浅間山古墳 (栄町)

浅間山古墳：古墳時代終末期の謎を秘めた前方後円墳

浅間山古墳は、千葉県印旛郡栄町に所在する龍角寺古墳群に属する、7世紀前半に築造されたと考えられている前方後円墳です。この古墳は、龍角寺古墳群の中でも最大規模を誇り、当時の地域社会や文化を考察する上で重要な手がかりを提供しています。

古墳の概要

浅間山古墳は、墳丘長78メートルを測る前方後円墳で、龍角寺古墳群の中でも最大級の規模を誇ります。古墳の内部には、複室構造の横穴式石室が設けられており、石室は筑波山周辺で産出される片岩を用いて構築されています。石室内からは、金銅製冠飾や銀製冠、馬具、挂甲など、豪華な副葬品が出土しており、当時の権力者の存在を物語っています。

この古墳の特筆すべき点は、埴輪が検出されていないことです。このことから、浅間山古墳は前方後円墳の終末期に築造されたと考えられています。しかし、石室の構造や出土品から、古墳の築造年代を7世紀第2四半期とする説も存在し、一般的な前方後円墳の終焉時期との関係で議論を呼んでいます。

立地と龍角寺古墳群

浅間山古墳が属する龍角寺古墳群は、印旛沼東岸の下総台地上に広がっています。古墳群は、6世紀第2四半期から古墳の造営が始まり、現在までに114基の古墳が確認されています。浅間山古墳は、この古墳群の中で特に重要な位置を占めており、古墳群の変遷を理解する上で欠かせない存在です。

龍角寺古墳群は、古墳時代後期から飛鳥時代にかけての地方首長のあり方を考察する上で重要な遺跡とされています。特に、浅間山古墳は、古墳群を築造した首長が、6世紀末以降に力を増し、周辺地域で最も大きな前方後円墳を築造したことを示しています。その後、日本最大級の方墳である岩屋古墳が築造され、7世紀後半には龍角寺が創建されたと考えられています。

浅間山古墳は、丘陵東側の谷の源頭部に位置しており、これは、それ以前の古墳が印旛沼に面した高台に築造されていたのとは対照的です。このことから、古墳の築造場所の変化が、当時の勢力関係や社会情勢の変化を反映していると考えられます。

調査と発掘の経緯

浅間山古墳は、以前から龍角寺古墳群最大の古墳として知られていました。1979年から1981年にかけて行われた測量調査では、墳丘長が現存で66メートルであることが確認されました。その後、1994年から1995年にかけて詳細な測量調査と内部レーダー調査が行われ、1996年から1997年にかけて発掘調査が実施されました。

発掘調査の結果、浅間山古墳が7世紀前半に築造されたこと、そしてその特異な埋葬状況が明らかになりました。特に、石室内から大量の遺物が検出されたこと、そして石棺内が空であったことは、当時の葬送儀礼や社会構造を考える上で非常に重要な発見となりました。

構造

浅間山古墳は、墳丘長78メートル、三段築成の前方後円墳です。前方部がやや寸詰まりの形状をしている点が特徴的です。墳丘の周囲には、幅7～8メートル、深さ約1.3メートルの周溝が巡っています。ただし、墳丘北西部には台地があるため、この部分には周溝がない可能性が高いとされています。

墳丘は大きく改変されており、後円部北側には八坂神社が、西側から前方部にかけては畑地として削られています。また、後円部墳頂には浅間社が建立され、盛土によって高さが増しています。

石室は、後円部南側に開口する横穴式石室で、全長6.68メートル、幅最大2.34メートル、高さ最大2.01メートルを測ります。石室は、筑波山周辺で産出される片岩を用いて構築されており、羨道、前室、後室の三区画に分かれています。石室内は白土で塗られていますが、壁画は確認されていません。

石室の前庭部は、版築工法によって整地されており、前庭部の両脇には黒色と黄色の粘土質の土が交互に突き固められています。前庭部からは、柱穴が3つ確認されており、古墳の葬送儀礼に使用されたものと考えられています。

