爾朱兆

爾朱兆（じしゅ ちょう）

爾朱兆は、北魏の軍人であり、字は万仁、本貫は秀容郡です。爾朱栄の甥として、北魏末期の動乱の時代に活躍しました。

生涯

若くしてその勇猛さで知られ、騎射を得意とし、自ら猛獣を討ち取るほどの腕前でした。また、敏捷性にも優れており、爾朱栄の狩猟に度々従い、人が容易に立ち入れないような難所にも率先して進み出て、その勇敢さを爾朱栄に賞賛され、重用されました。初期には平遠将軍・歩兵校尉などの役職を歴任し、着実に軍功を重ねていきました。

528年、爾朱栄が洛陽に入ると、爾朱兆は前鋒都督を兼任し、孝荘帝の即位後には、中軍将軍・金紫光禄大夫に任ぜられ、仮の驍騎将軍・建興郡太守となりました。その後も使持節・車騎将軍・武衛将軍・左光禄大夫・都督と昇進を重ね、潁川郡開国公に封ぜられました。529年には、上党王元天穆の下で邢杲の討伐に参加し、元顥が河橋に駐屯した際には、爾朱栄の命を受け、賀抜勝らと共に夜半に馬渚から西へ渡河し、元顥の子である元冠受を襲撃して捕らえるという功績を挙げました。さらに進軍して安豊王元延明を撃破し、元顥を敗走させるなど、その武勇を示しました。孝荘帝が洛陽に帰還すると、その功績により散騎常侍・車騎大将軍・儀同三司の位を受け、汾州刺史に任ぜられ、後に侍中・驃騎大将軍の位を加えられました。

530年、爾朱栄が殺害されると、爾朱兆は汾州から騎兵を率いて晋陽に拠りました。長広王元曄が北魏の皇帝に擁立されると、爾朱兆は大将軍の位を受け、爵位は王に進みました。爾朱兆は爾朱世隆らと共に洛陽攻略を企て、軍を率いて南下を開始しました。太行山脈に到達すると、大都督源子恭の部下である都督の史仵龍が爾朱兆に降伏したため、源子恭は退却しました。爾朱兆は軽騎で渡河して洛陽を襲撃し、孝荘帝を捕らえて永寧仏寺に幽閉するという暴挙に出ました。皇子を撲殺し、妃嬪を凌辱し、兵士にほしいままに掠奪させた後、洛陽に10日余り滞在し、孝荘帝を晋陽へ送りました。その後、孝荘帝を三級寺で殺害しました。

当時、河西の紇豆陵歩藩らが晋陽に迫っていたため、爾朱兆は晋陽で防衛にあたりましたが、度重なる敗戦を喫しました。そこで爾朱兆は高歓を晋州に呼び出し、三州六鎮の兵を率いさせました。紇豆陵歩藩が楽平郡に侵攻すると、爾朱兆は高歓と共にこれを撃破し、紇豆陵歩藩を秀容の石鼓山で斬りました。

531年、元恭（節閔帝）が即位すると、爾朱兆は使持節・侍中・都督中外諸軍事・柱国大将軍・領軍将軍・領左右・并州刺史の位を受け、録尚書事・大行台を兼ねました。また、天柱大将軍の内示を受けましたが、叔父である爾朱栄の最終官位であるとして固辞し、まもなく都督十州諸軍事を加えられました。

高歓が殷州を陥落させると、爾朱兆は爾朱仲遠や爾朱度律らと共に高歓を討伐しました。爾朱仲遠と爾朱度律が陽平に到着すると、爾朱兆は井陘に進出し、広阿に駐屯して、兵十万と号しました。高歓は風説を流布して爾朱氏の離間を図り、爾朱世隆の兄弟が爾朱兆を殺害しようとしている、または爾朱兆と高歓が組んで爾朱仲遠らを陥れようとしているなどと噂を流し、相互不信を煽りました。爾朱氏は互いに猜疑しあい、進軍することができなくなりました。爾朱仲遠らが撤退し、高歓が進撃して爾朱兆を討つと、爾朱兆の軍は大敗を喫しました。

爾朱世隆が爾朱兆の娘を皇后とするよう元恭に願い出ると、爾朱兆は喜び、爾朱世隆の兄弟たちと和解しました。532年、爾朱兆は爾朱天光・爾朱度律らと連合して、韓陵に大軍を集結させましたが、韓陵の戦いで高歓に敗れ、晋陽に逃れました。高歓が鄴から進軍して晋陽の爾朱兆を討伐すると、爾朱兆は秀容に敗走しました。533年、高歓はさらに追撃を行い、赤谼嶺で爾朱兆を撃破し、爾朱兆の軍は四散しました。爾朱兆は窮地に陥り、山中に隠れ、乗っていた馬を殺すと、木で首を吊って自害しました。高歓は彼の遺体を収容し、手厚く葬ったと伝えられています。

伝記資料

『魏書』巻75 列伝第63
『北史』巻48 列伝第36

もう一度検索