民主党 (タイ)

タイ民主党：タクシン派との長く複雑な闘争の歴史

タイ王国における民主党は、1946年の設立以来、タイ政治の中枢を担ってきた政党です。新聞社創設者や小説家、芸能人としても活躍したククリット・プラーモート氏や、元首相クワン・アパイウォン氏らによって設立され、立憲君主制や文民政治を支持する穏健なリベラル政党として出発しました。アジア・リベラル民主評議会にも加盟しており、長年に渡り、タイ政治において重要な役割を果たしてきました。

その歴史において、民主党は与党と野党の座を何度も繰り返し、チュワン・リークパイ氏を2度首相に輩出するなど、多くの首相を輩出しています。その支持基盤は、特権階級や軍部、バンコクの中産階級に根付いていました。しかし、民主党は長年、タクシン・チナワット元首相率いる政党との激しい対立を続けてきました。

タクシン政権下では野党に甘んじていましたが、軍事クーデター後の政権交代期においては党勢回復が見られました。しかし、総選挙においてはタクシン派に一度も勝利したことがありません。タクシン派のタイ愛国党と共に、選挙不正疑惑で解散命令の危機に瀕したこともありましたが、憲法裁判所は証拠不十分として無罪判決を下しました。その後も、国民の力党などのタクシン派政党との競争は激しく、政権奪取には至りませんでした。

2008年の司法クーデター後、軍部と特権階級の支援を受けた民主党は政権を掌握しました。アピシット・ウェーチャチーワ氏が首相に就任し、2001年以来となる政権復帰を果たしました。アピシット内閣は、中産階級への支持拡大を目指した政策を展開する一方で、国民の不満の目をそらすため、強硬な民族主義に基づく外交政策を展開しました。その結果、カンボジアとの国境紛争を引き起こし、多くの死傷者を出しました。さらに、政権批判を国王への反逆とみなして厳しく取り締まり、2010年の反政府デモでは多くの犠牲者が出た「暗黒の土曜日」と呼ばれる事件も発生しました。

これらの出来事により、民主党への国民の支持は失われ、タクシン派のタイ貢献党が台頭しました。2011年の総選挙では、タイ貢献党が単独過半数を獲得し、民主党は議席数を大幅に減らしました。アピシット氏は党首を辞任しましたが、その後再任されました。

2013年以降は、元副首相のステープ・トゥアクスパン氏が事実上の党指導者となり、民主主義や議会主義を否定するような言動が目立つようになりました。「人民評議会」の設置などを主張し、大規模なデモを展開しました。アピシット氏もこのデモを支持し、下院議員の辞職を表明するなど、事態はさらに混迷を極めました。2014年の総選挙をボイコットし、軍によるクーデターを経て、2019年の総選挙では議席数を大幅に減らし、アピシット氏は再び党首を辞任しました。

しかし、2024年9月、タクシンの次女を首班とする新政権が発足すると、民主党は連立政権に加わりました。このことは、民主党が反タクシン派の立場を維持しつつも、タイ政治における現実的な対応を迫られていることを示しています。

民主党のもう一つの大きな特徴として、人民民主改革委員会（PDRC）の存在があります。これは、ステープ氏が率いる民主党の直接行動隊であり、タクシン派政権打倒を目的とした暴力的な活動を行ってきました。武装デモ隊として2013年の反政府デモを主導し、多くの問題を引き起こしました。

民主党は、タイ政治において長きにわたる歴史と影響力を持つ政党ですが、その歴史には、激しい対立と複雑な出来事が刻まれています。タクシン派との対立、武力紛争への関与、民主主義への挑戦など、民主党の行動は常に議論を呼び、タイ政治の未来を左右する重要な要素となっています。 その複雑な歴史と現在を理解することは、タイ政治を理解する上で不可欠です。

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