洲崎神社

洲崎神社

洲崎神社は、千葉県館山市洲崎に位置する神社で、古くは安房国一宮とされていました。御手洗山の中腹に鎮座し、豊かな自然に囲まれた神聖な空間です。この神社は、式内社（大社）の論社であり、その歴史は非常に古く、多くの伝承や文化財を今に伝えています。

祭神

洲崎神社の祭神は、天比理乃咩命（あまのひりのめのみこと）です。天太玉命の后神であり、元々は「洲ノ神（すさきのかみ）」と呼ばれていました。文献によっては「天比理刀咩命（あめのひりとめのみこと）」と表記されることもあります。これは、『延喜式』神名帳での表記と、それ以前の歴史書での表記の相違によるものです。洲崎神社と洲宮神社は、元々一体の神社であり、洲崎神社が一宮、洲宮神社が二宮として「洲の神」を祀っていたという説もあります。

歴史

創建

『古語拾遺』によると、神武天皇の時代、天富命が肥沃な土地を求めて阿波国から房総半島へ渡り、その際に天比理乃咩命の鏡を祀ったことが洲崎神社の始まりとされています。また、社伝によれば、養老元年（717年）に境内の鐘ヶ池にまつわる大蛇の災いを、役小角が祈祷によって鎮めたという伝承も残っています。これらの伝承から、洲崎神社は古くから神仏習合や修験道の影響を受けていたと考えられます。

中世

洲崎神社は、平安時代には六国史に度々登場し、神階を陞叙されています。『延喜式』神名帳には「后神天比理乃咩命神社 大 元名洲神」と記載され、大社に列格されました。この頃から、洲崎神社と洲宮神社のどちらが式内社であるかの論争が始まりました。永保元年（1081年）には、神階が最高位の正一位に達し、弘安4年（1281年）には元寇の役の功により勲二等に叙せられました。源頼朝は、石橋山の戦いに敗れて安房国へ逃れた際、洲崎神社に参拝し、神領を寄進しました。また、妻の政子の安産祈願のため、使者を派遣しています。

『吾妻鏡』には、洲崎神社の神領で在庁官人が煩いをなすことを停止させる下知書が洲宮神官宛に下されたことが記されており、このことが洲崎神社と洲宮神社の関わりを記した文書の初見とされています。また、古くから海上を通過する船から通行税を徴収しており、中世においては安房国最大の権威と実力を有する神社として君臨していました。

江戸時代

文化9年（1812年）には、筆頭老中松平定信が「安房国一宮 洲崎大明神」の扁額を奉納しました。しかし、これは「安房一宮」と断定できるものではなく、正式に一宮と記載された歴史はないとされています。江戸時代までは、別当養老寺が洲崎神社を支配していました。

明治以後

明治時代に入り、神仏分離令が出された後、教部省は当初洲宮神社を式内社としましたが、後に洲崎神社を式内社と決定しました。明治6年（1873年）には、近代社格制度で県社に列格しました。洲崎神社は海上交通の要衝であり、昭和初期まで沖を通る船に奉賽を納めさせる風習がありました。昭和47年（1972年）には、御手洗山が「洲崎神社自然林」として千葉県指定天然記念物に指定されました。現在は兼務社となり、神職は常駐していません。

神階

「天比理乃（刀）咩命神」の神階は、以下のように推移しました。

承和9年（842年）：無位から従五位下
仁寿2年（852年）：従三位
天安3年（859年）：従三位勲八等から正三位勲八等

境内

本殿は三間社流造で銅板葺であり、館山市指定有形文化財に指定されています。随身門は宝永年間の造営で、その裏手から社殿へ続く150段の階段があります。また、浜鳥居外には「神石」と呼ばれる丸みを帯びた石があり、竜宮から奉納されたものと伝えられています。

洲崎神社前の海は、東京湾に出入りする船舶が頻繁に行き交う交通の要所であり、戦前には航海安全を祈願して船頭が奉納した絵馬が多く見られました。また、2019年の台風被害の際には、ジャニーズ事務所（現：SMILE-UP.）などから支援の寄付金が寄せられ、境内社の再建などに用いられました。

祭事

2月初午：洲崎踊り奉納
例大祭（8月20日・21日）：神輿渡御、洲崎踊り奉納

文化財

千葉県指定文化財

無形民俗文化財: 洲崎のミノコオドリ（弥勒踊りと鹿島踊りからなる）
天然記念物: 洲崎神社自然林（御手洗山に残る自然林）

館山市指定文化財

有形文化財: 洲崎神社本殿、洲崎大明神縁起 3点
有形民俗文化財: 神体髪（天比理乃咩命の遺髪とされる）

分社

海底への分霊（波左間海中公園内の海底）
品川神社（東京都品川区）
江戸への分霊（神田明神または八雲神社にその名残があるという説がある）

現地情報

所在地: 千葉県館山市洲崎1697

交通アクセス:
館山駅（JR内房線）からJRバス（洲崎線）で「洲崎神社」バス停下車

周辺:
洲埼灯台
矢尻の井戸（源頼朝の伝承地）

脚注

詳しい情報は、以下の参考文献や外部リンクをご覧ください。

参考文献

相田二郎 『中世の関所』
君塚文雄「洲崎神社・洲宮神社」
全国神社名鑑刊行会史学センター 編 『全国神社名鑑 上巻』
千葉県神社庁房総の杜編纂委員会 『房総の杜』
中世諸国一宮制研究会 編 『中世諸国一宮制の基礎的研究』
滝川恒昭『房総里見氏と江戸湾の水上交通』
滝川恒昭「源頼朝の再起と安房国安西氏・洲崎神社」

関連項目

安房神社

外部リンク

洲崎神社 - 館山市観光協会
洲崎神社 - 南房総データベース
后神天比理乃咩命神社 - 國學院大學21世紀COEプログラム「神道・神社史料集成」

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