伊集院忠棟

伊集院忠棟（いじゅういん ただむね）とは

伊集院忠棟は、戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した武将で、島津氏の家臣です。その生涯は、島津氏の隆盛と、その後の内部抗争に翻弄されたものでした。

生涯

伊集院忠棟は、島津氏の家臣である伊集院忠倉の子として生まれました。初めは忠金と名乗っていましたが、天正4年（1576年）頃に忠棟と改名しています。早くから島津義久に仕え、その筆頭家老として政務を執り行い、武将としても肥後国や筑前国への出兵で多大な功績を挙げました。また、歌道にも優れ、細川藤孝との親交もあり、豊臣秀吉の九州出兵以前から豊臣氏との和睦交渉を進めていたとされています。

天正15年（1587年）、秀吉率いる大軍が九州に侵攻すると、島津軍は次第に劣勢となりました。忠棟は、義久やその弟である義弘らに降伏を説きましたが、島津氏は抗戦を継続しました。同年4月17日、根白坂の戦いにおいて、忠棟は右軍を任されていましたが、左軍の北郷時久の突撃の合図にもかかわらず進軍せず、島津軍は敗北を喫しました。戦後、忠棟は剃髪し、自らを人質として秀吉に降伏し、島津家の赦免を願い出ました。この時の忠棟の弁明により、島津氏の存続が達成できたと評価する説もあります。

秀吉は忠棟の能力を高く評価し、九州征伐後には肝属一郡を与えました。以降、忠棟は島津家の宿老として豊臣政権と直接交渉することが多くなり、石田三成ら奉行衆と親しくなりました。文禄4年（1595年）には、領内で太閤検地が行われ、忠棟は北郷氏に代わり、日向諸県郡庄内の地に8万石の所領を与えられました。しかし、検地後の知行配分の責任者となったため、家中からの不満が集中し、権勢を誇るようになったため、島津宗家から危険視されるようになりました。

慶長4年3月9日（1599年4月4日）、伏見の島津家邸で、義弘の子である忠恒によって殺害されました。忠棟夫人は、ことの次第を徳川家康に直訴しましたが、薩摩方言が理解できないとして無視されました。また、忠棟夫人と子らが、忠恒への復讐を祈祷しているという情報もありました。忠棟の死後、嫡男の忠真が家督を継ぎましたが、後に庄内の乱を起こしました。

忠棟殺害の理由

忠棟殺害の理由については、複数の説が存在します。

『庄内軍記』の説: 忠棟が薩摩国・大隅国・日向国の三州の守護となる野望を抱き、石田三成に忠恒を毒殺する計画を明かしたため、それを聞いた忠恒が殺害に及んだとされています。しかし、この説は同時代史料によって裏付けられていません。
島津家内の政争説: 近年の研究では、島津家内の政争が背景にあるとされています。山本博文氏は、忠棟が義弘に近く、義久が忠真に対する対応が迅速であったことから、忠恒と義久が殺害を計画したという説を唱えています。小宮木代良氏も、島津家内の政争に起因するという見解を示し、義弘と忠恒の共謀を指摘しています。重永卓爾氏は、忠恒の個人的な憎悪が原因であるとしています。

島津家側の評価

薩摩藩の人物記録『本藩人物誌』では、忠棟は「国賊」とされています。島津家側の資料では、「忠棟は独立心を抱き、主君を害するものであった」とされています。また、根白坂の戦いにおいても戦うふりばかりで戦わなかったとされています。さらに、『惟新公自記』には、忠棟が耳川の戦いで命令に背き、味方に多数の死傷者を出したとする記述がありますが、他の史料にはなく、不自然な点が多いとされています。これらの評価は、主に島津家の公的史料や軍記物に基づいており、忠棟の一族が残らなかったこともあり、江戸時代を通じて再評価されることはありませんでした。

人物・逸話

忠棟は熱心な一向宗門徒であり、石山本願寺に参詣した際、親鸞聖人の木像を所望しましたが、在家には渡せないと断られました。これに怒った忠棟は寺で腹を切ると脅し、本願寺はやむなく木像を渡したという逸話が残っています。島津家内では佞臣と評価されましたが、江戸時代中期の新井白石は『藩翰譜』において、「九州征伐後の島津家の滅亡を救った忠義の者である」と評価しています。

このように、伊集院忠棟は、その能力と野心が、島津氏の歴史に大きな影響を与えた人物であると言えるでしょう。

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