日米構造協議

日米構造協議とは

日米構造協議（Structural Impediments Initiative, SII）は、1989年から1990年にかけて、アメリカ合衆国と日本の間で計5回開催された二国間協議です。日米間の貿易不均衡の是正を目的とし、アメリカが日本の経済構造の改革を求めたものです。1993年には「日米包括経済協議」と改称され、その後、「年次改革要望書」や「日米経済調和対話」へと発展しました。

背景と経緯

1985年のプラザ合意によって円高ドル安が進みましたが、日本企業の競争力は依然として高く、アメリカの対日貿易赤字は拡大し続けました。アメリカ議会は、新貿易法・スーパー301条を成立させ、日本への強硬措置を求めるなど、両国間の緊張が高まっていました。

アメリカは、日本の市場の閉鎖性（非関税障壁）が対日赤字の要因だと考え、日本の経済構造の変革と市場開放を求めました。1989年7月、当時のブッシュ大統領が宇野総理に協議を提案し、実現しました。アメリカからの要求は200項目を超える膨大なものでした。

日米間では、これまでもMOSS協議や日米円ドル委員会などの貿易交渉が行われてきましたが、これらは個別品目や為替に限定されたものでした。日米構造協議は、商習慣や流通構造など、国のあり方や文化にまで踏み込んだ、初めての交渉でした。

1990年4月には中間報告がまとめられ、同年6月には最終報告が取りまとめられました。その後も、両国の経済構造改善策の進捗状況を確認するため、1990年10月から1992年7月にかけて4回のフォローアップ会合が行われました。

協議内容と評価

名称への批判

「Structural Impediments Initiative」は、正確には「構造障壁イニシアティブ（主導権）」と訳すべきです。日本政府が「イニシアティブ」を「協議」と誤訳した背景には、政治的な意図があったとの指摘もあります。

公共事業の拡大

アメリカは、日本に対し、GNPの10%を公共事業に配分することを要求しました。海部内閣はこれに応じ、10年間で総額430兆円の「公共投資基本計画」を策定しました。その後、アメリカからの更なる要求により、1994年には村山内閣が計画を見直し、社会資本整備費として200兆円を上積みし、総投資額は630兆円となりました。

この公共投資は、箱物行政を生み出し、現在の日本の財政難の一因になったとの指摘があります。地方空港の乱立はその一例です。アメリカのこの要求には、ジャパン・マネーを日本国内に閉じ込め、ドルの影響力を維持しようとする狙いがあったと考えられます。また、アメリカは、日本に対し、外需主導ではなく内需主導の経済成長を求めていました。

土地税制の見直し

当時の日本の土地税制は、農地の保有税が宅地の80分の1と低く、土地を資産として保有しやすい状況でした。これが地価高騰と土地の売り渋りを招いていました。アメリカは、この土地税制が宅地開発や効率的な土地利用の妨げになっていると指摘しました。この点は、日本の経済学者も長年主張していましたが、農家や地主の支持基盤を持つ自民党の政治的な理由により、長年是正されていませんでした。

大店法の規制緩和

大規模小売店舗法によって規制されていた大型店の出店規制が緩和されました。大型店の出店調整期間の上限が1年半に設定され、1994年には1,000平方メートル未満の出店が原則自由となりました。これにより、郊外に大型ショッピングセンターが次々と建設され、地方都市の中心商店街は衰退しました。2000年には、大規模小売店舗法は廃止され、大規模小売店舗立地法が制定されました。

コミットメント

日米構造協議では、両国が採るべき措置として、様々な分野でコミットメントがなされました。これらのコミットメントは、最終報告でまとめられています。

協議日程

1989年
7月2日：非公式協議（ニューヨーク連銀）
7月14日：日米首脳会談（パリ）で日米構造協議開催を発表
9月4日：第1回日米構造協議（東京、～ 5日）
11月6日：第2回日米構造協議（ワシントン、～ 7日）

1990年
1月31日：日米構造協議非公式会議（ベルン）
2月22日：第3回日米構造協議（東京、～ 23日）
3月20日：日米構造協議非公式会議（ワシントン）
4月2日：第4回日米構造協議（ワシントン、～ 5日）
4月5日：「日米構造協議中間報告」発表
5月23日：日米構造協議非公式会議（ハワイ、～ 24日）
6月25日：第5回日米構造協議（～ 28日）
6月28日：「日本構造協議最終報告」発表
10月15日：日米構造協議フォローアップ会合（ボストン、～ 16日）

1991年
5月20日：日米構造協議フォローアップ会合（～ 21日、「フォローアップ第1回年次報告書」発表）

1992年
2月26日：日米構造協議フォローアップ会合（ワシントン）
7月28日：日米構造協議フォローアップ会合（東京、～ 29日）
7月30日：「フォローアップ第2回年次報告」発表

参考文献

『NHKスペシャル日米の衝突―ドキュメント構造協議』 NHK取材班（日本放送出版協会）

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