郭子儀

郭子儀（かくしぎ）

郭子儀（697年 - 781年）は、中国唐代の軍人・政治家です。玄宗、粛宗、代宗、徳宗の四代の皇帝に仕え、特に安史の乱での功績は大きく、唐朝の安定に貢献しました。その武勇と人徳から、国内外を問わず多くの人々に敬愛された名将です。

生涯

出自と青年期

郭子儀は華州鄭県（現在の陝西省渭南市華州区）の出身です。父は地方官を歴任した郭敬之で、決して低い身分ではありませんでした。しかし、幼少期から青年期にかけての記録は少なく、どのように官界入りを果たしたかは定かではありません。科挙の武挙に合格して武官としてのキャリアをスタートさせ、中年期以降に頭角を現した晩成型の人材でした。

武官としての台頭

玄宗の時代、53歳で横塞軍使に任命されたのが記録に残る最初の役職です。その後、天徳軍使、朔方節度右兵馬使と昇進し、着実に実績を積み重ねていきました。天宝14年（755年）に安禄山が反乱を起こすと、郭子儀は朔方節度使に抜擢され、討伐軍の指揮を執ることになります。これは大抜擢であり、彼の才能が大きく評価された証拠と言えるでしょう。

安史の乱での活躍

安史の乱では、郭子儀は唐軍を率いて各地を転戦し、反乱軍を鎮圧するために尽力しました。その卓越した軍事能力と戦略眼により、数々の勝利を収め、唐朝の存続に大きく貢献しました。特に、乱の平定に貢献した李光弼と並び称され、「李郭」と尊称されるほどの活躍を見せました。

乱後の活躍

安史の乱後も、郭子儀は吐蕃やウイグルなどの異民族の侵入を防ぎ、国境の安定に尽力しました。その功績により、汾陽王に封じられ、大尉・中書令などの高位を歴任しました。徳宗からは「尚父」の号を贈られ、その功績と人徳は皇帝からも深く敬愛されました。

人物像

郭子儀は、その寛容で温厚な人柄から、多くの人々に慕われました。敵対する異民族からも畏敬の念をもって遇され、その人望は非常に厚かったと言われています。また、皇帝からの信頼も厚く、その言動は常に尊重されました。権勢を誇りながらも朝廷から警戒されることもなく、その功績は一代を覆うほどでしたが、皇帝から疑われることもありませんでした。贅沢を極める生活を送っていましたが、そのことすらも咎められることはありませんでした。

死後

郭子儀は90歳という長寿を全うし、その生涯を閉じました。彼の死後も、その子孫たちは朝廷で活躍し、その名声は長く後世に伝えられることとなりました。

逸話・伝説

七夕伝説

郭子儀が若い頃、七夕の夜に天女（織女）に会ったという伝説があります。その天女から長寿と富貴を授かると予言され、その言葉通り、郭子儀は名将として富と名声を得て、長寿を全うしたと伝えられています。

李白との関係

一説には、郭子儀は若い頃に李白に命を救われたことがあったとされています。李白が罪に問われた際には、郭子儀が弁護に尽力し、死罪を免れさせたという話がありますが、これは後世の創作であるという説が有力です。

妾に関する逸話

郭子儀は多くの妾を囲っていましたが、ある時、醜い顔の大臣が訪ねてきた際には、妾たちを下がらせて会見したという逸話があります。これは、妾たちが大臣の容姿を笑うことで恨みを買い、家が危なくなることを恐れたためであると言われています。

関係者

李光弼：郭子儀の部下であり、安史の乱で共に活躍した名将。
郭曖：郭子儀の六男。代宗の娘を妻に持ち、「不痴不聾」の逸話で知られる。
郭皇后：郭曖の娘。憲宗の皇后となり、穆宗の母となった。
郭崇韜：郭子儀の末裔と称し、後唐の重臣となった。
廣澤尊王：郭子儀の末裔と称し、民間宗教の創始者。
郭侃：モンゴル帝国に仕え、西方遠征で活躍した武将。
汾陽理心：明の出身で、倭寇に捕らえられ日本に帰化した人物。

日本における郭子儀

日本では、郭子儀は長寿と富貴の象徴として、絵画などの芸術作品の題材として多く描かれてきました。円山応挙をはじめとする多くの画家たちが郭子儀を題材とした作品を残しており、その姿は現代にも受け継がれています。

主な作品

円山応挙「郭子儀図襖絵」
円山応挙「郭子儀祝賀図」
野村芥堂「郭子儀」
田村宗立「郭子儀像」
八重樫豊澤「南極寿星・郭子儀」
高村光雲「郭子儀」
鼎春嶽「郭子儀図」
* 柴田是真「郭子儀図」

郭子儀は、唐代を代表する名将であり、その功績と人徳は今もなお語り継がれています。彼の生涯は、多くの人々に勇気と希望を与え、歴史に輝く偉人として尊敬されています。

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