂と黒田孝高から1回ずつ、合計5回の降伏勧告を受けていますが、いずれも丁寧に使者を遇し、断っています。

落城後、攻め手の総大将であった島津忠長をはじめとする諸将は、般若台にて高橋紹運の首実検に及ぶ際、「我々は類まれなる名将を殺してしまったものだ。紹運と友であったならば、最良の友となれただろうに」と床几を離れ、地に正座し涙を流したと伝えられています。

戦後

紹運以下の徹底抗戦は、玉砕という悲劇的な結末を迎えましたが、島津軍に大きな打撃を与えました。これにより、立花宗茂が籠る立花山城への攻撃は鈍化し、その間に豊臣軍20万が九州に上陸しました。島津軍は薩摩本国への撤退を余儀なくされ、紹運の命と引き換えにした抵抗は、結果的に島津軍の九州制覇を阻止することに繋がりました。

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