入来院氏

入来院氏：薩摩の地で興亡を遂げた武家一族

入来院氏（いりきいんし、いりきいんうじ）は、桓武平氏の流れを汲み、秩父氏を経て渋谷氏から分かれた日本の武家氏族です。その歴史は、鎌倉時代に渋谷氏の一族が薩摩国へ下向したことから始まります。

薩摩入来院氏の誕生

鎌倉時代、渋谷氏の当主であった渋谷光重は、宝治合戦での功績により薩摩国に広大な所領を得ました。光重は、長男には相模国の所領を継がせ、その他の子らを薩摩の所領へと下向させました。その中には、渋谷実重、渋谷重保、渋谷重茂、渋谷定心、渋谷重貞などがおり、光重の五男である定心が入来院を相続し、入来院氏の祖となりました。定心は嫡男の明重に地頭職を継承させ、その子である公重は元寇の際に北九州へ出陣し、防衛に貢献しました。

南北朝時代の対立と和解

南北朝時代に入ると、入来院氏は南朝方に味方し、北朝方の島津氏らと激しく争いました。峰ヶ城攻防戦では、当主の入来院重門が討ち死にするという悲劇に見舞われましたが、家督を継いだ重頼は、引き続き島津氏との争いを続けました。しかし、後に島津氏が今川了俊と対立すると、入来院氏は南九州国人一揆に参画し、武家方へと転じます。その後も島津氏との抗争は続きましたが、今川了俊の失脚により劣勢となり、居城である清色城を包囲され、重頼は降伏を余儀なくされました。

しかし、島津氏内部で内紛が起こると、重頼は島津伊久に味方し、失地回復を図ります。応永8年（1400年）には、伊久と協力して元久を破り、応永18年（1410年）には、重頼・重長父子は清色城を取り戻しました。島津奥州家の島津久豊は、重長に永利城を与え、重長は奥州家に帰順しました。

島津氏との協力と再びの対立

島津久豊の死後、島津忠国が家督を継ぎますが、父ほどの統率力はなく、再び国人領主らの間で争いが頻発します。入来院重茂や重豊は、島津忠国に協力して活躍しましたが、忠国とその嫡子である立久との対立では、重豊は立久に味方しました。

戦国時代に入ると、入来院重豊は日向国の伊東祐国の謀反に同調しましたが、後に島津氏に帰順。入来院重聡の時代には、島津宗家を支え、島津忠昌、忠治、忠隆、忠兼に仕えました。しかし、島津勝久と島津実久が宗家の座を巡って争うようになると、入来院氏は勝久方に味方し、実久から所領を侵略されます。そのため、勝久は島津忠良を頼り、忠良の嫡子である貴久を養子としました。重聡は、伊作家が劣勢にもかかわらず忠良方に味方し、娘を貴久の室としました。後に、この娘は名将として知られる島津義久、義弘、歳久を産みました。

入来院氏はその後も島津氏の勢力拡大に貢献し、広大な所領を得ましたが、入来院重朝の時代になると、島津貴久との間に不和が生じ、重朝は、肝付兼演や祁答院良重らと結んで、再び島津氏と対立します。しかし、島津氏の攻撃により、加治木城が陥落し、肝付氏が降伏すると、入来院氏ら渋谷一族も島津氏に降伏しました。その後、重朝は再び反旗を翻しますが、岩剣城の戦いや蒲生城の戦いなどで敗戦を重ね、蒲生氏が島津氏に降伏すると、渋谷一族も撤退しました。

重朝の子である重嗣は、同族の東郷氏と連携して島津氏と戦いますが、最終的に島津貴久に降伏し、入来院氏は本領の清色以外の所領を召し上げられることになりました。

島津氏一門として組み込まれ、江戸時代へ

その後、入来院氏は島津氏に従い、日向国伊東氏や肥後国相良氏との戦いに従軍しました。天正11年（1583年）、入来院重豊が死去すると、男子がいなかったため、島津以久の子である重時を養子として家督を継がせました。ここに、入来院氏は完全に島津氏の一門として組み込まれることになりました。

島津氏が勢力を拡大し、豊後国の大友宗麟が衰退すると、宗麟は豊臣秀吉を頼り、秀吉は九州平定を開始しました。島津軍は各地で敗戦を重ね、入来院重時も抗戦しましたが、大敗を喫し、島津氏は秀吉に降伏しました。

文禄4年（1595年）、島津氏領内では所領替えが実施され、入来院氏は入来郷から大隅国湯之尾郷に移封されました。慶長5年（1600年）の関ヶ原の戦いでは、入来院重時は島津義弘に従って出陣しましたが、撤退戦の最中に討ち死にしました。重時には子がいなかったため、島津義虎の子である重高が入来院氏を継ぎました。

江戸時代に入ると、入来院氏は再び入来郷に転封され、以後は一門重臣として明治維新を迎えることになりました。

歴代当主

入来院定心 - （初代、曽司氏・清色氏を名乗る）
入来院明重
入来院公重
入来院重基
入来院重勝 - （養子、一族岡本重知子）
入来院重門
入来院重頼
入来院重長
入来院重茂
入来院重豊
入来院重聡 - （外孫に島津義弘、義久、歳久）
入来院重朝
入来院重嗣
入来院重豊
入来院重時 - （養子、島津以久子）
入来院重高 - （養子、島津義虎子）
入来院重通
入来院重頼
入来院重治
入来院重堅 - （養子、日置島津家出身、後に帰家）
入来院規重 - （養子、島津久理子）
入来院重矩 - （養子、島津光久子）
入来院重教
入来院定勝 - （養子、島津継豊子）
入来院定馨
入来院定矩
入来院定経 - （養子、島津忠救子）
入来院定極
入来院公寛 - （養子、島津柄山子）

参考文献

『鹿児島県史』
『入来町史』
『三州諸家史』

関連項目

薩摩藩
東郷氏 (薩摩国)
祁答院氏
鶴田氏
高城氏 (薩摩国)

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