牝鹿

フランシス・プーランクのバレエ音楽『牝鹿』

『牝鹿』（Les Biches）は、フランスの作曲家フランシス・プーランクが作曲した1幕のバレエ音楽、およびそれを基にした管弦楽組曲です。タイトルは「若い娘たち」「かわいい子」を意味し、プーランクが24歳の時に手がけた作品で、初の合唱作品でもあります。

概要

1923年、プーランクはミヨーと共にイタリア旅行中、バレエ・リュスを率いるセルゲイ・ディアギレフから、現代版『レ・シルフィード』の作曲を依頼されます。滞在先のモンテカルロで作曲を開始したバレエは、マリー・ローランサンの絵画からインスピレーションを得ており、1920年代初頭のサロンにおける「優雅な宴」の雰囲気を再現しています。明確な筋書きはなく、タイトルはプーランクがヴァランティーヌ・グロスとタクシーに乗車中に思いついたとされています。

軽快で瑞々しい音楽はプーランクの個性が際立っていますが、彼自身はチャイコフスキーの『眠りの森の美女』のヴァリアシオン、ストラヴィンスキーの『プルチネルラ』や『マヴラ』の影響を受けたと述べています。バレエは1923年6月頃に完成し、翌1924年1月6日にモンテカルロでバレエ・リュスによって初演されました。振り付けはニジンスカ、装置と衣装はマリー・ローランサン、指揮はエドゥアール・フラマンが担当し、ヴェラ・ネムチノヴァが主役を演じました。

舞台は、青いソファが一つ置かれただけの白い部屋で、時期は夏の午後。3人の若い男性が16人の可愛らしい少女たちと戯れるという、無邪気な情景が描かれています。モンテカルロでの初演に続き、同年5月26日にはパリのシャンゼリゼ劇場でアンドレ・メサジェの指揮により再演され、いずれも好評を博しました。

初演当時から、批評家からは独特で透明感のあるオーケストレーションが高く評価されましたが、プーランクは円熟期に入った1939年にオーケストレーションの全面改訂を行っています。

全曲版

全曲版は、以下の9曲から構成されています。

1. 序曲
2. ロンドー
3. 舞曲
4. アダージェット
5. 遊戯
6. ラグ・マズルカ
7. アンダンティーノ
8. 小舞曲
9. 終曲

組曲版

プーランクは作曲から15年以上経過した1939年または1940年に、全曲版から5曲を選び、組曲版を制作しました。序曲と歌の付いたナンバーは除かれています。

1. ロンドー (Rondeau,Largo-Allegro)
2. アダージェット (Adagietto)
3. ラグ・マズルカ (Rag Mazurka,Moderato-Allegro molto)
4. アンダンティーノ (Andantino)
5. フィナーレ (Finale,Prest)

組曲版の演奏時間は約15分30秒です。

楽器編成

『牝鹿』は標準的な三管編成で構成されています。

ピッコロ: 1
フルート: 2
オーボエ: 2
コーラングレ: 1
クラリネット: 2
バスクラリネット: 1
ファゴット: 2
コントラファゴット: 1
ホルン: 4
トランペット: 3
トロンボーン: 3
チューバ: 1
ティンパニ: 2
打楽器: グロッケンシュピール、スネアドラム、ピッコロスネアドラム、プロヴァンス太鼓、シンバル、サスペンデッド・シンバル、バスドラム、トライアングル、タンブリン
ハープ: 1
チェレスタ: 1
* 弦五部

脚注

スコア（アルフォンス・ルドゥック社）のライナーノートが参考文献として挙げられます。

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