平和ラッパ・日佐丸

平和ラッパ・日佐丸

平和ラッパ・日佐丸は、太平洋戦争終戦前後に活躍した日本の漫才コンビです。同名を名乗るコンビは三代存在し、それぞれ異なる個性を持っていました。

初代コンビ

初代コンビは、当初吉本の主要な漫才寄席に出演していましたが、1939年に新興キネマ演芸部へ高額報酬で引き抜かれました。

初代平和ラッパ (1905年頃 - 1945年)

出生地は不明。戦前の吉本の看板スターでした。初代平和ニコニコの弟子で、兄弟弟子には2代目ニコニコ、平和ニチニチ・満香らがいます。1939年にミスワカナ・玉松一郎、香島ラッキー・御園セブン、益田喜頓、坊屋三郎らと共に新興キネマ演芸部へ引き抜かれ、数本の映画に出演しました。

動き回るスタイルの漫才（コント？）を持ちネタとし、舞台に置かれた水槽の水で顔を洗ったり、飲んだりして笑いを誘っていました。河内家文春とコンビを組んだこともあり、2代目ラッパが売りとした「アホ」な芸風は、元々初代が確立したものでした。

1945年、漫才作家の秋田實が満洲映画協会の演芸部社員として満洲へ慰問に行った際、他の芸人と共に同行。現地で終戦を迎え帰国後、間もなく死去しました。

初代浅田家日佐丸 (1901年 - 1945年)

浅田家の祖である浅田家朝日の弟子で実弟。妹には弟子の南ふく子がいます。浪曲出身で、節劇の世界で一水軒好丸の弟子となり一水軒好広を名乗っていました。兄の勧めで漫才に転向し、初代ラッパの他、兄の浅田家朝日や浅田家キリン、浪花家市松らとコンビを組みました。

1944年からは大日本漫才協会（現在の漫才協会）の大阪支部長を務めました。1945年の満洲慰問に同行し、現地抑留中に腸チフスを患い44歳で死去。

背中全体に刺青があり、兄弟弟子には浅田家十郎・朝菊らが、弟子には南ふく子、吾妻ひな子、堤英二・よし枝らがいました。

2代目コンビ

千日劇場、新花月、道頓堀角座、神戸松竹座を経て、最終的に吉本の花月の舞台に上がりました。2代目ラッパの「アホ」ぶりは大村崑、藤山寛美と並び「大阪三大アホ」と呼ばれるほど人気を博しました。

2代目平和ラッパ (1909年8月10日 - 1975年5月2日)

大阪府堺市出身。本名は石田常三。立ち位置は左。おかっぱ頭（本人曰くローレル&ハーディのオリヴァー・ハーディを模した）と出っ歯が特徴でした。一時、ポマードで固めた七三分けにしていたこともあります。

1927年、奉公先で初代浅田家日佐丸に入門。兄の日佐治と「浅田家日佐一」の名でコンビを組み、後に「平和家ラッパ・浪花家日佐丸」と改名。両者の妻も姉妹でした。

「出歯亀」「先祖代々過去帳一切の混じりっ気のないアホ」を売り出し、1954年に兄の死去に伴い、自身の弟子でもあった妻とコンビ「平和ラッパ・日佐丸嬢」を結成。その後、歴代の日佐丸とコンビを組みました。長らく松竹芸能に所属していましたが、晩年は吉本興業に移籍しました。

舞台では、ラッパがアホぶりを全開にして日佐丸を困らせ、日佐丸が「こんなん連れてやってますねん」とぼやき、ラッパが「気ィ使いまっせェー」と返すのがお決まりのパターンで、最後に2人で「ハハーッ、さいならー」と締めていました。「天王寺の亀がなぁ…」というフレーズや、「亀豆噛めまんねんなぁ」というギャグもヒットしました。

ラッパの個性が強すぎたためコンビの不和を生みやすく、常に主導権を握ってギャラも多く貰っていたため、度重なるコンビ変更の原因となりました。

宴会や日佐丸が病気で舞台を休んだ際には、座布団や襖、畳を片手で回す珍芸を披露していました。

読み書きができない文盲であり、台本は相方に読んでもらって覚えていました。テープレコーダーが登場してからは、相方の朗読を録音して聞いて覚えていたそうです。

ヒロポンの愛用者で、戦後はヒロポン中毒に悩まされました。正司歌江（かしまし娘）に勧めた人物でもあります。上質なヒロポンを安く調達していたため、芸人仲間に重宝がられていたそうです。糖尿病も患っており、晩年は医者から禁酒されていました。

