水野忠之

水野忠之：享保改革を支えた老中

水野忠之（みずのただゆき）は、江戸時代中期を代表する譜代大名であり、幕府老中として活躍した人物です。三河岡崎藩の第4代藩主として5万石（後に6万石）を領し、水野家5代当主として幕政に深く関わりました。

激動の人生：養子から老中へ

1669年、岡崎藩主水野忠春の四男として誕生した忠之は、幼少期から波乱に満ちた人生を送ります。延宝2年（1674年）、親族の水野忠近の養子となり家督を継承。その後、御使番、日光目付、日光普請奉行などを歴任し、着実にキャリアを積んでいきます。元禄12年（1699年）には実兄・水野忠盈の養子となり岡崎藩主を継承、従五位下・大監物に叙任されました。

赤穂事件への関与とその後

元禄14年（1701年）の赤穂事件では、事件直後に赤穂藩の屋敷に赴き、騒動の鎮静化に尽力。翌年には、浪士9名（間光興、奥田行高、矢頭教兼、村松高直、間瀬正辰、茅野常成、横川宗利、三村包常、神崎則休）預かりを命じられ、三田中屋敷で預かっています。


巷間では、細川綱利が赤穂浪士を好待遇した逸話と比較されることもありますが、忠之の対応は綱利とは対照的でした。浪士たちを厳しく監視し、快適とは程遠い環境で預かるという厳しい処遇を記録に残しています。最終的には幕命に従い、浪士9名の切腹を執行しています。


この事件後、水野家には不幸が続き、忠之の代以降、領地を追われるなど苦難の時代を迎えることとなります。忠之時代の遺構も、時代の波に翻弄され、現在ではわずかなものが残るのみとなっています。

幕閣での昇進と批判

赤穂事件後も、忠之は幕府要職を歴任し続けました。奏者番、若年寄を経て、正徳4年（1714年）には京都所司代に就任。享保2年（1717年）には老中となり、将軍徳川吉宗の享保の改革を支えました。勝手掛老中として財政を掌握し、新田開発促進や年貢の引き上げなど、数々の政策を実行しました。


これらの政策は幕府財政の好転に繋がった一方で、米価の暴落や農民への負担増大から厳しい批判も浴びることになります。「無理で人をこまらせる物、生酔と水野和泉守」という落書きが流行したというエピソードは、当時の世相を表していると言えるでしょう。


享保15年（1730年）、老中職を辞し隠居。享保16年（1731年）に63歳で亡くなりました。

水野忠之という人物像

水野忠之は、幕府の中枢で長く活躍した優れた政治家でした。赤穂事件への対応や享保の改革における役割など、その功績は歴史に刻まれています。しかし、その一方で、冷酷な面や、政策の失敗による批判なども指摘されています。複雑な人物像を持つ水野忠之は、江戸時代の人々の暮らしや社会構造を知る上で重要な存在と言えるでしょう。彼の人生は、権力と責任、そして時代の流れの中で生きた一人の人間のドラマとして、今も私たちの心に問いかけてきます。

参考文献

根岸鎮衛『耳嚢』

関連項目

岡崎城
水野氏
徳川吉宗

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