日本の書道史

日本の書道は、漢字の伝来とともに始まりました。独自の文字文化を持たなかった日本にとって、漢字は文化の礎となり、書道は独自の発展を遂げていきます。

概観

弥生時代に漢字が伝来しましたが、当初は文字としての使用はありませんでした。5世紀頃に日本で作られた銘文が最古の遺物であり、隷書から楷書への過渡期の書体が見られます。これらは朝鮮半島を経由した中国の文字文化が基盤となっています。

写経と晋唐書風の流行

仏教の伝来とともに、書道は急速に発展しました。飛鳥時代の聖徳太子、奈良時代の聖武天皇による写経の奨励は、国家事業として写経所が設けられるほどでした。遣隋使や遣唐使により中国文化が直接伝わり、特に唐代の王羲之書法が尊重され、晋唐の書風が流行しました。

和様の完成と墨跡の勃興

平安時代初期、嵯峨天皇は空海、橘逸勢らとともに晋唐の書を学びましたが、単なる模倣に留まらず、日本独自の書風を追求しました。平安時代中期には、国風文化の確立とともに「かな」が誕生し、三跡（小野道風、藤原佐理、藤原行成）によって漢字が和様化され、和様書が完成しました。

鎌倉時代には、禅僧の来朝により中国の書風が再び流入し、墨跡と呼ばれる書が武士の間で流行しました。室町時代には茶道と結びつき、墨跡は茶会の掛軸として珍重されるようになり、江戸時代には唐様として継承・発展しました。一方、和様は江戸幕府の公用書体として採用され、庶民にも広まりました。このように、日本の書は唐様と和様に二分化されました。

六朝 書道の盛行と上代様の復興

明治時代に入ると、漢学の素養を持つ実力者たちが唐様の書風を好むようになり、清の楊守敬が漢魏六朝の碑帖を携えて来日したことが、日本の書道界に大きな衝撃を与えました。巖谷一六、松田雪柯、日下部鳴鶴らを中心に六朝書道が盛んになりました。

漢字は唐様が革新され、かなは明治時代中期に上代様が復興しました。日下部鳴鶴と西川春洞が漢字書道界の基礎を築き、小野鵞堂がかな書道界で多くの門人を育成しました。

近代書壇史の始まりと現代書の出現

大正時代末期には、豊道春海の尽力により書道団体「日本書道作振会」が結成され、近代書壇史が始まりました。その後、「泰東書道院」「東方書道会」「大日本書道院」といった大規模な団体が結成され、比田井天来の門弟たちによって現代書が出現しました。

時代ごとの詳細

飛鳥時代以前

朝鮮半島を経由して漢字や仏教などの中国文化が伝来しました。『日本書紀』と『古事記』には、百済王の使者である阿直岐と王仁がそれぞれ経典と『論語』『千字文』を献上したことが記されています。この時代には、貨泉や漢委奴国王印などの筆跡が残っています。

飛鳥時代

聖徳太子が仏教を尊び、法隆寺を建立するなど、仏教の興隆に伴い写経が盛んになり、国家機構の整備とともに公共紙の需要が増加しました。この時代には、聖徳太子の自筆とされる『法華義疏』や、日本最古の銅板墓誌である船氏王後墓誌銘などの筆跡が残っています。

奈良時代

元明天皇が都を平城京に定めてからの時代で、遣唐使を通じて多くの中国文化が伝わりました。聖武天皇の天平年間は奈良文化の最盛期であり、書道の発展が著しかったです。光明皇后による王羲之の『楽毅論』の臨書が有名です。聖武天皇は仏教を尊信し、東大寺などを建立し、国家事業としての仏教興隆を図りました。これに伴い写経が盛行し、写経所を設けて写経生を養成し、写経体が生まれるに至ります。

平安時代

初期

桓武天皇が都を平安京に遷し、政治・文化の中心地となりました。嵯峨天皇を中心に弘仁文化が大きく発展し、空海、橘逸勢をはじめ多くの名家が輩出しました。晋唐の書が流行し、嵯峨天皇、空海、橘逸勢の三筆が活躍しました。

中期

宇多天皇が遣唐使を停止して以来、日本の書道は日本趣味を増し、かなが出現しました。小野道風、藤原佐理、藤原行成の三跡が活躍し、和様書道が完成しました。

後期

院政の開始と武家の台頭により貴族社会が混乱し、優美なものから個性的意思的な傾向を示し、華麗な装飾写本が盛行しました。世尊寺家から多くの能書家が輩出され、装飾経も盛んにつくられました。

鎌倉時代

源頼朝が鎌倉に幕府を開き、政権が公家から武家に移りました。禅僧の来朝により禅様が盛行し、和様書道界に清風を注ぎました。和様と禅様が並び行われ、文字の美の追求から実用性を重視する変革がなされ漢字かな交じり文が一般化されました。

室町・安土桃山時代

室町時代は乱世で、書道は和漢ともに衰退しましたが、安土桃山時代に入り古筆を愛玩賞味する風潮が興り、わずかに生気を保ちました。世尊寺流、法性寺流、青蓮院流、持明院流の4派が勢力を持ち、宸翰様も受け継がれました。

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