帥記

『帥記』（そちき）について

『帥記』は、平安時代中期に活躍した公卿、源経信によって記された日記です。別名として『都記』、『経信卿記』、『帥大納言記』などがあります。この日記は、経信が大宰権帥の官にあったことにちなんで『帥記』と呼ばれていますが、実際に彼が任地に赴いていた頃の記録は失われており、現存しているのは断片的なものです。

現存する記録と内容

現存する『帥記』は、治暦4年（1068年）の冬、承暦4年（1080年）の夏と秋、永保元年（1081年）の春、夏、冬、寛治2年（1088年）の秋と冬（7月を除く）の記録です。また、部類記には、治暦元年（1065年）7月、8月、治暦4年7月、延久元年（1069年）4月、同4年（1072年）12月、承保元年（1074年）8月、承暦元年（1077年）11月、同3年（1079年）7月、寛治元年（1087年）4月などの逸文が残されています。

これらの記録から、少なくとも治暦元年（1065年）から寛治2年（1088年）にかけて日記が書かれていたことが分かります。

日記の内容からは、経信が琵琶の名手であった藤原師通に琵琶を教えていたことが窺えますが、彼が歌人や管絃の名手として活躍したという記述は少なく、むしろ有職故実に通じた公卿としての側面が強く表れています。

治暦4年の記事には、行幸の日取りや来年の内裏造営に関する陣定（じんのさだめ）について記述があります。この時、上達部（かんだちめ）は意見を求められず、天皇と三人の大臣のみで決定がなされたことに対し、経信は「奇怪尤甚（きかいゆうじん）」と評しています。この出来事は、その後の親政や院政における天皇や院の発言力が強まる転換点になったと考えられています。

また、承暦4年の記事には、高麗から太宰府へ、国王である文宗の病気を治療するために医師を派遣してほしいという要請があったことが記されています。経信は、過去の事例を参考にしながら、慎重にこの要請に賛成しています。この件について、『続古事談』では経信が反対したと書かれていますが、これは誤りで、実際には源俊実の発言であったと推定されています。

史料としての重要性

『帥記』は、現存する部分が少ないながらも、当時の政治や社会情勢を把握するための貴重な史料です。特に、親政期から院政初期にかけての政務の実態を知る上で、『土右記』、『水左記』と並び重要な史料とされています。また、逸文が頻繁に参照されていることからも、当時から先例として重視されていたことが分かります。

刊本

『帥記』は、以下の書籍に収録されています。

『水左記 帥記(史料通覧)』日本史籍保存会、1916年。
『史料大成 第5』内外書籍、1936年8月。
『増補史料大成 第5巻』臨川書店、1986年11月。

参考文献

『帥記』の研究には、以下の書籍が役立ちます。

川端善明ほか『古事談・続古事談』岩波書店〈新日本古典文学大系〉、2005年11月。
新人物往来社 編『日本歴史「古記録」総覧』新人物往来社、1989年11月。
竹内理三ほか『史籍解題辞典 上巻(古代中世編)』東京堂出版、1995年9月。
山中裕『古記録と日記 上巻』思文閣出版、1993年1月。

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