烏坵郷

烏坵郷（ウーチウ/うきゅう-きょう）

烏坵郷は、中華民国福建省金門県に属する郷であり、台湾本島から離れた場所に位置する小さな島嶼群で構成されています。その地理的な特性から、過去には国共内戦の最前線となり、複雑な歴史を歩んできました。

地理

烏坵郷は、中華人民共和国福建省莆田市の東南、湄洲島から東に約20海里の場所に位置しています。この場所は、台湾海峡における重要な中継地点であり、古くから各国の船舶が航行していました。

歴史

17世紀から、この海域は台湾海峡海路の中継地として利用され、当時の海図には「Ockseu Island」として記載されていました。1840年のアヘン戦争後、廈門と福州の中間地点として、航路上で重要な位置を占めるようになります。
1874年には、イギリス人技師によって灯台が建設されました。この灯台は、航海の安全を守る上で重要な役割を果たしました。第二次世界大戦中の1943年から1945年にかけては、日本軍によって占拠されました。
1949年に中国国民党が大陸での支配権を失うと、烏坵は一時的に無政府状態となりました。その後、国民党軍が流入し、島の状況は一変します。物資の不足から、食料強奪や建造物の破壊、さらには商船への襲撃などが発生し、島は海賊島のような様相を呈しました。
1951年には、アメリカの軍事援助により、国民党軍が再編され、烏坵にも物資が供給されるようになりました。1954年、中華民国政府は烏坵の行政管轄を見直し、それまで興化府や莆田県に属していたものを、金門県に移管しました。これは、これらの地域が中国共産党の支配下に入ったためです。この時期の烏坵は、反共救国軍の前線基地として、国防部によって実質的に統治されていました。島は軍事的な要塞となり、厳しい統制が敷かれました。

行政区画

烏坵郷は、大坵と小坵の二つの島で構成されています。中華民国で最も小さな地方自治体です。

政治

1992年に戒厳令が解除された後、地方自治が実施されるようになりました。1994年には初めての民選郷長が選出され、民主的な行政運営が行われるようになりました。
現在の郷長は蔡永富氏です。

経済

烏坵郷の主要産業は漁業です。しかし、1992年の戒厳令解除と中台関係の改善により、駐留軍が大幅に削減され、島内の経済状況は大きく変化しました。軍人向けの商業活動が縮小したことに加え、周辺海域に中国の漁船が押し寄せ、爆弾漁法などで海洋生態系が破壊され、漁業資源は枯渇しました。
このため、住民の島外への流出が続き、一時は人口50人弱の過疎島となりましたが、2000年代以降は人口は回復傾向にあります。過去には核廃棄物処理場の設置計画がありましたが、環境保護団体の反対によって凍結されました。

生活基盤

水道

以前は雨水に依存していましたが、現在は軍によって供給されています。

電力

軍用の発電設備によって電力が供給されていますが、発電機の運転時間に制限があり、1日に数回の停電が発生します。これにより、電化製品の寿命が短くなるなど、生活上の問題が生じています。

医療

軍の診療所があるのみで、重症の場合はヘリコプターで台湾本島の病院に搬送されます。

教育

かつては小学校がありましたが、2009年に廃校となり、現在、島内に教育機関はありません。

交通

大坵村と小坵村にはヘリポートがありますが、定期便は運航されておらず、交通手段は海路のみです。台中港から月に3便の定期船が軍艦で運航されており、軍用路線のため運賃は無料です。軍艦は、以前は高雄港を経由していましたが、現在は台中港から直接運行されています。所要時間は5～6時間です。軍事管理のため、島民以外の立ち入りには許可が必要です。
烏坵港は水深が浅いため、軍艦は満潮時にしか接岸できません。また、直接接岸できないため、ランチ艇で艦と桟橋を往復します。

観光

烏坵灯台

烏坵嶼の山頂に位置する灯台は、1874年に建設され、その後改修が行われました。かつては石油灯を使用していましたが、現在は電灯に変更されています。灯台は稼働を停止していますが、歴史的な建造物として残っています。

文化・名物

言語

島では、かつて漁民を中心に莆仙語が話されていましたが、現在では台湾本島や金門島と同様に閩南語（台湾語）が話されています。馬祖島で話される閩東語（福州語）とは系統が異なります。

特産品

特産品として海苔があります。毎年8月には海苔を加工するための石灰を焼く光景が見られます。

烏坵郷は、その歴史と地理的な条件から、他の地域とは異なる独特の文化と生活様式を持っています。近年は、観光資源としての活用も検討されていますが、インフラ整備や経済的な課題も多く残っています。

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