木下華声

木下華声（きのした かせい）

多彩な才能を持つ芸人

木下華声（1911年7月6日 - 1986年5月27日）は、物真似師、漫談家として知られる人物です。本名は長谷川栄太郎。一時、2代目江戸家猫八を襲名していました。落語研究家の野村無名庵はおじにあたり、また、久保田万太郎、鴨下晁湖、阿木翁助らに愛された浅草の豚カツ店「柳とんかつ」の店主はいとこにあたります。

生い立ちと芸の道

東京で生まれた木下華声は、父が柳派の寄席の事務員で、芸人のプロデューサー的な役割を担っていた春風亭大与枝でした。父は3代目柳家小さんを真打にしたことや、当時皇族向けだった琵琶節を寄席に出したこと、初代江戸家猫八を発掘したことで知られています。しかし、1917年に父が初代伊藤痴遊と衝突し、一家は没落。その後、2代目三遊亭金馬に入門し、三遊亭金時と名乗りました。後に5代目三升家小勝の門で勝頼と改名しています。

大正時代には、父の縁で初代江戸家猫八一座に入り、小猫八を名乗りました。1931年には2代目江戸家猫八を襲名し、上野鈴本演芸場で襲名披露を行いました。しかし、1933年に「東宝名人会」に出演する際、「猫八」の名が大道芸のイメージがあるとして拒否されたため、久保田万太郎に相談し、徳川夢声に対抗する意味で「木下華声」と名乗り、以降、物真似以外の仕事ではこの名前を使うようになりました。

漫談家としての活動

徳川夢声主催の「談譚集団」で、5代目蝶花楼馬楽（後の林家彦六）らと漫談の修行を積みました。1935年には、ボーイズ物の流行に乗って吉本興業（東京吉本）に入社し、「ザツオン・ブラザース」を結成。1940年には松竹系の新興演芸に移り、「あひる艦隊」を結成しました。また、物真似の才能を活かし、PCL・東宝映画で効果音の仕事も多く担当し、山本嘉次郎監督の『吾輩は猫である』(1936年)では猫の鳴き声を担当しました。

戦時中の経験と戦後の活躍

1944年には浅草・常盤座で軽演劇の俳優として左卜全と共演。同年には教育召集を受け、歩兵軽機関銃部隊に配属されました。同じ隊には、木谷実、並木一路、今井正がいました。朝鮮に配置されるも3ヶ月で除隊。終戦間際には召集令状が届いた際、親友の和田信賢から戦争終結を教えられ、NHKラジオで「猫八入隊」の特別番組に出演しましたが、終戦が近いことを知るスタッフから、米軍機撃墜や東條英機の物真似は控えるように言われたといいます。

戦後は、初代猫八の実子を弟子にして3代目の名を譲り、自身は「木下華声」として、漫談や声帯模写で活躍しました。NHKラジオでは、2代目広沢虎造、榎本健一、3代目金馬、大河内伝次郎、5代目小さんらの声帯模写を交え、「石川五右衛門」などのストーリーを演じました。1969年頃からは、「巷談」と称して、市井の出来事や芸人の内幕などを語る芸を披露しました。

交友関係と晩年

幼少期から芸の世界に身を置き、様々な仕事をしたため、芸界に幅広い人脈を持っていました。久保田万太郎に可愛がられたほか、高見順、安藤鶴夫らとも親交がありました。徳川夢声、榎本健一、山本嘉次郎らからも目をかけられました。和田信賢、5代目一龍斎貞丈とは兄弟分で、2代目虎造、4代目鈴々舎馬風、森川信らとは親友でした。森川信とは、戦時中に佐藤節の世話になったこともありました。墓所は雑司ヶ谷霊園にあります。

弟子にはタイヘイトリオの洋児がおり、その弟子筋はタイヘイ一門として知られ、多くの弟子を育てました。

出演作品

フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ（1966年、東宝） - 子供のサンダの声

参考文献

木下華声『芸人紙風船』大陸書房
* 諸芸懇話会、大阪芸能懇話会共編『古今東西落語家事典』平凡社

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