平安装束

平安装束とは

平安装束とは、平安時代に確立された皇族や貴族が着用した衣服の総称です。

歴史的背景と特徴

平安時代の日本の服装は、初期には奈良時代の様式を色濃く受け継いでいました。しかし、承和年間に遣唐使が廃止されたことを契機に、中国大陸の影響から離れ、日本独自の文化である国風文化が花開きます。衣服もこの流れの中で変容を遂げ、特に形状はよりゆったりとした大振りなものとなっていきました。

また、織りや染めの技術が進歩したことで、装束の色合いは格段に豊かになり、朝廷で行われる様々な儀式や行事で着用されることで、貴族の衣服は文化的な洗練度を高めていきます。大振りになった装束に美しい張りを持たせるため、強い糊を用いて仕立てられた「強装束」が登場すると、装束の形状変化はひとまず落ち着きを見せました。この強装束は一人で着装することが難しかったため、装束の仕立て方や着付けの技術、関連する知識や礼儀作法などを体系化した「衣紋道」が誕生するきっかけともなりました。

平安期に生まれたこうした装束の基本様式は、その後の朝廷や幕府における儀礼服として引き継がれ、着装の仕方や儀式との関連性には時代の変遷に伴う変化があったものの、根幹となる形状は現代まで受け継がれています。

資料と復元の難しさ

平安時代の衣服について知るための主要な資料としては、『源氏物語絵巻』や『年中行事絵巻』、『伴大納臣絵詞』といった絵巻物があります。これらの絵に描かれた人物像からは、当時の服装の様子をうかがい知ることができます。また、『日本後紀』などの歴史書や物語、日記といった文献資料も貴重な手がかりとなります。

しかし、絹や麻といった衣服の素材は、金属や木材に比べて経年劣化が非常に激しく、長い時間を経て原型を留めることがほとんどありません。このため、平安時代の衣服については、現代でも解明されていない部分が多く残されています。専門家が考証に基づいて復元を試みる際も、推定に頼る部分が多いのが実情です。京都にある風俗博物館では、こうした考証に基づき復元された平安時代の装束を中心に展示しており、当時の様子をうかがい知る貴重な機会を提供しています。

現代における平安装束

平安装束は、現代においても様々な場面で見られます。

皇族・旧家での儀式: 皇族の方々が、結婚の儀や即位の礼などの宮中儀式や祭祀で着用されています。公家や華族の流れを汲む旧家でも、行事や婚礼の際に用いられることがあります。
祭り・イベント: 平安時代に由来する祭りや、当時の様子を再現した時代行列、曲水の宴などで、関係者や参加者が平安装束を着用しています。
一般での普及: 皇族や貴族の雅なイメージ、また雛人形として古くから親しまれてきたことから、一般の方々の間でも婚礼衣装として需要があります。特に平成以降は、皇族や有名人が平安装束で挙式した際に一時的な注目を集めることがあり、1990年の秋篠宮ご夫妻、1993年の皇太子ご夫妻、2007年の女優・藤原紀香さんの結婚などがその例として挙げられます。昭和中期にはこのようなブームは見られず、1959年頃のミッチー・ブーム時でも、神職の娘が着用したことが雑誌で紹介された程度でした。

主な装束の種類

平安装束は、着用者の性別、年齢、身分、儀式の種類によって多岐にわたります。

男性の装束:
礼服: 即位礼などで用いられた最も格式の高い中国風の装束。
束帯: 文官束帯と武官束帯があり、朝廷での最も正式な装い。身分や官職に応じて細部が異なります。
衣冠: 束帯より略式の装い。元は宿直用でしたが後に儀礼化しました。
直衣、狩衣、小直衣、水干: 日常着や略装、武官の装束など、用途に応じた様々な形式があります。

女性の装束:
礼服: 即位式の女官装束。
物具装束: 奈良時代の様式を残す、鎌倉時代までの最高礼装。
唐衣裳装束（十二単）: 物具装束が廃れた後の最高の女性装束。五衣、打衣、表衣、唐衣、裳などを重ねて着用します。
袿袴、采女装束、水干: 日常着や身分に応じた様々な装いがあります。

少年少女の装束: 半尻、水干、細長、汗衫、袙袴など、成長段階に応じた装束があります。

* 神職・巫女・稚児装束: 明治以降に神職の服制として衣冠や狩衣が定められ、巫女装束も平安装束の流れを汲むと考えられています。

平安装束は、日本の歴史と文化を現代に伝える重要な遺産であり、その雅やかな姿は今も多くの人々を魅了しています。

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