樽屋与左衛門

樽屋与左衛門（たるや よざえもん）

樽屋与左衛門は、江戸時代中期に活躍した町年寄、樽屋家の12代目当主です。樽屋家は、江戸の町年寄の中でも有力な三家の一つであり、代々「藤左衛門」を名乗るのが通例でした。しかし、9代目、11代目、そしてこの12代目の当主は、後見役として家を支えたため、特例として「与左衛門」を名乗りました。本稿では、主に12代目の与左衛門について詳述します。

生涯

樽屋与左衛門は、延享3年（1746年）に生まれ、文化11年（1814年）に没しました。彼の出自は、樽屋家の5代前の当主の弟である武左衛門の孫に当たります。武左衛門は播州の郷士、岩崎家の養子となっており、与左衛門は当初、善右衛門という名で呼ばれていました。天明5年（1785年）、40歳になった時、幼少の吉五郎（後の13代目樽屋忠義）の後見役として樽屋家を継ぎ、12代目当主となった際に与左衛門と改名しました。

寛政の改革での活躍

与左衛門は、寛政の改革において、老中松平定信からその才能を高く評価され、重用されました。札差の仕法改革に深く関与し、様々な献策を行いました。特に、棄捐令の作成においては、彼の意見が数多く取り入れられたと言われています。寛政元年（1789年）に棄捐令が発令された後も、彼は札差仕法の専任担当者に選ばれ、その手腕を発揮しました。さらに、猿屋町貸金会所の運営も任され、会所の建物が完成するまでは、樽屋の役宅を札差掛の役所として使用することも認められました。

寛政2年（1790年）には、猿屋町会所勤務中の帯刀が特別に許可されました。これは、彼一代限りの特例であり、町年寄が帯刀を禁じられてから107年ぶりの快挙でした。同年4月には、札差仕法改正への尽力が認められ、苗字を名乗ることが許され、「樽」姓を名乗るようになりました。これにより、樽屋家は「樽」姓を公に名乗ることが可能となりました。

退役後の活動と死

退役後も、与左衛門は大阪屋茂十郎と共に、文化年間の株仲間政策を推進しました。彼は三橋会所の取締役にも就任しましたが、文化11年に不慮の死を遂げました。その死因については、自殺説も囁かれています。

樽屋万山

また、与左衛門の子である樽屋万山は、江戸時代後期の文化人であり、十八大通の一人として知られています。

まとめ

樽屋与左衛門は、江戸時代中期に活躍した町年寄であり、その才能と手腕で、寛政の改革を支えた重要な人物です。札差改革や棄捐令の作成に関わるなど、その功績は多岐にわたります。また、町年寄でありながら帯刀を許されるなど、異例の特権を享受したことでも知られています。彼の生涯は、当時の社会情勢と密接に関わっており、江戸時代の歴史を考察する上で重要な手がかりとなります。

参考資料

『江戸の高利貸 旗本・御家人と札差』北原進著 吉川弘文館 ISBN 978-4-642-06345-6
『御家人の私生活』高柳金芳著 雄山閣出版 ISBN 978-4-639-01806-3
『将軍と大奥 江戸城の「事件と暮らし」』山本博文著 小学館 ISBN 978-4-09-626605-2
『江戸の町役人』 吉原健一郎著 吉川弘文館 ISBN 978-4-642-06306-7
『国史大辞典』第9巻 吉川弘文館 ISBN 978-4-642-00509-8
『江戸学事典』弘文堂 ISBN 4-335-25053-3

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