歌川芳艶

歌川芳艶（うたがわよしつや）は、江戸時代末期に活躍した浮世絵師です。文政5年（1822年）に生まれ、慶応2年（1866年）に45歳で没しました。歌川国芳の門人であり、月岡芳年や落合芳幾ら、多くの才能ある門弟がいた中で、その名はあまり知られていません。しかし、武者絵においては、師である国芳の才能を最もよく受け継いだ絵師として評価されています。

芳艶は、本名を甲胡万吉といい、一栄斎、後に一英斎と号しました。現在のところ「歌川芳艶」という落款は見つかっておらず、「一英斎芳艶」と呼ぶべきだという意見もあります。日本橋本町の駕籠屋「十ノ字」の子として生まれ、15歳で国芳に入門しました。17歳の時、髪結床の暖簾に描いた九紋竜と魯智深の図が評判となり、その筆力と色彩の美しさに感銘を受けた国芳から「芳艶」の号を与えられたと伝えられています。天保年間末頃にデビューし、初期には美図垣笑顔作の『花紅葉錦伊達傘』の挿絵などを手がけました。

見世物絵も描いていましたが、若くして武者絵で才能を開花させ人気を博しました。同門の歌川国輝とは良きライバルであり、刺青の下絵で腕を競い合ったと言われています。芳艶は児雷也、国輝は「狐忠信」と、それぞれが得意とする題材で並び称されました。

しかし、30歳を過ぎた頃から、賭博や遊郭に入り浸るようになり、一時期、弟子仲間から不評を買い、師の国芳からも破門されてしまいます。その後、2、3年の間は浮世絵制作から遠ざかっていました。しかし、親友であり博打仲間でもあった歌川芳鶴の牢死をきっかけに、安政3年（1856年）頃から再び画業に戻り、師である国芳に負けずとも劣らない迫力ある武者絵を次々と世に送り出しました。

万延元年（1860年）以降は、役者絵や時事風俗画、風景画、「蛮国人物図会」といった横浜絵など、武者絵以外のジャンルにも挑戦しました。しかし、これらの作品は武者絵に比べると数が少なく、芳艶の個性が十分に発揮された作品は少ないとされています。文久3年（1863年）には、将軍家茂の上洛を源頼朝の上洛になぞらえた合作「御上洛東海道」にも参加し、全162点中16点を担当しました。また、のれんや看板絵などの大作も得意とし、特に浅草奥山の松本亀八の生き人形の看板絵はよく知られています。生き人形を題材とした錦絵も多く残されています。

芳艶は亡くなるまで絵筆を握り続けましたが、45歳という若さでこの世を去りました。墓所は東京都台東区谷中の妙円寺ですが、過去帳のみが残り、墓は不明です。現在確認されている版画作品は452点、肉筆画、下絵、版下絵は9点、版本は4点です。浮世絵画集や展覧会図録などで芳艶の作品が紹介されることは少なく、未確認の作品も多いと見られています。門下には、二代目歌川芳艶、歌川一豊、歌川艶長、歌川艶政などがいます。

代表的な作品

「蝦蟇妖術大蛇怪異児雷也豪傑譚」大判3枚続（弘化3年-嘉永元年（1846年-1848年））
「川中島大合戦組討尽」大判錦絵 12枚揃（安政4年（1857年））
「山うば」大判錦絵（安政5年（1858年））
「主馬佑坂田金時・靭負尉碓井貞光」大判錦絵（文久元年（1861年））
「花川戸助六之図」大判3枚続（文久2年（1862年））
「蛮国人物図会英吉利人」大判錦絵（文久元年（1861年））
「為朝誉十傑」大錦3枚続揃物
「文治三年奥州高館合戦自衣川白龍昇天」大錦3枚続（安政4年（1857年））
「破奇術頼光袴垂搦」大錦3枚続（安政5年）
「大江山酒呑退治」大錦3枚続（安政5年）
「源頼光足柄山入之図」大錦3枚続（文久元年）
「王城加茂社風景」大錦3枚続（文久元年頃）
「麻疹之こと」大錦（文久2年）
「東海道程ケ谷其二」大錦（文久3年）
「東海道名所之内淀川」大錦（文久3年）
「東海道」大錦揃物合作（文久3年）
「金太郎尽五月鯉つかみ」大錦

芳艶の作品は、力強い筆致と鮮やかな色彩が特徴で、特に武者絵においては、その迫力と躍動感は見る者を圧倒します。しかし、その生涯は必ずしも順風満帆ではなく、賭博に溺れるなど不遇な時期もありました。そのため、現在でもあまり知られていない浮世絵師ですが、その作品は再評価されつつあります。

参考文献

日本浮世絵協会編『原色浮世絵大百科事典』第2巻大修館書店、1982年
吉田漱『浮世絵の見方事典』北辰堂、1987年
国際浮世絵学会編『浮世絵大事典』東京堂出版 2008年
日野原健司「歌川芳艶研究 ─国芳門弟の伝記と画業─」『太田記念美術館紀要浮世絵研究』第1号 2011年
『歌川芳艶─知られざる国芳の門弟』（展示図録）浮世絵太田記念美術館 2011年

外部リンク

石川県立美術館所蔵浮世絵版画データベース－歌川芳艶
国立国会図書館のデジタル化資料 - 一英斎芳艶
* ボストン美術館コレクションサーチ一英斎芳艶

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