椹木野衣
椹木野衣（さわらぎ のい）は、1962年7月1日生まれの日本の美術評論家であり、多摩美術大学美術学部教授、芸術人類学研究所所員としても活動しています。美術評論家連盟の常任委員も務めています。本名は非公開です。
1990年代の文化動向を先導した『シミュレーショニズム』（1991年）や、戦後日本を「悪い場所」と定義した『日本・現代・美術』（1997年）など、斬新な美術批評で知られています。その他の著書には、『戦争と万博』（2005年）、『反アート入門』（2010年）などがあります。
埼玉県秩父市出身で、埼玉県立秩父高等学校、同志社大学文学部文化学科を卒業後、美術手帖編集部で編集者としてキャリアをスタートさせました。雑誌での執筆活動を経て、1991年に初の評論集『シミュレーショニズム ハウス・ミュージックと盗用芸術』を刊行しました。この著書では、シミュレーション・アートとハウス・ミュージックを〈サンプリング・カットアップ・リミックス〉というキーワードで横断的に論じ、1990年代以降の文化動向を予見しました。また、同年には株式会社アウトバーンを設立し、クラブカルチャーマガジン『Remix』などの雑誌を伊藤ガビンらと共に創刊しました。
1992年には、レントゲン藝術研究所で展覧会『アノーマリー』を企画し、キュレーターとしてもデビューしました。この展覧会では、村上隆やヤノベケンジといった新しい才能を美術界に紹介しました。1995年には、『アノーマリー』の続編となる『909-ANOMALY2』を企画しました。
1995年の阪神淡路大震災と「地下鉄サリン事件」を契機に、戦後日本美術の研究に転じ、1998年に『日本・現代・美術』を刊行しました。この著書では、戦後日本を「歴史」の欠如、忘却と悪しき反復が繰り返される「悪い場所」と定義し、大きな議論を呼びました。
2005年には、その続編とも言える『戦争と万博』を刊行し、大阪万博における「万博芸術」と太平洋戦争の戦争画の類似性を、国家によるプロパガンダへの芸術家の動員という視点から分析しました。
2007年には、『戦争と美術1937-1945』を針生一郎らと共同編集し、戦争記録画の公開を推進しました。2015年には、会田誠との共著『戦争画とニッポン』、責任編集の『日本美術全集19巻 拡張する戦後美術』を刊行しました。
東日本大震災の直前から『美術手帖』誌上で長編評論「後美術論」を連載し、2015年に書籍化。同作で第25回吉田秀和賞を受賞しました。連載の第二部として「流浪篇」が同誌上で2014年から2016年まで連載され、2017年に『震美術論』として刊行されました。この著書では、『日本・現代・美術』で提唱した「悪い場所」という概念を、日本列島の地質学的条件に基づいて更新し、「日本列島の美術」のあり方を再考しました。同書で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞しています。
他にも、1999年には日本の現代美術をリセットするという宣言で賛否両論を巻き起こした『日本ゼロ年』展のキュレーションや、2003年のイラク戦争時には〈アート＝反戦ユニット〉「殺す・な」を組織するなど、アクティビストとしての側面も持っています。震災後には、飴屋法水とのユニット「グランギニョル未来」を結成し公演を行うなど、多様な活動を展開しています。また、2015年からは福島第一原子力発電所事故の帰宅困難区域内で行われている「Don't follow the Wind」展に実行委員兼ユニットメンバーとして参加しています。
2021年1月から4月には、京都市京セラ美術館にて企画・監修の展覧会『うたかたと瓦礫 : 平成の美術 1898-2019』を開催しました。
第25回吉田秀和賞（2015年） - 『後美術論』（美術出版社）
芸術選奨文部科学大臣賞（2018年） - 『震美術論』（美術出版社）
単著
『シミュレーショニズム ハウス・ミュージックと盗用芸術』洋泉社、1991年。
『ヘルタースケルター ヘヴィ・メタルと世紀末のアメリカ』トレヴィル／リブロポート、1992年。
『資本主義の滝壺』太田出版、1993年。
『テクノデリック 鏡でいっぱいの世界』集英社、1996年。
『原子心母 芸術における「心霊」の研究』河出書房新社、1996年。
『日本・現代・美術』新潮社、1998年。
『平坦な戦場でぼくらが生き延びること 岡崎京子論』筑摩書房、2000年。
『「爆心地」の芸術』晶文社、2002年。
『黒い太陽と赤いカニ 岡本太郎の日本』中央公論新社、2003年。
『戦争と万博』美術出版社、2005年。
