甘露の変 (曹魏)

甘露の変

甘露の変は、中国三国時代の魏において、皇帝曹髦と権臣司馬昭との間で発生した権力闘争であり、最終的に司馬昭が曹髦を殺害することで終結した政変です。

背景

正始10年（249年）の高平陵の変以降、魏の実権は司馬懿、そしてその子の司馬師・司馬昭へと移りました。甘露3年（258年）から甘露5年（260年）にかけて、皇帝曹髦は司馬昭を相国に任じ、晋公に封じ、九錫を加えるという内容の詔を二度にわたり発しました。司馬昭は一度目の詔には応じませんでしたが、二度目の詔にはすぐには態度を明らかにしませんでした。九錫は、権臣が皇帝の地位を簒奪する前兆とみなされていたため、曹髦は司馬昭に対して強い不満を抱き、反撃の機会を窺うようになります。

経過

甘露5年5月戊子（260年6月1日）、曹髦は翌日に百官を召集し、司馬昭を罷免しようと計画しました。事前に、冗従僕射の李昭らに兵を整え凌雲台で待機するよう指示するとともに、王沈・王経・王業の3人を呼び、司馬昭を罷免する詔を見せました。曹髦は「司馬昭の野心は明らかであり、黙って屈辱を受けるわけにはいかない」と憤慨したと言われています。しかし、王沈と王業は宮殿を抜け出し、曹髦の計画を司馬昭に密告しました。司馬昭は、中護軍の賈充らを召集し、宮殿へ進軍して鎮圧の準備を始めました。曹髦は計画が露見したことを知り、宮人300人余りを率いて司馬昭の邸へ攻め込むことを決意します。

司馬昭の異母弟である屯騎校尉の司馬伷は、宮殿の東門で偶然曹髦と遭遇しましたが、曹髦が激しく怒鳴ったため、司馬伷の部下は散り散りになりました。中護軍の賈充は軍を率いて南門で曹髦と遭遇し、賈充は配下の成済に曹髦を殺害させました。成済の剣が曹髦の胸を貫き、曹髦はその場で死亡しました。当時、曹髦はわずか20歳でした。事件から20日後、司馬昭に対し、賈充を弑逆の罪で処刑すべきとの声が上がりましたが、最終的に司馬昭は成済に罪をなすりつけ、成済の一族は処罰されました。

また、司馬昭の同母弟である安陽侯司馬榦や参軍の王羨らは、曹髦の計画を聞き、宮殿に入り鎮圧しようとしましたが、閶闔門の守備についていた司馬昭の部下である満長武と孫佑らが進入を阻止したため、司馬榦らは東掖門から入ることを余儀なくされ、司馬昭と合流できませんでした。司馬昭は孫佑の一族を処刑しようとしましたが、従事中郎の荀勗が、弑逆の罪を犯した成済兄弟ですら一族は処刑されていない点を指摘したため、孫佑は免官の上で庶民に落とされました。一方、司馬榦の甥である満長武は刑死し、その父である衛尉の満偉は免官の上で庶民に落とされました。当時の人々は、この処遇を不公平だと考えました。郭太后は司馬昭の上奏を認め、成済の三族を皆殺しにしました。

影響

甘露の変の失敗により、曹髦は司馬昭に殺害され、朝廷における曹氏の勢力は完全に衰退し、司馬氏が朝廷を掌握する道をさらに進むこととなりました。曹氏を支持する勢力は次第に消滅し、司馬氏による簒奪の目標が近づき、後の司馬炎による西晋建国へと繋がりました。曹髦殺害後、郭太后は曹髦を廃位して庶民に落とし、王経とその親族は処刑されました。翌日、司馬昭の叔父である司馬孚ら重臣は曹髦に同情を寄せ、親王の礼をもって洛陽の北西にある瀍河と澗河のほとりに埋葬されました。葬列の車はわずか数台で、旗もありませんでした。人々は集まって「これが先日殺害された天子なのか」と囁き、顔を覆って涙を流し、悲しみを隠せない者もいたと言われています。

賈充は甘露の変を経て司馬昭から重用され、蜀漢討伐、西晋への禅譲、呉討伐といった一連の出来事に関与しました。司馬昭は、曹髦殺害によって生じた悪影響を払拭するために、蜀漢討伐へと動いたと考えられています。

東晋の時代、明帝は宰相の王導から甘露の変について詳しく聞き、恥ずかしさのあまり顔を覆い「もしお前の言う通りなら、どうして帝位を長く保つことができようか」と述べたと言われています。

もう一度検索