建部氏

建部氏について

「建部」を氏の名とする氏族で、その歴史は古代から近世、そして近代へと続きます。著名な氏族としては、古代氏族の建部氏、近世大名家、華族の子爵家があります。ここでは、それぞれの系統について詳しく解説します。

古代氏族としての建部氏

古代の建部氏は、日本武尊の名代部、つまりヤマトタケルノミコトを奉斎する軍事的部民でした。その起源は倭建尊に遡り、建部を正字とします。『日本書紀』や『出雲国風土記』には、天皇の勅によって定められたという記述があります。この氏族は、古代大和朝廷から各地に配置された屯田兵のような軍事集団であったと考えられています。

壬申の乱（672年）では、当初は正規軍である大友皇子側で戦いましたが、大海人皇子に敗れました。また、武部氏や竹部氏、武内氏なども同族であると考えられています。

建部大垣

『続日本紀』には、神護景雲2年（768年）に、信濃国の建部大垣が、親孝行な人物として朝廷から褒美を受けたという記述があります。この出来事は、後の姨捨伝説の成立に影響を与えたと考えられています。

大垣の住地については、千曲市八幡と長野市信州新町竹房の二説がありますが、後者が有力とされています。また、武冨佐神社は建部大垣の古墳の上に建てられたという伝承がありましたが、近年の発掘調査で否定されています。

近江建部氏

戦国時代後期の建部寿徳（高光）は、近江六角氏に仕えた後、織田信長、羽柴秀吉に仕え、若狭国小浜や摂津国尼崎の郡代として活躍しました。豊臣恩顧の一族として重用され、その子の建部光重は関ヶ原の戦いで西軍に属し一時所領を没収されましたが、縁戚の池田輝政の取りなしで改易を免れました。

光重の子、建部政長は幼少で家督を継ぎましたが、池田輝政の助力により相続が認められました。大坂の陣では徳川氏に味方し、その功績により大名として復帰、尼崎藩主となりました。後に林田藩に移封され、以後、廃藩置県まで林田藩主家として存続しました。

明治時代になると、建部家は華族に列し、子爵の爵位を授けられました。

林田藩主家→華族子爵家の建部家系図

寿徳（高光）
光重
政長
政明、政宇
政辰、政周
政民、九鬼隆寛、有馬光隆
長教、政賢
光平、政醇
政和、土井利教、政世
秀隆(子爵)
* 光麿(子爵)

その他の一族

建部賢文（伝内）は、青蓮院流の能書家として有名で、その子孫は江戸幕府に旗本として仕えました。建部賢明・賢弘兄弟は数学者で、関孝和と共に『大成算経』を編纂しました。特に賢弘は、将軍吉宗に重用され、暦術の顧問を務めました。

また、建部綾足は、江戸時代の小説家・俳人・歌人・国学者・画家であり、その多才ぶりを発揮しました。

井伊谷藩近藤氏との関係

近藤氏は、戦国時代に今川氏傘下の井伊谷三人衆から徳川家康の配下となり、一時期井伊谷藩主となりました。通説では藤原秀郷の流れとされていましたが、近年、高野山平等院所蔵の『三州過現名帳』の記述から、戦国期まで本姓を建部氏と称していたことが明らかになりました。

まとめ

建部氏は、古代から近世、そして近代に至るまで、様々な分野で活躍した一族です。軍事、政治、文化など、多岐にわたる分野でその名を残しました。その歴史は、日本の歴史そのものと深く結びついており、現代においてもその影響を垣間見ることができます。

家紋

建部氏の家紋は、林田藩主家では「蝶菱」が用いられています。これは、池田輝政から譲り受けたものと伝えられています。それ以前は、「丸に𥻘（すはま）」を用いていたとされますが、他に「笠」「三蝶」を用いる家系もあったようです。

もう一度検索