松山常次郎

松山 常次郎（まつやま つねじろう）

松山 常次郎は、明治から昭和にかけて活動した日本の実業家であり政治家、そして敬虔なキリスト教徒でした。衆議院議員として四半世紀にわたり国政に携わる傍ら、実業界でも顕著な成功を収め、またキリスト教界においても様々な活動に関わりました。

生い立ちと学業

1884年（明治17年）3月22日、現在の和歌山県九度山町にあたる伊都郡九度山村で、松山家の長男として生を受けました。地元の学校を卒業後、奈良県立五条中学校、第三高等学校を経て、1905年（明治38年）に東京帝国大学土木工学科に進学しました。大学在学中に、日本組合基督教会霊南坂教会で洗礼を受け、キリスト教徒としての信仰を深めていきます。

実業界での飛躍

1908年（明治41年）に東京帝国大学を卒業した後、さらなる知見を求めてアメリカ合衆国へ渡り、橋梁設計などの技術を習得しました。帰国後、1915年（大正4年）には朝鮮へ渡り、大規模な干拓・開墾事業に乗り出します。南海拓殖株式会社や鮮満拓殖株式会社などを自ら設立・経営し、広大な農地の開発に成功するなど、実業家として確固たる地位を築き上げました。

政治家としての歩み

実業界での成功を背景に、松山常次郎は政界へと転じます。1920年（大正9年）に行われた第14回衆議院議員総選挙において、旧兵庫12区から立憲政友会の公認候補として出馬し、初当選を果たしました。その後、1924年（大正13年）の第15回総選挙からは、故郷である和歌山県の旧和歌山3区に選挙区を移し、以降、政界を引退するまでこの地を政治的な地盤としました。衆議院議員としては、通算7回の当選を重ね、足かけ24年間にわたり代議士として国会活動に従事しました。この長い議員生活の中で、彼は社会改革運動にも積極的に関与し、公娼制度の廃止を目指す廃娼運動や、選挙権の拡大を求める普通選挙運動、さらには女性の政治参加を促す婦人参政権運動などに尽力しました。

信仰と公職

松山は政治活動と並行して、キリスト教徒としての役割も果たしました。特に、1930年代に発生したホーリネス教団の内部対立（ホーリネス分裂事件）においては、他の主要なキリスト教指導者たちと共に仲介役を務め、対立する双方の和解に向けて奔走しました。その結果、1936年（昭和11年）10月には、教団の「和協分離」という形で一定の解決を見出しました。

政治家としては政府内の要職も歴任しており、1936年（昭和11年）には広田弘毅内閣で外務参与官に就任。さらに1940年（昭和15年）には、米内光政内閣において海軍政務次官を務めました。

戦争回避への試みと戦時下の言動

太平洋戦争開戦が迫る緊迫した情勢の中、1941年（昭和16年）、松山はキリスト教徒からなる平和使節団を組織して渡米し、日米間の戦争回避のために懸命な努力を続けました。この渡米中、リバーサイドで開催された日米キリスト者会議では、アメリカ合衆国のキリスト教会に対し感謝の意を示す書状を贈呈しています。しかし、その努力も空しく日米開戦となり、彼は交換船で帰国せざるを得ませんでした。

戦時体制下、キリスト教界も国家との関係を迫られます。1940年（昭和15年）10月17日、神嘗祭の日に青山学院で開催された皇紀二千六百年奉祝全国基督教信徒大会では、松山が奨励を担当しました。彼は伝道を通じて国に報いること（伝道報国）の重要性を説き、この記念すべき大会でその決意を新たにしたいと語りました。また、1942年（昭和17年）のホーリネス教団幹部に対する弾圧事件（ホーリネス弾圧事件）が発生した際には、日本基督教団の財務局長という立場から、キリスト教の教えである再臨は日本の国体と相いれないものであり、日本で説くべきではないという見解を表明するなど、困難な時代における複雑な言動も見られました。

晩年

1943年（昭和18年）には、同志社大学の神学教育を支援する後援会の理事長に就任しています。

第二次世界大戦終結後、海軍政務次官という戦時中の公職にあったことが理由となり、1946年（昭和21年）に連合国軍最高司令官総司令部（GHQ）による公職追放の対象となりました。これを機に、彼は政治の第一線から完全に身を引き、晩年は静かに過ごしました。1961年（昭和36年）6月15日、自宅にて生涯を閉じました。享年77歳でした。

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