扇ノ山

扇ノ山：西日本の山スキーのメッカにして、豊かな自然に恵まれた山

扇ノ山は、兵庫県と鳥取県にまたがる標高1309.9mの山です。その雄大な姿は、関西百名山や日本三百名山にも選出されており、中国・近畿地方を代表する火山のひとつとして知られています。古くから航海の目印として利用され、現在でも多くの登山者やスキーヤーを魅了しています。

火山としての扇ノ山

10数万年前まで火山活動が続いた扇ノ山は、噴出した溶岩によって形成された台地地形が特徴です。山頂からはなだらかな山容が広がり、周囲には上山高原、畑ヶ平高原、河合谷高原、広留野高原など、複数の高原が広がっています。これらの高原は、農業やレジャーの場として利用されているほか、雪が多いことから、西日本の山スキー愛好家にとって人気のスポットとなっています。

一方、高原の周辺部は浸食が進み、険しい断崖や峡谷、数々の滝が形成されています。雨滝（日本の滝百選）、諸鹿川渓谷（21世紀に残したい日本の自然百選）などは、その代表的な景観です。これらの自然美は、氷ノ山後山那岐山国定公園の北端を構成する重要な要素となっています。

扇ノ山という名前の由来は、鳥取平野から見たその山容にあります。山頂からなだらかな尾根筋が南北に広がり、扇を広げたような姿をしていることから名付けられたと考えられています。古くは「扇仙」、「扇嶽」といった表記も用いられていたようです。一方、東側の兵庫県側からは山容が見えず、「畑ヶ平」と呼ばれていました。

地形・地質：複雑な火山活動の歴史

扇ノ山は、大山火山系に属し、第三紀末から第四紀にかけて、何度も火山活動を起こした珍しいタイプの火山です。中新世に形成された堆積岩を基盤とし、その上に鮮新世以降に噴出した流紋岩や安山岩が重なっています。放射年代測定は困難ですが、磁気や火山灰層との関係から、少なくとも73万年前より前に活動が始まり、10数万年前には活動を終えたと推定されています。

火山活動は大きく3期に分けられ、それぞれの時期に異なる種類の岩石が噴出しました。玄武岩質安山岩の溶岩、玄武岩質の溶岩、そして大山由来の火山灰層を挟んだ溶岩流などが、複雑な地層を形成しています。山頂付近にある「穴ヶ原」と呼ばれる窪地は、かつての火口と考えられています。

これらの火山活動によって形成された溶岩台地は、比較的新しい地形であり、浸食が進んでいないため、その原型がよく残されています。特に標高800m以上の地域では、なだらかな高原が広がり、豊かな植生を育んでいます。一方、高原の周辺部では浸食が著しく、深いV字谷や壮大な滝が数多く存在します。

豊かな自然：多様な動植物が生息する場所

扇ノ山の多様な地形は、多様な動植物の生息地となっています。標高の高い高原や険しい谷、湿原、滝など、多様な環境がモザイク状に広がり、それぞれの環境に適応した植物や動物が生息しています。

扇ノ山には、氷河時代の生き残りと思われる寒地性植物や、滝周辺に特有の植物群落が多く見られます。鳥取県内では唯一、北方性のタケシマランが自生するほか、タジマタムラソウ、ミズトラノオゴケ、マルバマンサクなど、扇ノ山一帯を特産とする植物も存在します。

また、ブナやカエデ類などの自然林も残されており、特に南斜面の高標高地にはブナの原始林が残されています。しかし、明治以降の開発によってブナ林は減少しており、現在では河合谷高原などでブナの植林が進められています。

動物においては、ツキノワグマ、ヤマネなどの哺乳類、イヌワシ、クマタカなどの猛禽類、オオムラサキ、ギフチョウなどの希少な蝶類などが生息しています。河川にはハコネサンショウウオやヒダサンショウウオが生息し、豊かな生態系を築いています。

登山と山スキー：アクセスと登山道

扇ノ山は、氷ノ山後山那岐山国定公園の一部に指定されており、国有林の扇ノ仙森林スポーツ林にはバードウォッチングスポットも設けられています。かつては深い谷とチシマザサの繁茂により、冬の雪山登山しか不可能でしたが、現在では標高900m付近まで車道が整備され、山頂へのアクセスが容易になっています。

なだらかな斜面のため、いくつかの登山ルートが整備されており、主要なルートは北側の河合谷高原を経由する中国自然歩道です。山頂には避難小屋が設置され、休憩や宿泊に利用できます。山頂からは、周辺の山々や日本海、鳥取平野を一望することができます。

一方、扇ノ山は、中国・近畿地方でも特に雪が多く、西日本の山スキー愛好家にとって人気のスポットです。山頂から続く長い斜面は、平均12度の緩やかな傾斜が数キロも続き、初心者から上級者まで楽しめるコースとなっています。しかし、谷部には急峻な断崖もあるため、コース選びには注意が必要です。

菅野湿原：貴重な湿原生態系

扇ノ山の北西山麓には、菅野湿原というミズゴケ中心の湿原が広がっています。この湿原は天然記念物に指定されており、その地層からは過去1万年間の気候変動を知る手がかりとなる花粉が発見されています。

まとめ

扇ノ山は、火山活動によって形成された複雑な地形、豊かな自然、そして歴史的な側面を併せ持つ、魅力的な山です。登山や山スキーだけでなく、自然観察やバードウォッチングなど、様々な楽しみ方ができる場所です。今後、この貴重な自然環境を保全し、多くの人々にその魅力を伝え続けていくことが重要です。

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