普段は物静かで周囲に気を使う人だったそうです。

1975年5月2日午後1時、肝硬変のため関西電力病院で死去。享年65歳。

平和日佐丸 (2代目コンビ時代)

立ち位置は右。2代目コンビ時代には下記の4人が務めました。2代目ラッパの死後には「日佐丸嬢」がコンビを組みました。

個性の強いラッパに主導権とギャラの多くを奪われていたため、人気が出ると日佐丸には不満が募り、3代目以降は事務所との揉め事の末にコンビ解消となるパターンが繰り返されました。

2代目：初代浅田家日佐丸に入門。2代目ラッパの実兄である日佐治で、当初は「浅田家日佐治」を名乗り、後に「浪花家日佐丸」を名乗りました。1954年に急死。弟子に平和日佐子がいます。
3代目 (1933年 - 1968年)：本名は溝畑勲。1954年に秋田實の宝塚新芸座に入り、1956年に秋田Aスケ門下となり「秋田Oスケ」の名で秋田Kスケとコンビを組みました。1959年に3代目日佐丸を襲名。寂のあるしゃがれ声を活かしたツッコミは「氷の剣のよう」と評されました。上岡龍太郎は、ラッパとの落差を評価し、歴代の日佐丸の中で特にOスケ時代の日佐丸を評価していました。1963年にラッパとコンビを解消後、波多シャープ、三田ホップなどの名で活動しましたが、不幸が重なり1968年に自殺しました。享年36歳。
4代目 (1922年10月29日 - 1973年?)：本名は広島正夫。日活に映画俳優として入社後、キャバレーの支配人を経て、秋山右楽・左楽を結成し、次に4代目日佐丸を名乗りました。病気がちであった上、ギャラの比率やネタの変更を巡りラッパと対立しコンビを解消。「夏川宇津太」の名で活動後、1973年頃に病死。吉田留三郎によると1972年10月17日に46歳で亡くなったとされます。
5代目 (1925年 - )：本名は夜久秀二郎。浮世亭夢若の門下になり、南秀児の名で北伸児と組みました。夢若の死後、「浮世亭秀若」として松鶴家光晴と組み、光晴の死後は島ぽん太とコンビを組み、5代目日佐丸を襲名。2代目ラッパの死後、木村栄子とコンビを組みましたがうまくいかず、1977年6月にコンビを解消し廃業しました。芸人仲間からは「秀ちゃん」と呼ばれていました。

浅田家日佐丸嬢 (1910年 - 没年不詳)

2代目ラッパの夫人であり弟子。歴代の日佐丸同様ツッコミ役で、夫の死後3代目日佐丸と組むまで相方を務めました。ラッパをこき下ろして笑いを取り、江州音頭を歌ってラッパが踊るスタイルでした。

3代目コンビ

先代と異なり、アホを売り物にしない正統派のギター漫才でした。当初は吉本興業所属で、後に松竹芸能に移籍しましたが、襲名後すぐに解散したため活動期間は短かったです。

3代目平和ラッパ (1943年8月10日 - 2023年5月5日)

大阪府大阪市出身。本名は生井博司。2代目ラッパに弟子入り後、3つのコンビ・グループを経て、平和勝三とのコンビで3代目ラッパを襲名しました。平和ラッパ・日佐丸解散後に平和ラッパ・梅乃ハッパを結成。

6代目 平和日佐丸 (1948年4月3日 - )

鹿児島県出身。本名は眞所晃弘。美容師をしていましたが、3代目ラッパと同じく2代目ラッパの弟子で平和勝三を名乗っていました。勝一（3代目ラッパ）とのコンビの後、勝八を加えてトリオOHKを結成するも解消。3代目ラッパの襲名に付き合い、6代目日佐丸を襲名しました。現在は鹿児島県を拠点に歌手活動をしています。

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