水若酢神社

水若酢神社（みずわかすじんじゃ）は、島根県隠岐郡隠岐の島町に位置する神社です。式内社（名神大社）であり、隠岐国の一宮として知られています。旧社格は国幣中社で、現在は神社本庁の別表神社となっています。

祭神

祭神は以下の三柱です。

主祭神: 水若酢命（みずわかすのみこと）
配祀神:
中言命（なかごとのみこと、中言神）
鈴御前（すずのごぜん）

水若酢命は『古事記』や『日本書紀』には記載がない地方神です。その由緒は詳しい史料が失われているため不明です。神名の「ミズワカス」については、「ミズ」を「水」または美称の「瑞」とする説がありますが、いずれも確定的ではありません。

中言命と鈴御前についても詳しい由緒は不明ですが、古伝書『伊未自由来記』には美豆別主命（水若酢命）、奈賀命（中言命）、須津姫（鈴御前）という伝承が記されています。また、『隠州視聴合記』では祭神を崇神天皇とする説もありますが、これは創建に関する伝承の誤解であると考えられています。

歴史

創建

水若酢神社の創建については、中世に兵火などで古文書が失われたため、詳しいことはわかっていません。

『隠州記』の伝承では、崇神天皇の時代に神が海中から現れ、白鳩に乗って遷座したとされています。また、別の伝承では、仁徳天皇の時代に祭神が勧請されたとも伝えられています。

隠岐島の伝承では、神は白鷺によって伊後から捧羽山などを経て、山田村、一宮村宮原と移り、江戸時代の洪水後に現在の郡村犬町に遷座したとされています。現在の社地は、隠岐国穏地郡の郡家所在地と推測される地域にあり、境内には隠岐諸島最大級の横穴式石室を持つ水若酢神社古墳群も存在します。

古代

『続日本後紀』には、承和9年（842年）に、由良比売命神（西ノ島の由良比女神社）、宇受加命神（中ノ島の宇受賀命神社）と共に官社に預かるとの記述があります。また、『延喜式』神名帳には「水若酢命神社名神大」として記載され、名神大社に列しています。

中世

中世の史料では、正長2年（1429年）の「久清書状写」に「隠州大宮司社領」と見えるのが初見です。享禄3年（1530年）の史料には「一宮造作」という記述があり、隠岐国において一宮としての地位を確立していたことが伺えます。ただし、『隠岐国神名帳』では当社は「正三位水若酢明神」とされ、天健金草神社や玉若酢命神社が正一位であったことから、この時期には地位が低下していた可能性も指摘されています。

中世の隠岐諸島では、隠岐氏と在地勢力の対立が激化しており、享禄3年の史料には「大宮司謀叛」のことが記されています。この争いの中で、水若酢神社の大宮司が没落したと考えられています。天正5年（1577年）の文書では、代氏による大宮司職の継承が確認されています。

近世

江戸時代に入ると、寛永15年（1638年）の文書に社領が10石であることや、大宮司が忌部正景であることが記されています。貞享5年（1688年）の『増補隠州記』にも、一宮明神が鎮座する場所や社領について記述があります。

延宝4年（1676年）に洪水で社殿が流失し、延宝6年（1678年）に現在地に遷座しました。寛政7年（1795年）には現在の本殿が造営されました。

江戸時代後期には、大宮司の忌部正興が松江藩政を批判したとされる事件や、国学者の中西毅男が境内に私塾を開き尊皇攘夷を唱えるなど、歴史の転換期における重要な舞台にもなりました。

近代以降

明治維新後、社号を「水若酢神社」と定め、明治4年（1871年）に国幣中社に列しました。戦後は神社本庁の別表神社となっています。

神階

正三位（『隠岐国神名帳』） - 表記は「水若酢明神」。

境内

現在の社地は、延宝6年（1678年）に選定されたとされています。この時、白鷺が当地の松に止まったことが選定理由であると伝えられており、境内にはその「明神の松」が生育していましたが、昭和46年（1971年）に枯死しました。

社殿

本殿: 寛政7年（1795年）に造営されたもので、切妻造妻入、茅葺の屋根を持ち、隠岐造という独特の建築様式で建てられています。棟札や普請文書も残されており、国の重要文化財に指定されています。
拝殿: 大正元年（1912年）の造営で、「隠岐州第壹宮」と書かれた扁額が掲げられています。この扁額は、明和9年（1772年）に幕府巡見使として当地に来た佐久間東川によるものです。
随神門: 文化8年（1811年）の造営です。

水若酢神社の本殿のような隠岐造の建物は、玉若酢命神社本殿や伊勢命神社本殿など、隠岐諸島の各地で見ることができます。

水若酢神社古墳群

境内の周辺には、古墳時代後期の古墳群である水若酢神社古墳群が分布しています。現在では以下の2基の古墳が残っています。

1号墳: 社殿東方に位置する横穴式石室を持つ古墳で、隠岐諸島では最大級の規模です。石室からは石棺や鉄製品、勾玉などの副葬品が出土しています。
2号墳: 社殿裏に位置する円墳で、詳細は不明です。

祭事

水若酢神社では、年間を通して様々な祭事が行われています。

元旦祭（1月1日）
祈年祭（2月17日）
例大祭（5月3日）
中祭（6月16日）
新嘗祭（11月3日）
御座更祭（11月6日）
御座入祭（12月6日）
除夜祭（12月31日）

例大祭では、隔年（西暦偶数年）に「祭礼風流」が催されます。この祭礼風流では、「蓬莱山」という山車を曳く「山曳き神事」や、巫女舞、獅子舞、流鏑馬などの神事が行われます。この祭礼風流は「隠岐三大祭」の一つに数えられ、島根県指定無形民俗文化財に指定されています。

文化財

重要文化財（国指定）
本殿（附棟札8枚、普請文書6冊） - 寛政7年（1795年）造営。
島根県指定文化財
無形民俗文化財：水若酢神社祭礼風流

現地情報

所在地: 島根県隠岐郡隠岐の島町郡723
交通アクセス: 西郷港から隠岐一畑バスで「水若酢神社前」バス停下車（乗車時間約40分）
周辺: 隠岐郷土館、五箇創生館

その他

ドキュメンタリー

NHK特集「熱戦！隠岐徹夜相撲」（1983年12月23日、NHK）

参考文献

水若酢神社編『水若酢神社』学生社、2005年。
『日本歴史地名大系 33 島根県の地名』平凡社、1995年。
半田彌一郎著「水若酢命神社」、式内社研究会編『式内社調査報告第21巻』皇學館大学出版部、1983年。
石塚尊俊著「水若酢神社」、谷川健一編『日本の神々 -神社と聖地- 7 山陰 <新装復刊版>』白水社、2000年。
中世諸国一宮制研究会編『中世諸国一宮制の基礎的研究』岩田書院、2000年。

関連図書

『古事類苑』神宮司庁編、吉川弘文館 - 水若酢命神社の項目。
安津素彦・梅田義彦編集兼監修者『神道辞典』神社新報社、1968年。
白井永二・土岐昌訓編集『神社辞典』東京堂出版、1979年。
『水若酢神社』学生社「日本の神社シリーズ」、2019年。

外部リンク

水若酢命神社 - 國學院大學21世紀COEプログラム「神道・神社史料集成」

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