悪魔学

悪魔学

悪魔学（Demonology）は、神学が神について研究する学問であるように、悪魔、悪霊、悪鬼、魔神などに関する考察、説明、分類を包括的に扱う学問です。魔神学や鬼神学、鬼神論とも呼ばれます。

悪魔学の定義

中世史家のロッセル・ホープ・ロビンズは、悪魔学を悪魔の研究と定義しました。特に16世紀から17世紀のヨーロッパにおいて、悪霊と魔女の所業を記述した神学者や法律家は悪魔学者と呼ばれ、妖術の問題に関する言説や理論としての悪魔学が扱われました。美術史家のフレッド・ゲティングズは、悪魔学を隠秘学の一部門として捉えています。

歴史

悪魔学の歴史は、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教における悪魔の観念の系譜を辿ることで見えてきます。それぞれの宗教に悪魔を研究する学問が確立されていたわけではありませんが、様々な時代や地域で、神学や個人によって悪魔に関する文献や資料が編纂されました。ヨーロッパでは、オカルティズムの発展に伴い、これらの記述をもとに悪魔に関する研究ジャンルが形成されました。

一般的にイメージされる悪魔学は、近代オカルティズム、特にA・E・ウェイトが主張した伝統に基づくグリモワール（魔法書）などの文献に基づいています。しかし、これらのグリモワールや近代オカルティズムは、必ずしもユダヤ教やキリスト教の文献に基づいているとは限りません。

古代ギリシア・ローマ世界

一神教、多神教を問わず、超自然的存在としての「デーモン」に関する体系的な記述は、キリスト教以前の古代ギリシア・ローマ世界にすでに存在しました（アプレイウスの『黄金の驢馬』や新プラトン主義の文献など）。

ゾロアスター教

近代の悪魔学に連なるような悪魔に関する体系的な記述や観念は、ゾロアスター教に由来するところが大きいとされています。

ユダヤ教

バビロン捕囚後、ユダヤ教徒によって編集されたミシュナーには、旧約聖書の異教の神々が悪魔として収録されました。また、七十人訳聖書では、聖書のシェディム（異教の神々、邪神）やセイリム（山羊のような精霊）がダイモーンと翻訳されました。

キリスト教

キリスト教がローマで展開する際、伝統的なダイモーンとキリスト教のダイモーンが混交しました。その結果、ギリシア以来の信仰であったダイモーンに関する記述は、キリスト教神学の初期において悪魔に関する資料となりました。サタンは元々「敵対者」を意味するヘブライ語でしたが、七十人訳聖書では「告発者」を意味するディアボロスと訳され、英語のデビルの語源となりました。

イスラム教

イスラム教では、精霊をジンと呼び、シャイターンを頭とする悪魔たちをシャイアーティーンと呼びます。ジンはアッラーフの被造物の一つであり、悪魔というより妖怪のイメージに近い存在です。

ルネサンス

ルネサンス期には、マルシリオ・フィチーノが新プラトン主義の文献やヘルメス文書をラテン語訳し、ダイモーン魔術や精気魔術を研究しました。トリテミウスやアグリッパ、パラケルススなども、キリスト教における悪魔や精霊についての理論を構築しました。また、『エノク書』に帰せられるグリモワールが生まれ、体系的な悪魔学が展開していきました。

近世

近世の魔女狩りを通して、ヨーロッパにおける悪魔の解釈は独自に発展し、ジョン・ミルトンの『失楽園』などを経て爛熟期を迎えました。コラン・ド・プランシーは、悪魔学文献に基づいて様々な悪魔を紹介し、その著作の挿絵は通俗的な悪魔学に影響を与えました。

悪魔学文献

プセロス 『デーモンのしわざについて』（11世紀）
ジャン・ボダン 『魔女の悪魔狂』（1580年）
ニコラ・レミ 『悪魔崇拝』（1595年）
ジェームズ6世 『悪魔学』（1597年）
マルティン・アントニオ・デルリオ 『魔術論議』（1599年）
アンリ・ボゲ 『魔女論』（1602年）
フランチェスコ・マリア・グアッツォ 『魔女総覧』（1608年）
ピエール・ド・ランクル 『悪しき天使とデモンの無節操一覧』（1612年）
ルドヴィコ・マリア・シニストラリ 『悪魔姦、およびインクブスとスクブスについて』（1700年頃）

参考文献

フレッド・ゲティングズ 『悪魔の事典』
コリン・ウィルソン 『オカルト』
ミルチャ・エリアーデ編 『世界宗教事典』

関連項目

悪魔の一覧
悪魔憑き
悪魔払い
悪魔の契約書
キリスト教悪魔学における性
カトリック教会
* コーラン

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