府 (行政区画)

漢字文化圏における「府」の歴史的変遷

「府」は、漢字文化圏において古くから用いられてきた行政区画単位です。その歴史は長く、国や時代によって位置付けや役割が変化してきました。本稿では、中国、朝鮮、日本、ベトナムにおける「府」の制度的変遷を概観します。

中国

中国では、唐代に道の下、州と同格の行政単位として府が設置されました。当初は京師や陪都などの重要な都市に置かれ、京兆府（雍州）、河南府（洛州）、太原府（并州）、成都府（益州）などがその例です。都督府とは異なる行政単位でした。宋代になると府の数は増加し、路に属し、元代以降は省に属するようになりました。多くの州が府に改められるなど、行政区分における府の重要性は増していきました。中華民国期には府は廃止され、県または市に改編されました。

朝鮮

朝鮮時代、朝鮮半島は八道に分割され、その下に府、大都護府、牧、都護府、郡、県などの行政区画が置かれました。これらの名称は、長官の官位や行政区域の重要度によって異なっていました。府は、その中で最も重要な行政区分に位置付けられていました。

『経国大典』によると、首都である漢城府と旧首都の開城府には中央官職の長官が配置され、それぞれ判尹（正二品相当）、留守（従二品相当）と称されました。17世紀頃には、開城府に加え江華府、水原府、広州府にも留守職が置かれ、「四都」と呼ばれました。平壌府、慶州府、全州府、永興府などには、地方官職である府尹（従二品相当）が置かれ、守令の中で最高位にありました。大都護府や都護府とその長官である大都護府使、都護府使も「府」「府使」と略されることもありました。

1895年の甲午改革では、地方行政制度が再編され、府、牧、県などの名称は「郡」に統一されました。同時に、第一級行政区画として「道」に代わり23の府（長官：観察使）が置かれましたが（二十三府制）、翌年には廃止され、13の道が置かれました（十三道制）。その後も、一部の郡が特別府や府、牧に指定されました。

日本統治時代には、府の名称は維持されましたが、日本人居住区を中心とした市街地が府となり、それ以外の地域は郡部に編入されました。結果、府は日本内地の「市」に相当する単位となりました。1914年には12の府が存在し、その後も増加し、終戦時には22府にまで達しました。

日本

日本では、明治元年前後から府藩県三治制において府が用いられました。英語では県と同じくPrefectureと訳され、同義です。当初は京都府、大阪府、江戸府など複数の府が設置されましたが、廃藩置県によって東京府、京都府、大阪府の3府のみが残り、他は県に改められました。これは、人口や経済規模などが考慮された結果と考えられています。1943年の東京都制により東京府は東京都に改編され、現在では京都府と大阪府の2府のみが残っています。

ベトナム

ベトナムでも李朝時代以降、府が用いられてきました。何度かの改廃を経ながらも、最大の行政区域の下に位置付けられていました。例えば、後黎朝の聖宗は全国に12の承宣を置き、その下に府、州、県、社、庄などを配置しました。

まとめ

「府」は、漢字文化圏において長きにわたって用いられてきた重要な行政区画単位です。しかし、その位置付けや役割は時代や国によって大きく異なっていました。本稿で紹介した各国の事例から、府の制度的変遷の歴史と多様性を理解することができるでしょう。それぞれの国の歴史的背景や政治制度を踏まえることで、府という行政単位の持つ意味をより深く理解できるはずです。

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