後発開発途上国

後発開発途上国 (LDC)

概要

後発開発途上国（Least developed country、略語：LDC）とは、国際連合が世界の国々を社会経済的な開発の度合いで分類する際に用いる区分の一つです。開発途上国の中でも特に開発の進展が遅れている国々を指します。LDCという略称は、広義の「開発途上国（Less Developed Countries）」の略称とも重なる場合があるため、文脈によって注意が必要です。

これらの国々は、「貧困国」あるいは「最貧国」と呼ばれることもあります。かつては、冷戦期における国家分類（第一世界、第二世界、第三世界）の流れで「第四世界」と称された時期もありましたが、現在はあまり使われません。「最貧国」という呼称は一般的ですが、2022年時点で国連加盟国の約4分の1に相当する46ヶ国がこのカテゴリーに含まれており、必ずしも全ての対象国や国民が極度の貧困状態にあるという実情を正確に表しているわけではありません。市場経済に依存しない自給自足や物々交換といった経済活動が中心の地域では、指標に表れない生活が営まれていることもあります。

歴史と現状

LDCの概念は、1967年10月に「77ヶ国グループ」が採択したアルジェ憲章で初めて提唱されました。その後、1971年11月の国連総会決議に基づき、正式な分類とリスト作成が開始されました。2001年以降は、国連総会決議を受け、国連事務局内の「後発開発途上国、内陸開発途上国、小島嶼開発途上国担当上級代表事務所（UN-OHR-LLS）」が、LDCへの開発支援に関する取り組みの調整や推進を担っています。

2025年2月現在、LDCに分類されている国は世界に44ヶ国存在します。これらの国々は特定の地域に集中しており、特にサハラ以南のアフリカにその半数以上が見られます。アジアでは、大陸部の東南アジアや南アジアの内陸国にも多く分布しています。一方、ヨーロッパ、東アジア、中央アジア、南アメリカにはLDCは存在しません。北米ではハイチのみ、西アジアではイエメンのみがLDCとなっています。

認定・卒業基準

LDCに認定されるためには、国連開発計画委員会（CDP）が定めた基準を満たし、国連経済社会理事会による審査と国連総会の議決を経る必要があります。また、当該国の同意が得られることが前提となります。2021年にCDPが改定した主要な認定基準は以下の三つです。

1. 一人当たりの国民総所得（GNI）：過去3年間の平均推定値が1,018米ドル以下であること。
2. 人的資源指数（HAI）：健康状態（5歳未満死亡率など）と教育水準（識字率など）を合わせた指数が60以下であること。
3. 経済・環境脆弱性指数（EVI）：自然災害や外部経済ショックに対する脆弱性を示す指数が36以上であること（輸出の不安定性、製造業比率など）。

LDCからの卒業は、開発が進展し、これらの基準が改善された場合に勧告されます。卒業の条件は、3年ごとの見直しで2回連続して、前述の3基準のうち2つ以上が卒業基準値（GNI 1,222米ドル以上、HAI 66以上、EVI 30以下）を上回るか、または一人当たりGNIが卒業基準値の2倍以上になることです。

抱える主な課題

LDCに分類される多くの国は、開発を阻む共通の構造的な困難に直面しています。

地理的制約: 内陸国が多く、貿易に高コストと不安定性をもたらします。また、オセアニアなどに多い小島嶼国は、国土が狭く自然災害に対する脆弱性が極めて高いです（例：ハイチ、ネパール、ミャンマー、バヌアツなどでの災害被害拡大）。
政治的不安定と紛争: 政府の統治機構が弱く、内戦や民族紛争が長期化しやすい状況にあります（例：アフガニスタン、ソマリア、コンゴ民主共和国など）。これにより、国家の機能が損なわれ、「失敗国家」と呼ばれることもあります。
飢餓: 厳しい自然環境や農業技術の遅れにより食料生産が不足しがちです。食料輸入に必要な財政力が不足し、外部からの関税障壁などにより農産物の輸出も伸び悩むため、食料安全保障が脆弱な状態にあります。
インフラ未整備: 電気、水道、道路、鉄道といった基本的な社会基盤の整備が遅れており、経済活動や国民生活に大きな支障をきたしています。

卒業の状況と見通し

これまでに、シッキム（他国への併合）、ボツワナ、カーボベルデ、モルディブ、サモア、赤道ギニア、バヌアツ、ブータンなどがLDCリストから卒業しました。サントメ・プリンシペも2024年12月に卒業予定です。

現在、複数の国が卒業に向けて基準を満たしつつあります。バングラデシュ、ラオス、ネパールは2026年11月、ソロモン諸島は2027年12月に卒業が予定されています。一方で、アンゴラのように経済的な問題から卒業時期が無期限延期された例や、ルワンダ、ウガンダ、タンザニアのように直近の見直しで初めて卒業基準の一部を満たし、今後の検討対象となった国もあります。

2016年にUNCTADが示した見通しでは、2025年までにLDC数が大幅に減少すると予測されていましたが、実際の卒業ペースはそれほど速くはありません。特にアフリカ地域では、依然として多くの国がLDCに留まる見込みです。LDCからの卒業は開発の進展を示す重要な節目ですが、国際社会からの特定の支援措置が段階的に見直されるため、卒業後の持続的な開発に向けた準備が重要となります。

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