瀧原宮

瀧原宮（たきはらのみや）

瀧原宮は、三重県度会郡大紀町滝原に鎮座する神社で、伊勢神宮内宮（皇大神宮）の別宮です。祭神は天照坐皇大御神御魂（あまてらしますすめおおみかみのみたま）で、「滝原宮」と表記されることもあります。この宮には、対となる別宮である瀧原竝宮（たきはらならびのみや）が並立しています。

概要

瀧原宮と瀧原竝宮は、伊勢神宮がある伊勢市の西部を流れる宮川の河口から約40km上流、宮川支流の大内山川が流れる場所に位置します。広大な宮域には、瀧原宮と瀧原竝宮の2つの別宮のほか、瀧原宮所管社の3社（若宮神社、長由介神社、川島神社）があります。宮域は約44haと広大で、山を背に南面し、前方を川が東西に流れる地形から、内宮の雛型になったとする説もあります。瀧原宮は天照皇大御神の和魂（にぎみたま）、瀧原竝宮は荒魂（あらみたま）を祀るとされ、内宮と荒祭宮の関係に例えられます。所管社の若宮神社には、神体を入れる『御船代』を納める御船倉が併設されており、御船倉を持つ別宮は瀧原宮のみです。

歴史

瀧原宮の正確な起源は不明ですが、倭姫命が内宮よりも先に天照大御神を祀った場所という伝承があります。『倭姫命世記』によると、倭姫命が天照大御神を祀る地を探し、宮川支流の大内山川流域に「大河の瀧原の国」という美しい場所を見つけ、新宮を建てたのが始まりとされます。その後、天照大御神の神意により、現在の内宮がある伊勢市宇治館町に新宮（五十鈴宮）が建てられたため、瀧原宮は天照坐皇大御神御魂を祀る別宮となりました。天照大神を過去に祀っていた場所は元伊勢と呼ばれますが、別宮とされたのは瀧原宮のみです。

804年の『皇太神宮儀式帳』と927年の『延喜太神宮式』には、天照大神の遙宮と記述されており、それ以前から存在したと考えられています。創建当初、瀧原竝宮は瀧原宮に含まれていましたが、804年から927年の間に独立したと考えられています。また、771年の『太神宮諸雑事記』には、651年の神嘗祭で瀧原宮祭使が洪水の難で遙拝したという記述があり、651年には神宮別宮であったとする説もあります。続日本紀には、698年に『多気太神宮』という記述があり、これを瀧原宮とする説もありますが、斎宮を多気太神宮とする説もあります。

皇大神宮が伊勢の五十鈴宮へ転座した後に、瀧原宮と改称されました。神号を地名に使うことを避け、付近の地名「長者野」の端にちなみ、地名を『野尻』と改め、後に『野後』となりました。1890年に野後村を含む4ヶ村が合併し滝原村となり、1935年に滝原町となりました。1956年に滝原町と七保村が合併して大宮町が誕生した際、「滝原」の地名が消えることを惜しんだ住民の希望により、野後は再び滝原へ改称されました。

1931年に手水舎が新設され、第二次世界大戦末期の1945年には、アメリカ軍の爆撃により斎館の一部が破損し、境内の巨木である太郎杉と次郎杉も被災しました。太郎杉は枯れてしまったため伐採され、その一部は神宮徴古館に展示されています。同様に被災した次郎杉は大紀町郷土資料館に展示されています。1959年の伊勢湾台風では、瀧原宮の被害は小さく、本宮よりも杉の巨木が目立つようになりました。

古殿地・新御敷地と呼ばれる式年遷宮のための空き地があり、伊勢神宮と同様に20年ごとに本殿が新築移動されます。室町時代には式年遷宮が中断されましたが、江戸時代には神田などの収入で経費が賄われました。明治以降は官費からの支給となり、第二次世界大戦後は宗教法人神宮による運営となっています。現在では、式年遷宮のためのお木曳行事が20年に一度行われています。

祭神

『延喜式』には、両別宮ともに「大神の遙宮」と表記され、祭神名は明記されていません。神宮では、祭神を天照大御神の御魂とし、瀧原宮には和御魂、瀧原竝宮には荒御魂が祀られるとされています。『倭姫命記』では、瀧原宮の祀神を水戸神（速秋津日子神）、瀧原竝宮を妻神速秋津比賣神としています。

所管社

境内には若宮神社、長由介神社、川島神社（長由介神社同座）があります。若宮神社と長由介神社の由来と祭神は不明です。1192年の『皇大神宮年中行事』に両社の名前が出てきますが、鎌倉時代の1228年の内宮遷宮記が初出とされています。

