松殿忠房

松殿忠房は、鎌倉時代前期から中期にかけて朝廷で重きをなした公卿です。関白を務めた松殿基房の四男として生まれ、その家柄から順調な昇進を遂げました。

官位と昇進

建仁2年（1203年）に元服し、従五位上に叙せられたのを皮切りに、近江権介、右中将といった官職を歴任。建永2年（1207年）には従三位に昇り、公卿の仲間入りを果たします。その後も、建暦元年（1211年）に権中納言、翌年には中納言、建保3年（1216年）には権大納言へと昇進を重ね、元仁元年（1225年）にはついに大納言にまで上り詰めました。

この頃までは、三条家、西園寺家、大炊御門家といった名門公家と比べても遜色のない昇進スピードであり、将来を嘱望される存在でした。

大納言解任と失脚

しかし、寛喜2年（1230年）に父・基房が亡くなると、忠房の運命は暗転します。その翌年、貞永元年（1232年）に九条道家の意向により、突然大納言を解任されてしまうのです。この背景には、基房の遺領を巡る忠房の母と異母兄・松殿師家との対立がありました。最終的に、九条教実の裁定により師家が勝訴したことが、忠房の解任に影響を与えたと考えられています。

その後、三条実親、西園寺実氏、土御門定通、大炊御門家嗣、徳大寺実基といった同世代の公卿たちが、次々と忠房を追い越して大臣へと昇進していきます。九条道家・一条実経父子の失脚時には、忠房にも摂関の地位が巡ってくる可能性がありましたが、実現には至りませんでした。

その後

文永10年（1273年）に81歳で薨去。波乱に満ちた晩年であったといえるでしょう。

官職歴

建仁2年12月17日（1203年1月）：従五位上（元服）
建仁3年（1203年）正月5日：正五位下
建仁3年（1203年）正月16日：侍従
建仁3年（1203年）10月24日：右近衛少将
建仁4年（1204年）正月5日：従四位下（臨時）
建仁4年（1204年）正月12日：近江権介
元久元年（1204年）4月12日：轉中将
元久2年（1205年）正月5日：従四位上
元久2年11月29日（1206年1月）：正四位下
建永2年（1207年）正月13日：従三位（右中将如元）
承元2年（1208年）正月20日：備前権守
承元2年12月9日（1209年）：正三位
承元3年（1209年）10月30日：従二位
建暦元年（1211年）10月12日：権中納言
建暦2年（1212年）6月29日：中納言
建暦3年（1213年）3月11日：正二位（朝覲行幸賞）、院別当
建保3年12月10日（1216年1月）：権大納言
元仁元年12月25日（1225年1月）：大納言
貞永元年（1232年）3月29日：大納言を辞退
宝治元年（1247年）4月15日：出家

系譜

父：松殿基房
母：堀川局 - 藤原行雅の娘
妻：持明院保家の娘
長男：松殿良嗣 (1224-1291)
妻：藤原重隆の娘
次男：松殿兼嗣 (1239-1317)
妻：藤原雅隆の娘
生母不明の子女
男子：松殿兼教
男子：行仁
男子：良基 (-1308)
男子：源忠 - または原忠
* 男子：承教 (-1305)

松殿忠房は、鎌倉時代という激動の時代に、公卿として生きた人物です。一時は将来を嘱望されながらも、家督争いに巻き込まれ、不遇な晩年を送りました。彼の生涯は、当時の朝廷内部の権力闘争や、公家社会の複雑な人間関係を垣間見ることができる事例として、歴史を学ぶ上で興味深いものといえるでしょう。

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