埋葬施設と出土品

浅間山古墳の横穴式石室の後室には、片岩を組み合わせて作られた石棺が安置されています。石棺内部も白土で塗られていますが、副葬品や遺骨は全く検出されませんでした。一方、前室部には漆塗りの木棺が安置されていた可能性が高いと考えられています。浅間山古墳の漆塗棺に使用された漆の質はあまり良くないものの、関東地方では貴重な例です。

出土品は、羨道部や前庭部、石室内から検出されており、その検出状況は非常に特徴的です。特に、前庭部からは、大量の鉄製小札や金銅製馬具、銀製の飾り金具などが出土しており、その多くは埋葬時からあまり時間を置かない時期に石室内から持ち出されたものと考えられています。

浅間山古墳からは、金銅製冠飾や銀製冠、金銅製・銀製の透かし彫り金具などの装飾品、大刀、金装の飾り弓、鉄鏃などの武器類、鉄製挂甲などの武具、金銅製・鉄製の馬具、刀子、斧、須恵器などが出土しています。これらの出土品は、古墳時代における一般的な副葬品の構成を示す一方で、個々の出土品には7世紀前半の高度な技術や文化が反映されており、当時の社会情勢を考察する上で重要な資料となっています。

築造時期

浅間山古墳の築造時期は、石室の形態や出土品の年代から、7世紀初頭から第2四半期にかけての時期とする説があり、現在も議論が続いています。特に、前方後円墳が全国的に消滅したとされる7世紀初頭よりも新しい時期に築造された可能性が指摘されており、前方後円墳の終焉時期をめぐる論争に一石を投じる存在となっています。

浅間山古墳の築造が7世紀初頭であるとする考え方では、石室内の副葬品が盗掘以外の理由で大きく動かされている形跡があることや、古墳の築造と埋葬の時期にずれが生じた可能性などが指摘されています。

龍角寺との関係

浅間山古墳の造営後、龍角寺古墳群では、日本最大級の方墳である岩屋古墳が造営され、7世紀半ばから後半にかけて龍角寺が創建されました。これらの古墳や寺院の造営は、印波国造と呼ばれる地域を支配していた首長によって行われたと考えられています。

印波国造は、香取海の水運を押さえることで力を増し、ヤマト王権との結びつきを強めたと考えられています。浅間山古墳以降の龍角寺古墳群の古墳が、印旛沼よりも香取海を意識した立地であることは、そうした事実を表していると考えられています。

特徴

浅間山古墳は、石棺内が空であったこと、遺物の検出状況から埋葬後に副葬品が動かされた上、石室内が土砂で埋められたと考えられることなど、特異な埋葬状況が明らかになっています。これらの特徴は、当時の葬送儀礼や社会構造を考察する上で重要な手がかりとなります。

浅間山古墳は、房総半島における前方後円墳最末期の有力古墳の一つであり、その築造時期は、全国的に前方後円墳が消滅したと考えられている時期と重なることから、前方後円墳の終焉時期をめぐる議論に少なからぬ影響を与えています。

浅間山古墳の築造は、印旛沼周辺における勢力関係の変化を象徴しており、それまで公津原古墳群を造営していた首長から、龍角寺古墳群を造営した首長へと主導権が移ったことを示しています。

浅間山古墳は、古墳そのものと出土品から、当時の首長のあり方や社会構造、文化を考察する上で非常に重要な史料となっています。この古墳が属する龍角寺古墳群は、古墳時代後期から7世紀の寺院建立、そして律令制における郡司の時代に至るまで、関東地方の一首長について知ることができる貴重な遺跡として評価され、国の史跡に指定されています。

参考文献

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千葉県立房総のむら『龍女建立、龍角寺古墳群と龍角寺』千葉県立房総のむら、2009年
神野清「印波国造の奥津城」

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