若宮神社

天若宮とも呼ばれ、祭神は速秋津日子と速秋津日賣の御子神、天水分神とされていますが詳細は不明です。

長由介神社

由緒は不明ですが、長由介神は御饌の神とされ、豊受大神の御霊または分霊とする説があります。

川島神社（長由介神社同座）

由緒は不明で、祭神は川島神とされています。1874年以降、長由介神社に合祀されています。

多岐原神社

倭姫命の伝説で、瀧原の手前で倭姫命を出迎えたとされる真奈胡神を祀る多岐原神社が下流約6kmにありますが、内宮摂社となっています。

祭事

皇大神宮に準じた祭事が行われ、祈年、月次、神嘗、新嘗の諸祭には皇室からの幣帛があります。

1月: 歳旦祭（1月1日）、元始祭（1月3日）
2月: 建国記念祭（2月11日）、天長祭（2月23日）、祈年祭（2月20日）
5月: 風日祈祭（5月14日）
6月: 月次祭（6月22-23日）
8月: 風日祈祭（8月4日）
10月: 神嘗祭（10月22-23日）
11月: 新嘗祭（11月26日）
12月: 月次祭（12月22-23日）

社殿

瀧原宮と瀧原竝宮の両別宮の社殿は並び立ち、同規模です。本殿は内宮に準じ、内削ぎの千木と偶数の6本の鰹木を持つ神明造で、萱葺きです。周囲には瑞垣と玉垣が配され、門があります。

所管社の若宮神社と長由介神社は内宮に準じた神明造で、板葺きです。川島神社は社殿がなく、長由介神社に同座しています。

交通

最寄駅: JR紀勢本線滝原駅から徒歩約15分
最寄バス停: 三重交通の松阪熊野線または名古屋南紀高速バスで滝原宮前バス停
一般国道: 国道42号沿い
最寄IC: 紀勢自動車道大宮大台ICから国道42号を約3km
駐車場: 隣接する道の駅奥伊勢木つつ木館に大駐車場、道の駅横の大鳥居の先にも駐車場があります。

その他

瀧原宮が登場する作品

漫画: 星野之宣『ヤマタイカ』 - 滝原宮が伊勢神宮の雛形であり、結界であったとする設定で登場します。

脚注

[参考文献]

『お伊勢まいり』（発行：伊勢神宮崇敬会）
上田正昭ほか「別宮の祭祀」『神宮の展開　伊勢の大神』筑摩書房、1988年。ISBN 4-480-85469-X。
大宮町史（編集：大宮町史編纂委員会、発行：大宮町、昭和62年3月31日）
こほりくにを、日竎貞夫『伊勢神宮』保育社〈カラーブックス890〉、1996年。ISBN 4-586-50890-6。
神宮禰宜桜井勝之進「一一　民の祈り」『伊勢神宮』学生社〈日本の神社〉、1969年。ISBN 4-311-40704-1。
桜井勝之進『伊勢の大神の宮』堀書店、昭和48年3月25日発行
南里空海『決定版　伊勢の神宮』世界文化社、2014年。ISBN 978-4-418-14238-5。
三好和義、岡野弘彦ほか『日本の古社　伊勢神宮』淡交社〈日本の古社〉、2003年。ISBN 4-473-03108-X。
三橋健著『伊勢神宮 日本人は何を祈ってきたのか』朝日新書416、朝日新聞出版、2013年。ISBN 978-4-02-273516-4
矢野憲一『伊勢神宮　知られざる杜のうち』角川書店〈角川選書402〉、2006年。ISBN 4-04-703402-9。
國方栄二著『瀧原宮と禰宜木田川氏』糺書房、2010年（私家版）。
国立国会図書館デジタルコレクション - 国立国会図書館
伊勢新聞社編『伊勢年鑑.昭和17年』伊勢新聞社、1941年。
皇国敬神会 編「神宮(内宮、外宮)」『全国有名神社御写真帖』皇国敬神会、1922年。
神宮司庁編『神宮便覧』中央公論社、1925年。
神宮司庁編『神宮便覧』中央公論社、1928年。
神宮司庁編『大神宮叢書. 第3 後篇』西濃印刷岐阜支店、1936年。
中村徳五郎「第三節　相殿及び別宮」『皇大神宮史』弘道閣、1921年。
経済雑誌社編「倭姫命世紀」『国史大系.第7巻』経済雑誌社、1898年。
日本旅行協會編纂『伊勢参宮案内』日本旅行協会、1930年。
広池千九郎「第二十章　別宮并に摂社及び末社」『伊勢神宮と我国体』日月社、1915年。
平凡社 編『神道大辞典　第一巻』平凡社、1937年。
平凡社 編『神道大辞典　第二巻』平凡社、1939年。
平凡社 編『神道大辞典　第三巻』平凡社、1940年。

関連項目

荒魂・和魂
伊勢神宮
多岐原神社
神宮125社の一覧
元伊勢
大紀町
渡利かき

外部リンク

伊勢の神宮
木つつ木館（道の駅）
日本のこころ 瀧原宮 － Storyで紡ぐたび ～もののあはれ中南勢ものがたり～

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