桓伊

桓伊（かん い）

桓伊（生年不詳 - 391年）は、中国東晋時代の軍人であり、音楽家としても知られています。字は叔夏、小字は野王。譙国銍県を本貫とし、弟には冠軍将軍の桓不才がいます。

経歴

桓伊は、丹陽尹・護軍将軍・長社侯であった桓景の子として生まれました。若い頃から軍事的な才能を発揮し、王濛や劉惔といった名士にその才能を認められました。諸府の参軍事を歴任した後、大司馬参軍に任じられました。

当時の東晋は、前秦の苻堅が華北を統一し、強大な勢力となっていたため、戦場で活躍できる人材を求めていました。桓伊は淮南郡太守に任じられ、その防御の功績が認められ、淮南郡太守のまま、都督豫州之十二郡揚州之江西五郡諸軍事・建威将軍・歴陽郡太守へと昇進しました。

太元6年（381年）には、謝玄と共に前秦の将軍である王鑒や張蚝らを撃破する功績を挙げました。これにより、宣城県子に封じられ、都督豫州諸軍事・西中郎将・豫州刺史に進みました。

太元8年（383年）、苻堅が100万と号する大軍を率いて南進を開始すると、桓伊は謝玄や謝琰らと共に淝水で秦軍を迎え撃ち、これを打ち破るという大功を挙げました（淝水の戦い）。この功績により、永修県侯に封じられ、右軍将軍の号に進みました。

太元9年（384年）に桓沖が死去すると、桓伊は右軍将軍のまま、都督江州荊州十郡豫州四郡諸軍事・江州刺史に転じました。江州では連年の不作が続いていたため、桓伊は小県を併合させ、諸郡の米の上納を免除させ、江州の州治を豫章に戻すよう上奏しました。孝武帝は州治を尋陽に移させた以外は、桓伊の意見を聞き入れました。後に建康に召還され、護軍将軍に任じられました。右軍府の部下1000人を従えたまま、護軍府に入りました。

太元16年（391年）、在官のまま死去。右将軍の位を追贈され、散騎常侍の位を加えられました。諡は烈。
子の桓粛之が後を継ぎました。

逸話

桓伊は音楽に長けており、特に即興演奏の才能は「江左第一」と称されるほどでした。蔡邕が所有していたという名笛・柯亭笛を愛用し、常に持ち歩いて演奏していました。

王徽之が建康へ向かう途中、青溪のほとりの船で一泊した際、船客が岸に桓伊がいることを噂しました。それを聞いた王徽之は、桓伊に笛の演奏を依頼しました。桓伊は快く応じ、胡床に腰掛けて三調を演奏しました。その見事な演奏に、人々は言葉を失い、聴き入ったといいます。

孝武帝の晩年、謝安と女婿の王国宝の関係が悪化し、王国宝が孝武帝にへつらい、謝安の悪口を吹き込むようになったため、孝武帝も謝安を疑うようになりました。ある時、孝武帝は桓伊を宴会に招き、謝安も同席していました。孝武帝は桓伊に得意の笛を披露するよう命じましたが、桓伊は箏歌に代える許可を得ました。奴に笛を吹かせ、桓伊は箏を奏でながら「怨詩」を歌いました。その歌詞は、君主が忠臣を疑うことを諫める内容であり、桓伊が慷慨の情を込めて歌ったため、謝安は涙を流し、孝武帝は恥じ入る様子を見せたといいます。

伝記資料

* 『晋書』巻81 列伝第51

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