『美術になにが起こったか 1992-2006』国書刊行会、2006年。
『なんにもないところから芸術がはじまる』新潮社、2007年。
『反アート入門』幻冬舎、2010年。
『太郎と爆発 来たるべき岡本太郎へ』河出書房新社、2012年。
『アウトサイダー・アート入門』幻冬舎新書、2015年。
『後美術論』美術出版社、2015年。
『震美術論』美術出版社、2017年。
『感性は感動しない 美術の見方、批評の作法』 世界思想社、2018年。
共著・共同編集
『戦争と美術 1937-1945』図書刊行会、2016年。
『戦争画とニッポン』講談社、2015年。
その他多数
監修・その他
『岡本太郎爆発大全』河出書房新社、2011年。監修
『日本美術全集19巻 拡張する戦後美術』小学館、2015年。責任編集
『ソビエト現代美術展』（1990年 / アルファキュービック・ギャラリー）
『アノーマリー』（1992年 / レントゲン藝術研究所）
『909-ANOMALY2』（1995年 / レントゲン藝術研究所）
『日本ゼロ年』（1999年〜2000年 / 水戸芸術館）
『オプ・トランス！』（2001年 / キリンプラザ大阪）
『通俗的、秘宝館的』（2002年 / 広島市[[現代美術館]]）
『EXPOSE2002 夢の彼方へ ヤノベケンジ×磯崎新』（2002年 / キリンプラザ大阪）
『束芋×できやよい「にっぽんの、ななかむら」』（2003年 / キリンプラザ大阪）
『太郎の中の見知らぬ太郎へ』（2006年〜2007年 / 岡本太郎記念館）
『六本木クロッシング2007 : 未来への脈動』（2007年 / 森美術館）
『石子順造と丸石神』（2010年 / CCAAアートプラザ）
『未来の体温 after AZUMAYA』（2013年 / ARATANIURANO、山本現代）
『釜山ビエンナーレ2016』（2016年 / 釜山市美術館）
『砂守勝巳 黙示する風景』（2020年 / 原爆の図丸木美術館）
『うたかたと瓦礫 : 平成の美術 1898-2019』（2021年 / 京都市京セラ美術館）
椹木野衣 (@noieu) - X（旧Twitter）
椹木 野衣 Noi Sawaragi - 多摩美術大学 アートとデザインの人類学研究所
* 椹木野衣インタビュー(2015) - artscape
1990年代の文化動向を先導した『シミュレーショニズム』（1991年）や、戦後日本を「悪い場所」と定義した『日本・現代・美術』（1997年）など、斬新な美術批評で知られています。その他の著書には、『戦争と万博』（2005年）、『反アート入門』（2010年）などがあります。
経歴
埼玉県秩父市出身で、埼玉県立秩父高等学校、同志社大学文学部文化学科を卒業後、美術手帖編集部で編集者としてキャリアをスタートさせました。雑誌での執筆活動を経て、1991年に初の評論集『シミュレーショニズム ハウス・ミュージックと盗用芸術』を刊行しました。この著書では、シミュレーション・アートとハウス・ミュージックを〈サンプリング・カットアップ・リミックス〉というキーワードで横断的に論じ、1990年代以降の文化動向を予見しました。また、同年には株式会社アウトバーンを設立し、クラブカルチャーマガジン『Remix』などの雑誌を伊藤ガビンらと共に創刊しました。
1992年には、レントゲン藝術研究所で展覧会『アノーマリー』を企画し、キュレーターとしてもデビューしました。この展覧会では、村上隆やヤノベケンジといった新しい才能を美術界に紹介しました。1995年には、『アノーマリー』の続編となる『909-ANOMALY2』を企画しました。
1995年の阪神淡路大震災と「地下鉄サリン事件」を契機に、戦後日本美術の研究に転じ、1998年に『日本・現代・美術』を刊行しました。この著書では、戦後日本を「歴史」の欠如、忘却と悪しき反復が繰り返される「悪い場所」と定義し、大きな議論を呼びました。
2005年には、その続編とも言える『戦争と万博』を刊行し、大阪万博における「万博芸術」と太平洋戦争の戦争画の類似性を、国家によるプロパガンダへの芸術家の動員という視点から分析しました。
2007年には、『戦争と美術1937-1945』を針生一郎らと共同編集し、戦争記録画の公開を推進しました。2015年には、会田誠との共著『戦争画とニッポン』、責任編集の『日本美術全集19巻 拡張する戦後美術』を刊行しました。
