庾文君

庾文君（ゆ ぶんくん）は、中国東晋時代の明帝の皇后であり、成帝の母として知られています。彼女は潁川郡鄢陵県（えいせんぐんえんりょうけん）の出身で、父は左将軍を務めた庾琛（ゆ しん）、母は妾の荀茂（じゅん ぼう）でした。庾亮（ゆ りょう）、庾冰（ゆ ひょう）という二人の兄と、庾翼（ゆ よく）という弟がいました。

彼女は若い頃からその美貌で知られており、皇太子であった司馬紹（しば しょう）（後の明帝）に見初められ、太子妃となりました。大興4年（321年）には、後の成帝となる司馬衍（しば えん）を出産しました。

太寧元年（323年）6月、司馬紹が明帝として即位すると、庾文君は皇后に立てられました。明帝の崩御後、彼女は皇太后として幼い成帝を補佐し、垂簾聴政（すいれんちょうせい）を行いました。

しかし、咸和3年（328年）に蘇峻（そ しゅん）の乱が勃発し、その後の彼女の人生は悲劇的なものとなります。2月には皇宮が陥落し、庾文君は乱兵によって多くの屈辱を受けました。彼女は悲しみと苦しみの中で、同年3月に崩御しました。享年32歳。死後、穆皇后（ぼくこうごう）と諡（おくりな）されました。

彼女の姪にあたる庾道憐（ゆ どうれん）（庾冰の娘）は、後に成帝の子である廃帝司馬奕（しば い）の皇后となっています。

庾文君の生涯は、東晋という不安定な時代における皇室の女性の運命を象徴していると言えるでしょう。彼女の美貌と知性は、明帝の寵愛を受け皇后の地位に上り詰めましたが、蘇峻の乱という動乱の中で、その短い生涯を閉じることとなりました。

伝記資料

* 『晋書』巻32 列伝第2 后妃下

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