法律学校 (旧制)

旧制法律学校とは

旧制法律学校は、明治時代に法律家（法曹）の養成、または法曹資格試験の準備を目的として設立された官立および私立の専門学校（高等教育機関）です。

概要

旧制法律学校は、仏法系、英米法系（および独法系）の2つまたは3つに大きく分類できます。そのほとんどが私立学校である点が特徴であり、宗教系学校と並んで旧制以来の歴史的伝統を有する私立大学の一大源流をなしています。

歴史

前史

江戸時代の日本においては、「法律」は幕府や藩が一方的に制定し、民衆に対して運用するものでした。裁判や訴訟の場において、民衆が支配者側と対等な立場で意見を述べたり、判決に異議を唱えることは固く禁じられていました。そのため、現代とは異なり、幕府や藩に仕える学者が統治者の立場で研究する場合を除き、法や法律に関する研究・出版は厳しく制限されていました。したがって、医学の教育・研究が蘭学塾で行われていたのとは異なり、「法学」「法律学」という独立した学問分野が成立することは困難でした。

官立「法学校」の設立

明治時代に入り、欧米各国と対等な関係を築くため、欧米の法典や司法制度を導入することが不可欠となりました。そこで、法律制定のための研究体制が急速に整備され、当初はヨーロッパの法体系の研究や日本への適用に必要な改訂作業が行われました。明治政府は1871年に司法省明法寮を設置し、後に司法省法学校を経て東京大学法学部に吸収されました。さらに1877年には東京大学に法学部を設置し、法律・法学の教育研究を推進しました。前者の司法省法学校ではフランス人教師によってフランス法学が、後者の東京大学では英米人教師によって英米法が講じられました。このことが、後の学派の対立に大きく影響しました。また、多くの人々が欧米の法や法学を学ぶため、欧米諸国への留学を開始しました。

私立法律学校の成立

法典整備に先駆けて近代的な裁判制度が発足し、1876年には代言人（現在の弁護士）の資格試験制度が確立しました。これにより法律家の育成が急務となりましたが、官立学校だけでは人材需要を十分に満たすことができませんでした。そのため、試験準備のための私塾的な法律学校が各地で開校されました。しかし、当時は近代法の制定も進んでおらず、これらの私塾の多くは教育水準が低い状態でした。1880年に刑法・治罪法が制定され、代言人規則が改正されて資格試験が厳格化されると、従来の私塾の教育水準では対応できなくなりました。また、官立の司法省法学校と東京大学法学部では、それぞれフランス語と英語で講義が行われていたため、これらの言語に習熟していないと法律を十分に学ぶことが困難でした。

このような状況の中、司法省法学校・東大法学部の卒業生や欧米留学経験者、官職についていた人々によって、後に「五大法律学校」と呼ばれる主要な私立法律学校が相次いで創立されました。1880年 4月には仏法系の東京法学社（後の法政大学）、同年9月には英米法系の専修学校（現在の専修大学）、1881年1月には仏法系の明治法律学校（現在の明治大学）、1882年10月には英法系の東京専門学校（現在の早稲田大学）、1885年7月には英法系の英吉利法律学校（現在の中央大学）が設立されました。1880年代半ばには、これらの主要な私立法律学校が出揃い、学校数は10校、生徒数は2,000人を超えました。これらの学校は、法曹試験受験を目指す勤労青年のために夜間授業を中心に日本語で教育を行う点が特徴でした。

官学・私学と仏法系・英法系の対立

1880年代、私立法律学校は、自由民権運動の高まりの中で、政治に対してどのような態度をとるかという問題に直面しました。法律学校には、代言人資格取得を目指すだけでなく、民権運動に触発された政治青年も多く集まりました。特にフランス革命の影響を受けた仏法系の明治法律学校は民権運動の拠点となり、東京専門学校は政府から迫害を受けました。政府はこれに対抗し、官学での法曹養成を強化するとともに、政治的に中立な私立学校を支援しました。司法省法学校と東京大学法学部では、日本語での授業を行う速成課程が設置されました。また、五大校のうち東京法学校は司法省の支援を受け、英吉利法律学校、独逸学協会学校専修科、東京仏学校には政府から補助金が支給され、準官立校のような位置づけとなりました。しかし、この補助金制度は不平等であるとして批判され、後に廃止されました。また、仏法系と英法系の学派対立も激化しました。明治初期には仏法系が主流でしたが、次第に独法系が台頭し、仏法系の学校は合同を進めました。法典論争では、仏法系と英法系が対立しましたが、英法系が勝利し、仏法系は次第に勢いを失いました。

制度的整備と大学への昇格

私立法律学校が法曹養成において重要な役割を果たすようになり、政府は私立学校に対する制度的なコントロールを強化する方針に転換しました。1886年には「私立法律学校監督条規」を制定し、東京府下の法律学校を帝国大学総長の監督下に置きました。さらに1887年には「特別認可学校規則」を制定し、7校を「特別認可学校」に指定し、卒業生に高等文官試験の受験資格と普通文官への無試験任用を認めました。これにより、ドイツ法学が浸透するとともに、多くの入学希望者を集め、学校は隆盛に向かいました。これらの主要な私立法律学校は、後に経済科や文科などを設置して大学への昇格を目指すようになり、1903年の専門学校令によって「大学」への改称が認められました。しかし、制度上の大学への昇格は1920年以降のことです。

学校群

五大法律学校

五大法律学校とは、東京府に所在し、特に教育水準が高く特別許認可を受けた5つの私立法律学校の総称です。具体的には、専修学校、明治法律学校、東京法学校（後の法政大学）、東京専門学校（後の早稲田大学）、英吉利法律学校（後の中央大学）です。

これらの学校は「五大法律学校聯合会」を結成し、討論会を開催していました。また、弁護士法制定にあたっては、聯合会の作成した修正案が提出され、一部条文の改正に成功しました。その後、専修学校が法律科の募集を停止したため、日本法律学校（現在の日本大学）が新たに五大法律学校の一つとなりました。

六大法律学校

明治後期には、五大法律学校に帝国大学を加えたものを「六大法律学校」と呼ぶことが多くなりました。

九大法律学校

九大法律学校とは、帝国大学、東京法学院、明治法律学校、和仏法律学校、東京専門学校、専修学校、日本法律学校、獨逸学協会学校専修科、慶應義塾大学部を加えたものを指します。

主要法律学校の一覧

以下に主要な法律学校の一覧をまとめます。

フランス法学系

（司法省）明法寮（1871年・東京大学・官立）
東京法学社（1880年 4月・法政大学）
明治法律学校（1881年1月・明治大学）
関西法律学校（1886年11月・関西大学）
東京仏学校（1886年11月・法政大学）
京都法学校（1889年・立命館大学）

イギリス法学系

東京大学法学部（1877年 4月・官立）
専修学校（1880年 9月・専修大学）
東京専門学校（1882年10月・早稲田大学）
英吉利法律学校（1885年7月・中央大学）
慶應義塾大学部（1890年1月・慶應義塾大学）
同志社政法学校（1891年・廃止）

ドイツ法学系

獨逸学協会学校専修科（1885年7月・廃止）

日本法・その他

日本法律学校（1889年10月・日本大学）
京都法政学校（1900年5月・立命館大学）