瑩山紹瑾

瑩山紹瑾（けいざん じょうきん）

瑩山紹瑾は、鎌倉時代に活躍した曹洞宗の僧侶であり、瑩山派（總持寺派）の開祖として知られています。諡号は佛慈禅師、弘徳圓明国師、常済大師。道元禅師を開祖とする曹洞宗において、瑩山は太祖と称され、その教えは現代の曹洞宗に深く根付いています。一般には瑩山禅師と呼ばれ、教団内では日本曹洞宗開祖で祖の道元を高祖承陽大師、瑩山を太祖常済大師としています。

生い立ち

越前国多禰（現在の福井県越前市帆山）の豪族、瓜生氏の長男として生まれました。幼名は行生。母親が熱心な帆山観音の信者であった影響から、幼少の頃より信仰心に目覚めたと伝えられています。また、道元の熱心な信者であった母方の祖母、明智優婆夷の影響もあり、8歳で永平寺に入り、徹通義介の下で沙弥となりました。13歳の時には、師の勧めで永平寺2世の孤雲懐奘に師事し、その最後の弟子として出家得度を果たしました。

活動

13歳で孤雲懐奘について得度した後、瑩山は修行の道を歩み始めます。弘安8年（1285年）には諸国行脚に出て、宝慶寺の寂円などを訪ね、比叡山で天台教学を学びました。弘安9年（1286年）には、紀伊由良の興国寺で心地覚心を訪ねています。正応元年（1288年）に宝慶寺の寂円を再訪し、永平寺に帰山しました。その後、正応2年（1289年）には、三代相論によって永平寺を下山した義介に従い、加賀の大乗寺に移りました。

永仁3年（1295年）、阿波の城満寺（現在の徳島県海陽町）に招かれ、同寺を開山、住職となります。ここでは眼可鉄鏡をはじめ、70人余りに授戒を行いました。この時期に、義介から嗣法を受けたとされています。永仁6年（1298年）には、義介に呼ばれて加賀の大乗寺に戻りました。正安2年（1300年）には、義介の代理として大乗寺の修行僧に対し釈尊以来五十二祖の機縁を提唱し、この講義は後に『伝光録』としてまとめられました。正安4年（1302年）には、大乗寺の2世となっています。

応長元年（1311年）に大乗寺を明峰素哲に譲り、加賀常住寺を開山。正和2年（1313年）には能登の永光寺を開山しました。元応2年（1320年）には、後醍醐天皇より「十種の勅問」が下され、これに奉答したとされています。元亨元年（1321年）には、藤原行房の書による「總持寺」の勅額と紫衣を天皇から賜り、能登總持寺を開山しました。元亨2年（1322年）には、後醍醐天皇より總持寺に「日本曹洞賜紫出世之道場」の綸旨が下されました。元亨4年（1324年）には『瑩山清規』を著わしています。正中2年（1325年）に永光寺にて示寂しました。

没後、安永元年（1772年）に後桃園天皇より「弘徳円明国師」の国師号が、明治42年（1909年）には明治天皇より「常済大師」の大師号が宣下されています。

太祖忌は、毎年8月15日（新暦換算で9月29日）に、道元とともに両祖忌として法要が行われ、50年に一度ずつ遠忌が總持寺で開催されています。

思想

瑩山の思想は、道元の禅の教えを基盤としながらも、密教的な要素を取り入れた点が特徴です。道元は祈祷や祭礼を必ずしも否定しませんでしたが、その対象は寺院や僧侶の安全祈願が主でした。晩年には、寺院外での加持祈祷を禁じています。一方、瑩山の師である徹通義介は、宋に留学して密教の祈祷を学び、仏殿を建て礼仏を取り入れるなど、積極的な改革を行いました。この改革は、道元の遺風を慕う一派との対立を生み、「三代相論」と呼ばれる内紛に発展しました。

瑩山は、師である義介の遺志を継ぎ、道元以来の出家修行に加え、密教的な加持、祈祷、祭礼などを取り入れました。永光寺を伝道の拠点とし、下級武士や商人に禅を伝え、信徒を拡大しました。瑩山が依拠した寺院が、白山系の天台寺院であったことや、兼修禅的傾向の強い法燈派の僧らとの密接な関係が、この思想形成に影響を与えたと考えられています。

弟子

瑩山の門下からは、四哲と呼ばれる明峰素哲、無涯智洪、峨山韶碩、壺庵至簡をはじめとする多くの俊英が輩出し、曹洞宗興隆の基礎を築きました。また、晩年の道元は女性の出家修行に否定的でしたが、瑩山は積極的に門下の女性を住職に登用し、女性の成道を推し進めました。

平成27年（2015年）現在、日本伝統宗派最多の寺院数を持つ曹洞宗の隆盛は、瑩山とその門下によるものであり、全寺院の8割は元は總持寺系と言われています。このため、瑩山は第4世でありながら、釈迦、道元と共に一仏両祖として尊崇されています。

著書

瑩山は多くの著作を残しており、その思想を伝える重要な資料となっています。

主な著書として以下があげられます。

『伝光録』
『坐禅用心記』
『瑩山清規』（『洞谷清規』）
『三根坐禅説』
『信心銘拈提』
『十種勅問』（『十種疑滞』）
『秘密正法眼蔵』
『洞谷記』
「洞谷山尽未来際置文」
『瑩山和尚語録』
「仏祖正伝菩薩戒教授文」

これらの著作は、瑩山の禅思想を理解する上で欠かせないものです。

関係文献

瑩山に関する研究も数多く行われており、その生涯や思想について深く知ることができます。

『總持寺開山太祖略伝』
『瑩山禅師 伝光録』（横関了胤校訂、岩波文庫、1944年、復刊1992年）
『瑩山禪師傳』（成田芳髄著、交友社、1948年）
『瑩山 日本の禅語録　第5巻』（田島柏堂訳著、講談社、1978年）
『瑩山 - 日本曹洞宗の母胎 瑩山紹瑾の人と思想』（佐橋法龍著、相川書房、1975年／『人間瑩山 第2版』（春秋社、1979年）
『太祖瑩山禅師』（東隆眞著、国書刊行会、1996年）
『總持寺の瑩山さま』（大本山總持寺出版部、1999年）
『瑩山紹瑾の生涯 - 曹洞宗太祖・常済大師 : 高祖道元の衣鉢を弘布した名僧』（百瀬明治著、毎日新聞社、2002年）
『瑩山　現代語訳洞門禅文学集』（飯田利行編訳、国書刊行会、2002年）
『瑩山禅師伝』（宮地清彦著、曹洞宗宗務庁、2011年）
『越前瑩山禅師ものがたり - 曹洞宗大本山總持寺開祖』（大浦和子著・発行、2013年）
『慈悲の人瑩山禅師を歩く』（百瀬明治、杉田博明、粟津征二郎共著、西山治朗撮影、学研パブリッシング、2014年）

科研費報告書

『瑩山教学の総合的研究』（光地英学著、駒澤大学、1982年）

記念論集

『瑩山禅師研究 - 瑩山禅師六百五十回大遠忌記念論文集』（瑩山禅師奉讃刊行会、1974年）
『瑩山禅』1-12（山喜房仏書林、1985年）

参考文献

『瑩山禅師伝』（宮地清彦著、曹洞宗宗務庁、2011年）
『禅学大事典』536p（大修館書店、1979年）

脚注

特になし

関連項目

御誕生寺

外部リンク

總持寺＞瑩山禅師について・太祖・瑩山紹瑾禅師について
* コトバンク＞瑩山紹瑾

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