東日本大震災の直前から『美術手帖』誌上で長編評論「後美術論」を連載し、2015年に書籍化。同作で第25回吉田秀和賞を受賞しました。連載の第二部として「流浪篇」が同誌上で2014年から2016年まで連載され、2017年に『震美術論』として刊行されました。この著書では、『日本・現代・美術』で提唱した「悪い場所」という概念を、日本列島の地質学的条件に基づいて更新し、「日本列島の美術」のあり方を再考しました。同書で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞しています。
他にも、1999年には日本の現代美術をリセットするという宣言で賛否両論を巻き起こした『日本ゼロ年』展のキュレーションや、2003年のイラク戦争時には〈アート＝反戦ユニット〉「殺す・な」を組織するなど、アクティビストとしての側面も持っています。震災後には、飴屋法水とのユニット「グランギニョル未来」を結成し公演を行うなど、多様な活動を展開しています。また、2015年からは福島第一原子力発電所事故の帰宅困難区域内で行われている「Don't follow the Wind」展に実行委員兼ユニットメンバーとして参加しています。
2021年1月から4月には、京都市京セラ美術館にて企画・監修の展覧会『うたかたと瓦礫 : 平成の美術 1898-2019』を開催しました。
受賞歴
第25回吉田秀和賞（2015年） - 『後美術論』（美術出版社）
芸術選奨文部科学大臣賞（2018年） - 『震美術論』（美術出版社）
主な著書
単著
『シミュレーショニズム ハウス・ミュージックと盗用芸術』洋泉社、1991年。
『ヘルタースケルター ヘヴィ・メタルと世紀末のアメリカ』トレヴィル／リブロポート、1992年。
『資本主義の滝壺』太田出版、1993年。
『テクノデリック 鏡でいっぱいの世界』集英社、1996年。
『原子心母 芸術における「心霊」の研究』河出書房新社、1996年。
『日本・現代・美術』新潮社、1998年。
『平坦な戦場でぼくらが生き延びること 岡崎京子論』筑摩書房、2000年。
『「爆心地」の芸術』晶文社、2002年。
『黒い太陽と赤いカニ 岡本太郎の日本』中央公論新社、2003年。
『戦争と万博』美術出版社、2005年。
『美術になにが起こったか 1992-2006』国書刊行会、2006年。
『なんにもないところから芸術がはじまる』新潮社、2007年。
『反アート入門』幻冬舎、2010年。
『太郎と爆発 来たるべき岡本太郎へ』河出書房新社、2012年。
『アウトサイダー・アート入門』幻冬舎新書、2015年。
『後美術論』美術出版社、2015年。
『震美術論』美術出版社、2017年。
『感性は感動しない 美術の見方、批評の作法』 世界思想社、2018年。
共著・共同編集
『戦争と美術 1937-1945』図書刊行会、2016年。
『戦争画とニッポン』講談社、2015年。
その他多数
監修・その他
『岡本太郎爆発大全』河出書房新社、2011年。監修
『日本美術全集19巻 拡張する戦後美術』小学館、2015年。責任編集
主な企画・キュレーション展
『ソビエト現代美術展』（1990年 / アルファキュービック・ギャラリー）
『アノーマリー』（1992年 / レントゲン藝術研究所）
『909-ANOMALY2』（1995年 / レントゲン藝術研究所）
『日本ゼロ年』（1999年〜2000年 / 水戸芸術館）
『オプ・トランス！』（2001年 / キリンプラザ大阪）
『通俗的、秘宝館的』（2002年 / 広島市[[現代美術館]]）
『EXPOSE2002 夢の彼方へ ヤノベケンジ×磯崎新』（2002年 / キリンプラザ大阪）
『束芋×できやよい「にっぽんの、ななかむら」』（2003年 / キリンプラザ大阪）
『太郎の中の見知らぬ太郎へ』（2006年〜2007年 / 岡本太郎記念館）
『六本木クロッシング2007 : 未来への脈動』（2007年 / 森美術館）
『石子順造と丸石神』（2010年 / CCAAアートプラザ）
『未来の体温 after AZUMAYA』（2013年 / ARATANIURANO、山本現代）
『釜山ビエンナーレ2016』（2016年 / 釜山市美術館）
『砂守勝巳 黙示する風景』（2020年 / 原爆の図丸木美術館）
『うたかたと瓦礫 : 平成の美術 1898-2019』（2021年 / 京都市京セラ美術館）
外部リンク
椹木野衣 (@noieu) - X（旧Twitter）
椹木 野衣 Noi Sawaragi - 多摩美術大学 アートとデザインの人類学研究所
* 椹木野衣インタビュー(2015) - artscape
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