瀬野八

瀬野八（セノハチ）

瀬野八とは、JR西日本山陽本線の八本松駅と瀬野駅の間、約10.6kmの区間の通称です。この区間は、広島市と呉市の分水嶺を通過する場所に位置し、鉄道においては急勾配が連続する難所として知られています。古くは山陽道（西国街道）の大山峠に並行する形で線路が敷設され、鉄道が開通する以前から交通の難所でした。

概要

1894年（明治27年）に山陽鉄道によって開通したこの区間は、可能な限り勾配を避ける方針で建設されましたが、瀬野八においては経済性を優先したため、特に上り線は22.6‰という急勾配が連続する区間となりました。この勾配を克服するため、蒸気機関車時代から電気機関車牽引の現在に至るまで、上り貨物列車には補助機関車（補機）の連結が不可欠となっています。

ルート選定の際には、芸備線沿いや熊野町を経由する緩勾配案も検討されましたが、日清戦争開戦直前の軍部の意向により、最短経路での敷設が決定されました。現在、この区間にはJR西日本の八本松変電所と瀬野変電所が設置され、上り線側の架線はツインシンプルカテナリー式となっています。かつては瀬野駅に隣接して瀬野機関区が、区間の中間地点には上瀬野信号所が設置されていました。

運用

現在、補機が連結されるのは主に貨物列車ですが、かつては客車列車や、主電動機出力の低い電車列車にも補機が連結されていました。2002年（平成14年）までは、一部の列車で走行中に補機を解放する作業が八本松駅構内で行われていました。このため、補機専用機関車には、連結器解錠用の遠隔操作用エアシリンダーやデッキが装備されています。

蒸気機関車時代には、下り貨物列車にも制動能力を補うために補機が連結されていましたが、1931年（昭和6年）の空気ブレーキ採用により廃止されました。電化後は、貨物列車の速度向上や増発に伴い、安全上の問題から特急貨物列車を除いて西条駅で補機を解放するようになりました。その後、10000系貨車の導入により、電気連結器を使用した走行解放が行われるようになりましたが、安全面への懸念から2002年に廃止されました。

現在は、広島貨物ターミナル駅で補機を連結し、西条駅で解放する方式がとられています。瀬野駅にあった瀬野機関区は1987年（昭和62年）に廃止され、広島機関区に統合されました。

山陽本線が広島駅まで電化された当初は、専用の電気機関車が不足していたため、EF58形やEF61形、EF60形などが補機として使用されました。しかし、貨物列車を中心にD52形が使用され続けたため、煙害や架線の汚損が問題となりました。その後、EF59形が投入され、機関車牽引列車だけでなく、動力分散方式の151系電車や153系電車にも補機が連結されました。

国鉄末期の短編成化以降は、抑速ブレーキとノッチ戻し制御を装備した車両に限定して瀬野八を走行するようになりました。2015年3月には、出力が向上した227系「Red Wing」が導入されましたが、2023年11月には降雨と落ち葉による空転が発生する事故も発生しています。

電力設備増強工事

2002年度より、水島臨海鉄道を事業主体として電力設備等増強工事が行われました。これは、JR貨物のEF200形電気機関車を用いて、最大1,300tの重量級貨物列車を運転するためのもので、変電設備の制約による出力制限を解除する目的がありました。工事は2007年（平成19年）2月に完成し、EF66・EF200・EF210形による1,300t列車の運用が開始されましたが、EF200形は出力制限を解除されることなく2019年3月28日をもって全車が運用から離脱しました。

補機

蒸気機関車時代

8350形
8450形
3300形
2120形 (B6)
2900形
9600形
D50形
C52形
D51形
D52形
C59形

電気機関車時代

EF59形
EF61形（0・200番台）
EF67形（0・100番台）
EF210形（300番台）

災害と事故

瀬野八の区間は、土石流や土砂崩れなどの土砂災害が多発する区間であり、災害による運休が頻繁に発生します。2018年の平成30年7月豪雨では、大量の土砂が流入し、復旧に1か月以上を要しました。ハザードマップでは、瀬野駅付近の線路が土砂災害警戒区域や特別警戒区域に指定されています。2021年12月には、貨物列車が脱線する事故も発生しています。

本区間を題材にした出版物

推理小説『特急さくら殺人事件』（西村京太郎）
* 漫画『カレチ』（池田邦彦） - 第16話「セノハチ」

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