江淮官話

江淮官話（こうわいかんわ）は、中国語の主要な方言である官話（北方方言）に属し、主に中国東部の江蘇省中部、安徽省中部、湖北省東部、江西省北部で広く使用されています。この方言は、呉語、贛語、中原官話、西南官話といった周辺の方言からの影響を色濃く受けており、特に呉語からの影響が顕著です。そのため、下江官話、下江方言とも呼ばれることがあります。

話者人口は、およそ7000万人に達し、呉語や広東語の話者数とほぼ同等です。これは、中国における重要な方言の一つであることを示しています。

分布

江淮官話は、主に以下の地域で話されています。

江蘇省中部
安徽省中部
湖北省東部
江西省北部

また、湖北省西部の竹山県や竹渓県、陝西省南東部の白河県、柞水県、鎮安県、平利県、嵐皋県などには、江淮官話の言語島が存在します。

下位方言

江淮官話は、大きく以下の3つの下位方言に分けられます。

1. 通泰片（つうたいへん）: 江蘇省の泰州市（靖江市を除く）、南通市（啓東市、海門市、通州区東部、如東県東部を除く）、塩城市東台市・大豊区、鎮江市揚中市東部、揚州市東部に分布しています。この方言は呉語との共通点が他の下位方言よりも強く見られます。
2. 洪巣片（こうそうへん）: 江蘇省の中西部と安徽省の中部に分布し、南京方言と揚州方言が代表的な例です。
3. 黄孝片（こうこうへん）: 湖北省の黄岡市、孝感市、江西省の九江市付近に分布しています。また、湖北省西部や陝西省南東部にも言語島が存在し、西南官話からの影響を強く受けています。

音韻

声母

江淮官話は、他の官話方言と同様に、阻害音における有声音と無声音の区別がありません。ただし、中古音の全濁声母の一部が有気音で調音される特徴があります。

また、江蘇省揚州市郊外や塩城市、湖北省の武穴市、黄梅県、蘄春県などの地域を除き、歯茎鼻音[n]と歯茎側面接近音[l]を区別しません。ただし、「i」の前では区別する場合もあります。

さらに、多くの地域では、歯茎音s, ts, tsʰとそり舌音ʂ, ʈʂ, ʈʂʰの区別がなく、普通話で区別される字はすべて歯茎音で調音されます。

多くの地域で、軟口蓋鼻音ŋ（三十六字母の疑母）と声門閉鎖音ʔ（三十六字母の影母）の混同が見られます。韻母[a]、[o]の前ではŋ、[i]、[u]の前ではʔで調音される場合があります。

韻母

通泰片や洪巣片の多くの地域では、二重母音が単母音化する傾向があります。

西南官話と同様に、軟口蓋鼻音[ŋ]韻尾は、韻母[i]、[e]の後ろでは保たれず、歯茎鼻音nで発音されます。また、唇音（[b]、[p]、[m]）や唇歯音（[f]）の後の「eng」は「ong」と発音されます。

黄孝片では、音節主音化した円唇化有声そり舌摩擦音[ʐ̩ʷ]が見られます（「魚」「菊」など）。

声調

通泰片と黄孝片では、去声が陰去と陽去の2つに分かれています。

また、大部分の官話と異なり、入声が残っています。通泰片と洪巣片の大部分では、声門閉鎖音[-ʔ]として現れますが、黄孝片などの地域では、声調の調値の違いだけが残っています。

通泰片では、入声が陰入と陽入の2つに分かれています。

多くの地域で、連読変調が見られます。

関連項目

西南官話
呉語

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