戸田氏栄

戸田氏栄：ペリー来航を切り抜けた幕末の交渉人

戸田氏栄（とだ うじよし、1799-1858）は、江戸時代後期、激動の幕末期を生きた旗本、幕臣です。500石の知行を有し、従五位下・伊豆守に叙任されました。彼は、大垣戸田家の分家筋にあたる深坂戸田家の当主として、歴史の舞台に躍り出ることになります。

知られざる若き日の足跡

1799年、美濃国深坂村に生まれた氏栄は、幼名寛十郎。その後、昌平坂学問所において『干城録』の編纂に参加するなど、学問にも励んでいました。『干城録』は、堀田正敦によって始められ、文政10年（1827年）に再開された重要な歴史書です。氏栄は天保6年（1835年）の完成に貢献しました。

西丸小姓から始まり、着実にキャリアを積んだ氏栄は、天保12年（1841年）に徒頭、天保13年（1842年）には使番、さらに天保14年（1843年）には目付に昇進。その後、駿府町奉行、日光奉行を経て、弘化4年（1847年）2月には、浦賀奉行に就任します。この就任と同時に、従五位下・伊豆守に叙任されました。

黒船来航と日米交渉

嘉永6年（1853年）、歴史の転換点を迎えます。マシュー・ペリー率いるアメリカ艦隊の来航です。氏栄は、その事態の重大性をいち早く察知し、幕府に急報を送りました。そして、井戸弘道とともに幕府代表として、久里浜でのペリーとの歴史的な会談に臨みました。

鎖国体制下、強硬なアメリカ側の姿勢に直面した氏栄と井戸は、やむなくフィルモア大統領の親書を受け取ります。この緊迫した状況の中、氏栄は本家である大垣藩に兵の派遣を要請。大垣藩家老・小原鉄心から130名もの兵が送られ、氏栄はこれらを率いてペリーと接見したと伝えられています。

アメリカ側の記録には、氏栄の容貌や服装、そして交渉の様子が克明に記されています。50歳前後の堂々とした容姿、知的な表情、そして金襴の豪華な衣装は、交渉の重大さを物語っています。しかし、全権大使でありながら、氏栄は自ら前面に出ることを避け、奉行所応接掛の中島三郎助に交渉の多くを任せたと言われています。

翌嘉永7年（1854年）のペリー再来航時にも、氏栄は日米交渉の全権を委任され、歴史的日米和親条約の締結に貢献しました。

晩年と謎の死

安政4年（1857年）2月、氏栄は大坂町奉行に昇進します。そして、翌安政5年（1858年）、町奉行として緒方洪庵による種痘所の公認という画期的な決定を下しました。しかし、そのわずか数ヶ月後、8月21日、大坂で急死します。享年60。その死因については、毒殺説もささやかれています。

氏栄は、美濃国揖斐郡谷汲村の円立寺に葬られました。円立寺は深坂戸田家の菩提寺であり、氏栄の奉納札なども納められています。昭和18年（1943年）には、ペリー来航90周年を記念して「戸田伊豆守氏栄顕彰之碑」が建立されました。現在、谷汲村は揖斐川町の一部となっています。

家族

氏栄の五男、花香恭次郎は、後の自由民権運動家として活躍しました。

戸田氏栄は、幕末の激動期において、国を揺るがす大事件を乗り越えた重要な人物です。その生涯は、日本の近代化への道のりを示す重要な一端を担っています。彼の功績は、今もなお語り継がれるべきものです。

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